第88話 初めてのお買い物 上
案の定21時は過ぎました…
リンちゃんが、落ちつくのを見計らい俺たちはこの地にリンネの墓を作ることにした。
リンネ本人は素材にしろと言ってたが、素材なんて私の魔法で幾らでも創り出せる。
ならばと思い簡素ながらも墓を作り、その中へ火葬した骨を入れようか?と言う話になったのだが、この世界で火葬は珍しいらしく、聖魔法で清めた遺体を埋葬するらしい。
「リンちゃん…そろそろ行くよ?」
「ん、わかった。お父さん…行ってきます」
中々墓前から離れようとしないリンちゃんに声を掛けて出発を促す。
人のし…まぁ、人では無いけども肉親の死は本当に辛い物だよね…両親の死はショックで記憶ごと消し飛んだけど、祖父の死は雪姉が居なければ立ち直れていなかったかもしれない。
あの時のビンタは強烈だった…
「?どうしたんですかユウキさん?」
「いや、なんでもないよ…さて、とりあえず俺たちのキャンプ地によって色々と回収しないとな」
「そうね…それで忘れてると思うのだけど…お腹が空いたわ…」
「「「「あっ…」」」」
思い出した瞬間、女性陣からくぅ〜っと空腹を告げる音が聞こえてくる。
「ん?リンちゃんもご飯食べてないの?」
「食べた。でも、少なかった」
なるほど、確かに見た感じ食糧などは底をつきかけてたのだろう…少し窶れ気味なのも気になるし…先に遅めの昼飯にするか…
色々ありすぎて忘れてたけどもう15時もいいところだな…よくコイツらが昼飯を催促してこなかったな…
「よし、なら夕飯まで時間も無いし軽めに何か食べて、夜はリンちゃんの歓迎会にしようか」
「!?パーティなのです!?」
「豪華な食事…ユウキさんの手料理…じゅるり…」
「あなた、私も手伝うわね…下ごしらえは任せなさい」
「おー!パパのご飯楽しみー♪なにかなー?はんばーぐかなー?」
「ん、料理作れる?」
「私?そうだなぁ…ローズも普通に作れるけど、最近は作ってくれ無いんだよね…」
「だってあなたの料理が美味しすぎて…ルビーもパパのご飯がいいわよね?」
「おー?ルビーはママのご飯も大好きだよー♪」
「あら、嬉しいわね…」
なんかほのぼのとした気持ちになったが、リンネの冥福を祈ったばかりなんだよなぁ…まぁ、暗い雰囲気のままだと息が詰まりそうになるからいいか
「リンちゃんは何か好きな食べ物はあるかな?」
「さっきからなんでちゃんつけるの」
「えぇ?ダメだった?」
「みんな名前、仲間外れは嫌」
「あー、わかりますそれ…私もさん付けは嫌ですもん」
「確かにそうね、最初私の事もローズさんって呼んでたものね?」
え、なに?俺なんか悪いことしたのか?と思うほど責められてるけど…
「ごめんね?それじゃ、これからはリンって呼ばせてもらうね?」
「ん、それでいい。それで好きなご飯はお肉」
「お肉?料理名とかじゃなくお肉なんだ…」
「うん、お父さんと居る時は料理なんてしなかったから」
確かに父親がフェンリルだとそうなるか…
いや、父親がフェンリルって中々パワーワードだな…
「んー、そしたら今日は肉料理盛り合わせにするか!!」
「「「「いやったぁぁぁあ!!」」」」
「いやいや、君たち喜びすぎじゃ無いかい?!」
「ん、びっくりした。でも、楽しみ」
にへらぁ〜と頬を緩ませるリンに頭をポンポンと撫でる。
「ん、撫でるの上手」
「あー!なにしてるのですマスター!ドサクサに紛れて!!」
「おっと、ごめんごめん。つい癖で」
「ん、大丈夫。もっと撫でる」
なんだこのいい子は…ちょっと触れたけど耳がモフってしてて最高です!!!いつか尻尾も触らせて欲しい…もふりたい…
リンの事をいろいろ聞きながら歩いているとあっという間にキャンプ地へと辿り着く。
「到着なのですー!」
「やっと着きました……あれ?そういえば此処に転移してくればあっという間だったんじゃ…」
やべぇバレた!!!
