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双子獣人と不思議な魔導書  作者: 夜色シアン
第一幕・擬態者の核を砕け
12/85

1-11解放

「……今日一日話聞きませんから」


「ごめんなさい~」


「それじゃあエリスさん。失礼しますね」


「あ、はい」


「ハティ~無視しないでよ~」


 スコルはハティの怒りの声を聞くとすぐさま謝り、ハティの機嫌を戻そうとする。しかし当の本人は本当にスコルの言葉を聞くことは無く、無視を続けつつ、部室を出るのだがーー


「あ、ハティさん!スコルさん!ちょっといいかな?話忘れたことがあって」


 とエリスが人狼の双子を呼び止め、部室へと引き戻し、忘れていた話とやらを話し始める。


 それに話す場所はハティ達のことを考えてのこと。ここならば壁は厚く熱血な漢騎士、ゼウスよりも大声でなければ外に聞こえることがないからだ。


「話とはなんでしょうか?」


人の街(ミズガルズ)に在住する件とか色々かな。他の所もそうだと思うけどここで人以外が住むとなると、許可証が必要になってね?色々問題になったら困るでしょ?だからこっちの方で許可証を作って宿に案内するよ」


「あ、ありがとうございます……でもいいんですか?」


「気にしない気にしない!あ、でも人狼だっていうこと、私以外に知られたらダメだからね?特にさっきのゼウス先輩は口軽いから……それじゃあ先に宿に案内するね!」


 にこにこと若干心配性なエリスの引率の元、ようやく狭い部屋を後にし、城からも無事出ることが出来た。


 外に出れば赤みがかかってきた夕方、だが夕方といえど人で溢れかえっている。だからこそハティ達は要注意しなければならない。


 人が多ければ多いほど、危険に見舞われる可能性が高くなるからだ。それ故にフードを被りエリスに隠れるかのようにして後ろを着いていき街の中を歩いていく。


「そう言えば、ハティさん達の荷物ーー」


「「あっ!」」


 歩いていると唐突にエリスが尋ねてくる。それもそのはずだ、なんせ少女達は“持ってきていたはずの荷物が手元にない”のだから。


 というのも、〈擬態(カモフラージュ)〉を使った際に、魔導書ごと草原のど真ん中に置いてきてしまっているからだ。


「荷物は多分、あの男が来た時に!それも草原!どうしましょう!?」


「えぇ……ゼウス先輩……まぁ、わかったよ。先にそこに向かおう?」


「あ、ありがとうございます!」「ありがと~」


 直ぐに宿への案内から荷物回収へと変更し急いで草原へと――ゼウスと初めて出会い身柄を拘束されてしまった場所へと向かった。


 勿論、フードが脱げない様に片手でフードを抑えながら走……らなかった。いや、正確には人の街(ミズガルズ)の外に出た瞬間から、走れなかったと言うべきだろう。


 というのも走って外に出る頃には、エリスの体力が尽き、息があがってしまっていたのである。


「も、もうダメ……走れない……」


 ここまで体力がないというのに、国を守る仕事をしていることに驚きだ。いやそもそもゼウスのようにあちこちを走って罪ある人を捕まえることは任されていなく、監視塔から外を見張るのがメインの仕事だったのだから仕方はないだろう。


「す、少し休みましょうか……?」


「い、いえ……急ぎましょう……ゆっくり急ぎましょう……走りという名の歩きで急ぎましょう……」


 体力は尽きたエリスだが、ハティ達のことを思いゆっくりながらも早く歩き、何とか完全に日が暮れるまでには荷物を無事回収。だが、街に戻る頃には大地が日を飲み込み、辺りは闇色に支配されていた。


「ーーあ、あの……すっごいこっち見てる人いるんですが……」


 改めて人の街(ミズガルズ)に入ろうとした時、街への入口近くに周囲を照らす炎に照らされた、深淵のごとく深く青い髪を持つ一人の細い男が、焦げた茶色い瞳でこちらをじっと見続けていた。


 聞けばハティ達と同様に捕まってた人らしく、だからこそ気にせずに街の中へと入ろうとした瞬間、少女達を見る目付きが変わり、気味の悪そうな笑いとともに彼の頬は釣り上がり不気味に笑い始める。


 しかし、彼の目は何かを企むような目付きではなく、ハティ、スコルの身体を舐め回すかの如く気持ちの悪い目線だ。どうやら一種の変態……といったところのようだ。


「子供がこんな時間まで外を歩いちゃダメだろう?」


 男にしては珍しい肩まで伸びきった長い青い髪を身体ごと揺らし、ゆっくりと近づいてくる。もはや今心配して掛けた声とは裏腹な表情と目つきでハティとスコルは背筋が凍りついていた。

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