1-12フォルネウス
「そうだ……もう遅いだろうし家に来ないか?美味しいお菓子と白い飲み物を出してやるぞ?」
「って何堂々と誘拐しようとしてるの!?フォルネウスさん!?」
「熟女は黙ってろ」
双子の獣人に危機が迫っていると感じたエリスは二人を守るかのようにして話の間に入り、一見危ない青髪のフォルネウスを止める。
しかし、間に入られた事からか、声色を変え、まるで激怒でもしているかの如く低い声で、そしてエリスを睨みその言葉を放った。……否、間に入られたからでは無い。外見だけでエリスを毛嫌いしているだけだ。
勿論、騎士たるもの、そんな脅しまがいの物には決して屈することはなく。
「おいこら、ロリコン。セクハラで捕まりたい?って私は十八歳だっての!」
「十五歳超えたら熟女だろ」
「ほほう言ってくれるねぇフォルネウスくん。よし、ちょーっと手を出してくれるかな?」
「ふん、誰が熟女の言葉なぞ――」
どちらも引く気はなく口論が始まってしまった。
セクハラで捕まえようにもフォルネウスはゼウス以外からは捕まることがない程素早く、たとえ捕まえても何故か拘束を解いてしまう。それを経験しているからこそ、余計な事はせず口論になっているという訳だ。
だが、彼女には秘策がある。それはこの口論から抜け出すことも彼を捕まえることも出来る秘策。
その秘策は“もう既に始まっていた”
「おらおらぁぁぁ!」
突如、夜の街中からとてつもなく威勢の良い大きな声が響き渡る。その場にいる誰しもが知る筋肉が付きまくりの男、ゼウスの声だ。
声が聞こえてから僅か数秒もせず少女達の前に土埃と共に現れるが、それだけの体力を使い息を荒らげていないのは謎に充ちている。
「フォルネウス!またお前か!」
「俺はそこのじゅーー」
「ゼウス先輩!早く捕まえてください!その人セクハラと誘拐の罪があります!」
「おいまて、誘拐はしてないぞ」
「セクハラは認めるんだな!?」
またもフォルネウスが熟女と言おうとするが、それを隠すかのように女騎士がフォルネウスが犯そうとしていた罪を言葉にして吐き捨てると、すぐさまゼウスに拘束され留置所に連れてかれるのだった。
しかし秘策があってこそゼウスをここに来させ、フォルネウスを捕まえることはできたものの、ハティ達はエリスの秘策は知ることは無い。
とはいえエリスが即座に思いついた秘策はとても簡単なものだ。
城の一部に過ぎない見張り台を指さして言うが、街の入口からそこまではかなりの距離がある。ざっと十キロ程。しかしハティ、スコルには見張り台の上に誰かいるとわかっても、人物を特定できる程視力はない。
普通の人ならば尚更見張り台の上に誰かいることですら捉えることはできないだろう。
だがエリスはそれを可能にしてみせていた。
元々彼女は人並外れた視力の持ち主、例え二十キロ程距離が離れていようともその先にあるものを見ることができる千里眼を持っている。
「――さてと、改めて宿まで案内するよ」
体力不足のエリスにも凄い取り柄がある事を実感しつつ、宿へと導くため先頭を歩くエリスについて行く。月明かりでよく見える街のことなどを聞かされる。
それから数分もの時が経った頃、ようやく宿へとたどり着いた。
「ここが宿だよ。ちょっと話つけてくるね」
目の前に存在する宿は、年季が入った建物。しかし宿と言われれば宿にも見える木造の宿。
そんな木造の宿に独りでに入る騎士は、暫く宿主との世間話を繰り広げ、暫くしたころ双子は獣人族として宿主に迎えられた。
その際、少女達の為にかエリスが基礎魔法が書かれた四枚の紙を渡す。
パラッと見れば〈火〉、〈水〉、〈風〉、〈地〉と、魔法の詠唱文がずらりと書かれていた。
それに、読みやすい程に綺麗な文字で、〈擬態〉と違い読めない文ではない。だからこそなのか魔法を唱えることが出来るハティは、それをありがたく受け取りエリスに別れを告げ笑顔で二人の部屋に入っていった。
一方、“作られた”笑顔で見送るエリスは、堪えていた笑いを止めきれることが出来ず、小さく笑いつつ、
「フフ……ハハハ……人狼如きが安心してここで暮らせるなんて……思わないことですよ」
と宿を背に城の方へと帰っていった。
現在の開放魔法リスト
二ページ〈誘導の妖精〉
三ページ〈擬態〉
使用可能魔法リスト
〈火〉
〈水〉
〈風〉
〈地〉