「い、いや〜そんな事ないんじゃ無いかな?」
「あー!マスターが誤魔化す時にやるクセをしてるのです!完全にアウトなのです!」
「何そのクセ!?そんな事してるの!?」
「してたわね…間違いなく」
「ま、まぁいいじゃん?ゆっくりリンと話したかったしさ…みんなもそうでしょ?」
「まぁ、そうですけど…何かごまかされてる気がするのは気のせいですかね…」
「マスターは大事な事を隠したがる傾向にあるのです…怪しいのです…」
「「「「じーーーっ」」」」
「いやいや、何も隠してないって!!普通に忘れてただけだから!」
「ふふっ、やっぱ面白い」
「それよりも早くご飯食べるぞ!」
「「「「「はーい」」」」」
返事だけはいいんだよなぁ…と女性陣が増えた煩わしさもあるが、リンが楽しそうにしている姿を見ると、何処かホットするのであった。
それにリリアも自分がリンネさんの事を亡き者にした事を引きずってるわけでも無さそうなのが意外であった。
後でこっそり聞いてみるか。
そんなこんなで遅めのお昼を済ませた私たちは、荷物をまとめ、街の近くに設置していた転移スポットへと帰って来ていた。
「おー♪あっという間についたー♪」
「うっ、未だに転移酔しますね…ユウキさん回復魔法を…」
「そうかしら?私は慣れたわよ?」
「凄いのです…私もダメなのです…」
「あらら…リンは平気だった?」
「ん、お父さんの背中に乗ってる時の方がキツい」
なるほど…確かにあの巨大が走り回ってたら揺れるだろうな…性格も豪快そうだったし…
でも、気軽に父親の話を出せるなら精神面は強いんだな…私の修行に耐えられそうでよかった。
「むむ?何か嫌な感じが…ユウキさん?何か変な事考えてませんでした?」
「え、何も?」
「そうですか?気のせいだったんですかね…」
いやいや、最近リリアの感の鋭さが尋常じゃないんだけど…ただ修行の内容を考えただけなのになんで誤魔化してるんだろう?
と思う私だったが、今からリンにとって初めての事ばかりだし、楽しそうに尻尾をフリフリしてるのを見ると、ついつい嫌な事は後回しにしたい気持ちになってしまうから仕方ない。仕方ないったら仕方ないのだ。
「よし!それじゃリンに街を案内しないとね!…って言っても私たちも最近この国に来たばかりで分からない事ばかりだけどね」
「まぁまぁ!それもいいじゃ無いですか!ユウキさんの服も含めて、リンちゃんのお洋服とか日用品も買い揃えないと!」
「そうね!それに、こんな可愛いんだもの…髪の毛も綺麗に整えてあげたいし…あなた?後で髪を切ってあげたいのだけどハサミってあるかしら?」
「ん?ハサミならあるけど、ローズが切るの?」
「そうよ?ルビーの髪の毛も私が切ってるのよ?」
へー、それは凄いなぁ…等と感心していると、リリアがリンの手を引いて先に進んでしまう。
「おーい!迷子にならないでよー!ローズ!この話は後にしよっか」
「そうね…ルビー達もうずうずしてるし…」
先に行ってしまったリリア達を急いで追いかける俺たちは、お目当ての店先で待っていたリリア達に追いつき、店内へと足を踏み入れる。
「え、何ここ…」
そこに広がっていたのはカラフルな下着…
そう、このお店は女の子専門の下着屋さんなのでした…嵌めやがったな!?
「あれぇ〜?ユウキさん顔真っ赤になってどうしたんですかぁ〜?女の子なのに恥ずかしがってるんですかぁ〜?」
「うふふ、可愛いわね?あっ、コレなんてあなたに似合いそうよ?」
「あっ、それ可愛いのです!マスター試着したらどうなのです?」
「人間はみんなこんなのを付ける?」
「え、もしかしてリンちゃん下着付けてないんですか!?」
「ん、下のは履いてる。けど、上のは初めて見た」
「リンネさんはフェンリルですもんね…流石に街の中に買い物なんてできないでしょうし…パンツがあっただけマシですかね…」
いやいや皆さん私男なんですけど!?
咄嗟に叫びそうになった自分の口を必死に抑え、目だけで訴える。
さっきから刺激が強すぎる内容の会話を続けてる女性陣について行けず、こっそり抜け出そうと試みる。
だがしかし…
「あれ?ユウキさんどこ行こうとしてるんですか?ほら、ユウキさんのサイズ測るんで来てください!!」
「い、いやぁぁぁあ!!やめてぇぇぇえええ!!」
……抵抗虚しく、私は大切な何かを失った気がしたのであった。
久々の日常…先に言っておくとしばらくヒロインは増えないんで安心してください!(何を?)
次の更新は、明日の15時予定になります。




