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双子獣人と不思議な魔導書  作者: 夜色シアン
第二幕・牙を穿て
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2-1超絶不機嫌

「来いツクヨミ」


「はっ!ここに」


 常に寒く冷たい国の片隅、一つの“門”の先に二人はいた。


 一人は全身黒タイツでも着ているのではと思うほど黒い衣服を纏い、顔に縦筋の深い切傷の痕がある者。


 その容姿からか女性とはかけ離れた様な男性の雰囲気が出ているのだが、少し膨らんだ胸部に、傷さえ飾りかと思う綺麗な顔立ち、そして肩までつくボブショート程に整えられた艶のある黒髪があるからこそ女性だと見て取れる。


 そしてもう一人はツクヨミと呼ばれた幼くも背が高い男。そんな彼は、男にしては声は高く、隣にいる女性同様、寝癖が目立つ短めの黒髪に黒いローブと黒が印象的になる格好をしていた。


「“あれ”はどうなってる?」


「それがまだ……」


「そうか、だがわかっているな?見つけ出さねば死に至るというのが」


「承知の上です」


「ならば一刻も早く見つけてこい」


「はっ!」


 短く返事を発した直後、ヒュッと風を切るかのごとく素早い動きでその場を後に……門を潜り薄暗く、また常に寒く冷たい国ーー死者の国と呼ばれるヘルヘイムの片隅に現れると更に素早い動きでヘルヘイムをも後にした。


 ーー時同じくして双子の獣人は……


「おーいもう昼だよ〜?起きてよ〜ハティさんスコルさん」


「あと五分~」


「寝かせて~」


「ください~」


 黒髪に黒毛のふわっとした獣人ならではの尻尾と耳を持つ人狼、ハティと茶色の毛の人狼スコルを起こそうと、身体を揺さぶるのは一国の騎士エリス。


 しかし少女達は一向に起きることは無い。


「……もういい加減に起きる!色々と持ってきたし街案内したいんだから!」


「うぅ……おはよ〜」


 布団を引き剥がされ、目を覚ましたのはスコル。だがこのままだと再び寝てしまいかねないほど、意識が朦朧とし、瞼が垂れかけている。


 今は昼。さすがに二度寝はさせまいと強引に起こしてやるが、ハティが起きる気配がない。


 というのも、前日の夜に酒を飲み暴走するほど酔ったのだ。仕方ないことではある。しかし今日も今日とてやることが沢山ある。ならば無理にでも起こさなければならないのだ。が、身体を揺さぶっても、布団を奪っても夢の世界にいるようで起きる気配が全くない。


「ハティが酒飲んで寝ると中々起きないんだよ~凄い時は一日寝てた時もあるくらいだから~」


「い、一日!?」


「冗談だよ~本当は半日~」


「それでも寝すぎなんじゃ!?」


 相変わらずのふわっとした口調で話すスコルは、嘘を言いつつも未だに寝ているハティをエリスと一緒に起こすことに。


「ハティ~起きて~」


「ハティさん!起きて起きて!!」


 何度もゆさゆさと身体を揺らすものの、やはり起きる気配はなく、耳元で叫ぼうが尻尾がぱたりと反応するだけ。ましてや何度も起きてと言えばあと五分、あと五分と眠たげな声でいい再び眠りつく。


 もはや起きているのではと思うが、動物や人ならではの自然的な行動のため、未だハティは夢の中だ。


 他にも身体をくすぐったり、普通ならば絶対に起きるであろう嫌がらせでも、ちっとも起きる気配はない。


 それから数分かけ起こそうと必死に頑張るものの、やはり起きることは無くとうとうスコルは最終手段を取る事にした。


 それも何故か、ハティの後ろに回り、手をわきわきといやらしく動かし、ニヤついている。


 だが、これから起こることはそんないやらしいものではなくーーいや、獣人にとってはそういう意味なのかもしれないが、それは獣人にしかわかる事は無いだろう。なぜならーー


「て〜い」


「ふやっ!?!?」


 獣や獣人にとって大切なふわふわな獣耳に指をズボッと入れられるのだから。


「もう一回~」


「っ!だぁぁぁぁ!!」


 一度で起きたのは知れているが、獣耳が柔らかな綿の様にふわっとし、指を優しく包み込む感触はたまらない。だからこそもう一度指を入れようとしたその刹那。目に見えぬ速さで手から逃れ、一瞬で十字固をこれでもかと実の姉妹に喰らわせていた。


