1-10モフモフ
「それじゃあ魔法を解除してもらっていいかな?大丈夫。さっきの先輩と違って何もしないから……ね?」
淡く光る小さな緑色のガラス石を手にするエリスは、優しく言葉をかけてくる。
全ては事実を引き出すためでしかない言葉。しかしこの一押しで、ハティは〈擬態〉を解いてしまい、折角隠していた狼の尻尾や耳が双子姉妹揃って顕になってしまった。
――もう後戻りはできない
――人狼だとばれた
――ここで終わる
と様々な言葉がハティの頭を支配し、自然に彼女の顔が青ざめていく。さらに心が砕け散りかけているのか、涙が目尻に溜まる。
だがエリスは全く気にせず、逆に少女達が獣人族であることに目を輝かせ、生唾をゴクリと飲み干す。さらに本物なのか確認するべくずいっと顔をハティに近づける。
されども少女達にとってそれは恐怖でしかない。バラしてしまったことと、急に接近されたことでビクッと身体を震わせ、不意に目を瞑ってしまう程に。
「も、もしかしてハティさんと、スコルさんって獣人……なんですか……!?」
「そ、そうですけど……あの顔が近いです……」
顔を近づけた後は無意識のようだが、確かにエリスはジリジリっと少しずつ双子姉妹の獣人との間を詰め始め、いつの間にか椅子から離れ壁まで追い込まれていた。
「あ、ごめんね?びっくりしちゃった?……で本題に戻るけど獣人のハティさん、スコルさん。詳しいこと教えて欲しいな?」
「わかってます……」
ハティは少しの間を置くと話を始めた。勿論、自身らが人狼だと言うことも、魔道書のことも、道中起きた事も含めた全てを嘘偽りなくだ。
ーー君たちがあの人狼の子なのか……と、騎士は心で呟けば、急にニコッとした表情で。
「うーん……よし、君達には悪気はないみたいだし今回は特別に解放してあげよう!ただその代わりに……モフらせて!お願い!」
ぴょこんと立った耳がその言葉を捉えると、嫌そうな表情を浮かべ耳を伏せる。だが、なんの見返りもなしに解放してくれるのはありがたく、恩は返さねばならない。そう思うと嫌々ながらも耳を立たせるしかなく。
「うぅ……仕方ありません。でも……優しく、お願い……します」
耳を触りやすいように頭を差し出すと、緊張からか心臓が周りに聞こえてしまうのではと思うほど強く脈打ち、顔も赤面し始めていた。
「それじゃあ失礼して……」
そしてエリスの手が、ハティの耳へと伸びていき、優しく触れる。直後ふわっとした気持ちの良い触り心地の、狼の毛が彼女の手の触感を支配した。
モフり――
ふわふわ――
まるで空気にでも触れてるかの如く軽く柔らかな毛に包まれる、エリスの手。尻尾の方に手を伸ばせば、極上の羽毛布団のように気持ちよく、されども指が沈むほどふわっとした膨らみに、彼女は魅了される。
「ん……あっ……」
「はぅ~気持ちいい~」
「やっ……あっ……」
耳や尻尾を触れられたことで無意識に色っぽい声が出てしまう彼女だが、それは仕方ないもの。自分で触れたり、ものが当たったりする時は何も感じないものの、他人が触ると耳がまるで性感帯のようになり自然と出てしまうのだ。
「……な、なんか罪悪感が……でも手が止まらない……」
「ふぅ……ん……も、もういい……ですよね……」
「あ、はい!なんかすいません!」
顔を真っ赤に染め、蕩けた目に目尻に涙を溜めたハティが下からの目線で、小さくされども周りに聞こえる声で呟く。
それを聞いたエリスは直ぐに手を離すものの、いつの間にか伸びていたスコルの手は離なれることなく、ハティの色んな箇所を触り続ける。
「ってスコル……さん……なんで……やめっひぅ!!」
「なんか言った~?」
「も、やめて……って言ってます!!それにスコルさんは触っていいって言ってませんから!!」
「痛ッッ!!急に噛まないでよぅ」
少女もまた触り続けた……いや、最後の最後で尻尾にも触れるが、その結果、もう限界と感じたハティが、スコルの腕を思い切り振り払いそのまま噛み付く。
それも甘噛みではなく本気の噛み付き、されども血が出ないように力加減をして歯型だけ残すように噛み付いたのだ。
「……今日一日話聞きませんから」