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双子獣人と不思議な魔導書  作者: 夜色シアン
第一幕・擬態者の核を砕け
14/85

1-13Full Moon Night①

 ーー双子の人狼ハティ、スコルは宿の風呂で身体の汚れを落とした後、自室で旅の疲れを癒していた。


 それも明日の行動を考えながら。とはいえ少女達に課せられた二つ目の試練は達成済み。となれば次なる試練は魔導書に記されており、ほぼ行動は決まっているようなものだった。


 荷物から魔導書を取り出して、四ページを開けばやはり次の試練は綴られている。


 試練の内容は『牙を穿て』。大型の狼のような魔物のシルエットがあることから、これも討伐系だと予想できる。


 しかし、しかしだ。前回の『擬態者の核を砕け』と同様に情報が少なすぎる。


 魔導書に綴られるのはシルエットと試練名のみ。この二つから試練を達成しなければならないとは、なんと理不尽な試練なのか。


 頼りとなる〈導きの妖精(サーチ・フェアリー)〉もこの場所では呼ぶこともできない。となれば――


「――明日……エリスさんの所に行きますか」


「急だね〜。でもその前に無視されすぎて、スコルちゃん嫉妬〜」


「はぁ……そんなに触りたいなら、ちゃんと確認とってからにしてくださいね?」


 明日は試練のことも兼ねて、唯一少女達が人狼だと知っている一国の騎士、エリスに頼る他ないだろう。


 そう思っていた矢先、仲直りをした少女達の部屋の戸から軽い音が響く。


 宿の部屋に訪問など、たかがしれてそうだったが、聞こえてきた声は宿主ではなく、


「ハティさん、スコルさん。ここに来たお祝いで色々持ってきたから入れてー」


 その声は二人が数刻前まで聞いていた一人の人間の声。急いで戸を開ければ、双子が人の街(ミズガルズ)に足を踏み入れた祝いをしたいと、色々持って立っているエリスがいた。


 “噂をすれば影がさす”とはまさにこの事だろう。


 しかし、エリスは祝い目的で来た訳では無い。


 というのも彼女が、彼女だけがこの人の街(ミズガルズ)においてハティ達の正体を知っているから。


 否、もっと別な理由だ。人が疎む存在である人狼の監視。


 この理由が一番だろう。


「何持ってきたの~」


「まあまあ、すぐ見せるから」


 部屋の中へと入ると近くにあった机の上に、背負ってきた大きめの革の鞄と荷物袋をどしっと置く。そして置いた鞄の中から一枚の紙を取り出した。


「まずこれ、住居許可書。人狼じゃなくて犬系として許可書出してもらった証だよ。他にもーー」


 と、鞄ではなく荷物袋からも、祝い品として酒や食物などが出て、いつの間にか机の上は祝い品だらけに。さらに持ってきた荷物袋もその中に入っている。


「こ、こんなにいいんですか……それも袋まで……」


「うん、ハティさんとスコルさんが持ってきたのじゃ大きすぎるだろうしね。ちなみにこの袋はどこにも売ってないから」


「ま、まさか……!」


「そう、そのまさーー」


「盗んできたんですか!?」


「いや、違うよ!?絶対わざとだよね!?」


「え、違うんですか……」


「なんでそんな悲しい顔するの!?私一応国の騎士だよ!?」


 と言うが今の彼女は警備交代により仕事を終えたため私服。それも普通に街中を歩いていそうな若い女性の雰囲気がでており、国の騎士だと言われても全くわかることは無いだろう。


 しかし、しかしだ。私服でも仕事終わりでも騎士としての威厳は常に保たねばならない。故に国の騎士は一日ずっと働いていると言っても過言ではない。


 とはいえ、今のエリスは、完全に仕事を気にしない女性。双子の天然なボケに必死なツッコミと、これらの説明をしていた。


「さてと今日は呑むぞぉ!」


 深夜の宿なのにも関わらず、彼女は騒ぐ。だが不思議と苦情は来ない上、宿主も来ることは無い。これはエリスが魔法で防音でもしているのだと……そう思うしかない。でなければ外まで声が響いたりして色々と迷惑がかかるからだ。


 だが真実は違う。獣人として迎え入れた女将と先客がいなくなっているからこそ、どんちゃん騒ぎができるのだ。


 それを知らない双子達に、このために持ってきた木のコップに酒を三人分の注ぐ。


 トポポポッとコップに注げば、金色の液体が顔を出しシュワっとした炭酸に似た泡を作る。されどもその泡は決して消えることなく金色の液体の上に鎮座し続けまるで雲のようにふわふわと浮いていた。


 極たまに酒を飲むスコル、ハティにとってそれは初めて見る物だった。


「こ、これは……?」


人の街(ミズガルズ)名産のネクタールだよ?ってハティ飲まないの?」


 エリスとスコルはすぐさま木製コップを手にするものの、ハティだけは耳を伏せ、嫌そうな顔をうかべるだけ。待てども一向に手は伸びない。



「いや、あの……」


「もしかしてお酒嫌い?」


「い、いえ!そういう訳では……」


「じゃあ飲もう!」


 ハティの乗り気ではない様子に、連れないなぁとハティの目の前に、酒が注がれたコップを差し出す。


 だがやはり嫌そうな表情は浮かべ、耳は伏せたまま。されどもこうして目の前に置かれ期待の目で見られると、コップを持つ他なかった。

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