2-2獣人が集う家
「この建物の木はハティさんとかも知ってると思うけど獣人の森付近に生えてる木なんだ。獣人が安心して集まれるようにって前国王と獣人の森の村長が協定を組んでこの建物を作ったんだって」
不思議そうな目で建物をじっと見ていることに気づいたエリスは、あたかも知りたいこと全てを知っているかのように話し始める。
否、獣人にとって初めて人の街に、獣人の森にしか生えない木を見たら、聞くことは一つしかない。故に聞かれる前に話したのだがーー
「で、この中に他の獣人もいるってわけ。どう?この建物の中に入ってみない?仕事とかも見つかるかもだし」
そう言われ「わかりました」というハティだが、一向にして建物にはいる気配がない。やはり獣人にとって安心の場所と言えど人の街にあるため少し怖いのだろうか。
しかしそれは否だ。怖いのならば体を震わせているが体は決して震えていない。ましてや今すぐに入ってもおかしくはないほど冷静な表情も浮かべている。
ならば何故入らないのか、それは簡単なことだった。
「スコルさん、いつまでそこにいるんですか?早く入りますよ」
「離れて~って言ったのハティのくせに~?」
「う、うるさいですね!それはそれ、これはこれですよ!!」
かなり嫌な事をされ不機嫌状態となったハティから意外な言葉が出てきたが、やはり姉妹。こういう時は流石に一緒に入りたいのだろう。
そして意外な言葉を聴いたスコルは驚きよりもハティの先程と今の言葉が矛盾してる事にニヤつき、少女の近くに寄っていた。
二人揃ってその建物に入ると、獣人が安心できる場所だからか、様々な種類の獣人がその場でくつろいでいた。それだけ心が穏やかになるのだろう。それは少女達もまた同じ……ではなかった。
確かに少女達も獣人。故にその場にいるだけで心が洗われるような、とても居心地のよい日向にでもいる感覚にはなるのだが、それは一瞬だけだったのだ。
「いらっしゃい、ここは獣人が集う家……ってこの匂い……お前達……人狼かい!?」
まるで飲み屋のように家の奥にカウンターがあるのだが、そこに立つ一人、いや一匹の狐が……それも毎日手入れをしているのであろうふわっとした金色の尻尾を九本持ち、喋ることができる狐が目を見開き驚きの声を上げた。
更に連鎖するように、くつろいでいた獣人らが不快に感じるほど人狼である少女たちを、殺気を含んでいる目で睨みつけたのだ。
「ちっ……帰りな!!」
「早く帰らないなら通報するよ!」と続けざまに言う狐。どうやらここは一旦引くしかないようだが、獣人同士だと言うのに何故か人狼を嫌っているようだった。
しかし、その理由は明白である。
少女たちがいる地域人の街に関係すること。この街では人狼は疎まれ、街に入った瞬間に捕まり殺されてもおかしくはない。
そしてここでは人狼の存在が罪だ災いだと言うものも多く、そんな人狼を嫌う人が多い場所に浸ってしまったからこそか郷は郷に従い、人との関係を保つ為同胞ですらも差別をしてしまうようになったのだ。
やむを得ず、とぼとぼと外に出る少女達の目にはニコニコとしたエリスが立っていた。
一瞬少女たちの存在を否定されたことに笑みを浮かべている悪魔のように見えるが、断じて彼女はそんなことはしない。ならば何故笑みを浮かべていたか。
彼女は人、それも今日はオフ。つまり仕事でもなんでもない上、一般人状態。そんな彼女が入れば問題も起きかねないため建物に入っていないのだ。
故に双子達に良い場所を教えたと自分一人で思い込み笑みを浮かべている。
いやそれは否だ。彼女に秘めたるものは復讐。その為の第一歩がいとも容易く成功したから笑っているに違いない。
「ど、どうでした……?」
「追い出されました」「追い出された~」
「…………ええええ!?」
わざとらしい驚きのつかの間。少女達の後ろから一人の声が耳に届いた。