「し〜ん〜じゃ〜う~!」


「なんで!スコルさんはっ!嫌なことをするんですか!!」


「怒る前に解放して~!」


「ちゃんと謝るまで離しませんよ!!」


「わかったから~!ごめんなさい~!」


「許しません」


「なんで~!」


「嘘です」


「嘘なの~!?」


 スコルが十字固の痛さで目尻に涙が溜まった所でようやく解放……かと思いきやビシッと脳天に軽くチョップが当てられ、「あうっ」とスコルの口からチョップの衝撃でか、その言葉が発せられた。


「お見苦しい所を見せてしまい申し訳ありませんエリスさん」


「い、いえいえ。仲が良さそうでほのぼのしちゃったし目の保養にもなったから見苦しくはなかったよ」


「そうですか……所でなんでスコルを止めてくれなかったんです?」


「い、いや何するのか知らなかったし」


「恐らくいやらしい手つきとかニヤついた顔浮かべてたと思うんですが?」


「そ、そういえば……言われてみればそうだったような……ってハティさんすっごい不機嫌?」


「それはそうですよ?寝てる所を一番嫌な方法で起こされたんですから。……まぁ何回かやられた事はあるので慣れてはいますけど」


 獣人にとって一番大切な耳を、まるで物の様に弄られるのはとても嫌な行為。


 勿論普通なら許すわけもない。しかし姉妹故、そういうことが何度も起こる。


 だからこそ許しはしたものの不機嫌なままなのだ。


「そ、それはそうと街案内するよ。昨日詳しくは教えれなかったところもあるし」


「それとこの鞄。昨日渡し忘れてた」と大きめの鞄を、魔導書がすっぽりと入るほどの大きな鞄を渡し、少女達は宿を後にした。


 だが時が経つにつれて、先程まで感じていたほのぼのとした双子の雰囲気とは裏腹にハティの苛立ちがかなり目立ち始める。


 それも許さなければよかったと思う程に耳に指を入れられた事に苛立ちを覚え、きつい言葉を放つほど。


 だが、心に秘めているスコル大好き!という本心は全く変わることは無い。ただ単に耳に指を入れられた事に怒っているだけである。


 フードを深く被り外に出ると、案の定人、人、人と前を見ても横を見ても後ろを見て……いや後ろは宿が建っているため違うが、周囲にはやはり人しかいない。流石は人の街(ミズガルズ)といった所だろうか。


 そんな人だらけの風景に少女達は驚きと少しの恐怖を覚えることとなるが、一々怯えてしまっては今後が大変だと気持ちを切り替え、エリスの案内の元街中を探索し始めた。


「そうそう、人の街(ミズガルズ)に住む獣人が集まる場所があるんだ!最初にそこに案内するよ!」


「おお~楽しみ~」


 と案内の元歩き続けると獣人ならば絶対にわかる、とある木で組み上げられたであろう和風な建物が建つ場所にたどり着く。


 その建物の木材は獣人の森(ミュルクヴィズ)周辺にしか生息しないと言われているオークの木。


 というのも獣人の森(ミュルクヴィズ)周辺に生息するオークの木は、他の木とは違い耐熱性にも優れた特別な木。防水加工も施せば完璧に建築素材として天下を取れるほどの優れものである。


 だがその木を伐採できるのは獣人の森(ミュルクヴィズ)の村長か、特別に伐採許可が下りた者のみ。つまり誰しもがその木を取ることはできない高級品。


 そんな高級の木が使われた家がなぜ人の街(ミズガルズ)に建っているのか、それはエリスがよく知っていた。

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