第7話 一方的な蹂躙劇
身体強化を終わらせた俺は、昨晩ミスティとともに考えていた技を実験するために、詠唱を始める。実際必要ないんだが、やはりモチベーションは大事である。ただ無言で敵を殺すよりも、やはり技名を叫んだりしながら戦う方がカッコいいよね!!某、厨二病ではない!ないったらないのだ!
「我願う、地に眠りし鉄の粒達よ、我の声に応え、その姿を我に示せ!」
そう唱えると、地面から黒色の砂が浮かび上がってくる。そう、所謂砂鉄が宙に浮き蠢いているのである。側から見たらなんとも気持ちの悪い光景だろうか…
「我願う、黒き砂達よ!我の思う姿に変え、敵を屠る刃となれ!錬金!」
錬金を使い、空中の砂鉄を刀に変えて行く、あっという間に砂鉄は数千という刀に変わる。ただし、鉄以外に何も含まれていないので艶もなく、本当に刀身のみがあるだけといった感じではあるのだが、使い捨てなので気にすることもないだろう。
さて、最後の仕上げと参りましょうか!
「我願う、全ての刀に黒雷を蓄え、敵を屠る弾丸とかせ!」
全ての刀に俺が纏っている黒雷の電力を蓄えさせる、すると電気により刀が発熱していき、あまりの高温に鉄の色が黒から赤く燃え上がるような色に変わり、最終的に真っ白になった、普通は鉄に電気を流すと腐食といい、鉄が痩せて行く現象が起こる為に、崩れてしまうのだが、俺のスキルでそれは無かったことにしている。チートスキル万歳。
まさに芸術、白い刀が纏う黒雷、白と黒という対になる色だからこそ、白い刀が宙に浮いている姿がよく映えている。自分で編み出した技ながらなんとも素晴らしいのだろうか!
(私も一緒に考えたのですよ!忘れないで欲しいのです!)
はい、ごめんなさいミスティさん。
さてさて、気を取り直して目の前まで迫って来ているゴブリン共に目を向ける、先程までの勢いはなく、突如として目の前に現れた白い刀に戸惑いたたらを踏んでいた。
まぁ、それも仕方ないだろう。向こうからしてみれば突如として目の前に何千本もの刀が現れたのだ、いくら知能が低かろうと危険なものであると本能が察知することは、普通にあるからね。
では動きが止まった獲物を蹂躙するとしますか!!
「一斉掃射」
短く呟き、今か今かと震えていた刀達が一斉にゴブリン目掛けて解き放たれる、所謂超電磁砲と化した刀達は、白と黒の尾を引き目の前の敵を蹴散らしながら突き進み、群れを抜け、数キロ離れた所でチリとなって消えていく。俺は心の中でありがとうと呟き、使い捨てた刀達に感謝の意を示し、今の掃射で残っているゴブリン達に目標を定めミスティを構える。
「ミスティ!残りのゴブリンの数は!?」
(残り3200といった所なのです!結構残ってるのです!気をつけて!)
「了解!見た感じゴブリンキングも残ってそうだな」
(はいなのです!咄嗟に地面に伏せてこと無きを得たようですね、周りよりも知能が優れている為に、生き残ったみたいなのです!)
「流石はキングとつくだけあるな…よし!残りはミスティの試し切りとしようか!」
(頑張るのです!)
そうこうしてるうちに、ゴブリンキングの指示のもとひと塊りとなり、こちらを鬼の形相(もともと鬼っぽい顔をしてるのでわからん)でこちらを睨みつけて来ているゴブリン共に、口元を綻ばせる。未だ戦意を喪失させずにこちらに向かって一歩踏み出して来たことには、拍手喝采とはいかないが、賞賛には値するだろう。
さて、それじゃ
「クラスメイトに笑われて実はイライラしてたんでなぁ!!!!ストレス発散のためのサンドバッグになってくれや!!!!」
そう叫びゴブリンの群れに向かって走り出す、身体強化と黒雷を纏っている俺は、地面をひと蹴りするたびに数メートルは距離を詰め、文字通り雷鳴の如く速さで接敵、一振りで目の前にいた10体近いゴブリンを斬殺する。
「西音寺流剣術 初伝 帳ッ!!」
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時間は俺の幼少期、5歳程の時まで遡る。俺は一般的な家庭に生まれ、裕福ではないにしろ、優しい両親と何不自由ない生活をしていたのだが、俺が6歳の誕生日を迎え、数日後には小学校の入学式が迫っていた。春休み中にお祝いって事もあり、家族で旅行に出かけていたんだが、事件…いや、事故はその帰り道に起こってしまった。また行きたいね、次は夏休みにキャンプにでも行こう!などと他愛ない話をしながら、父親の運転で高速道路での帰宅中、よくある話だが、運転操作をミスったトラックが目の前で横転、避けようとしてハンドルを切った俺達の車前で、急ブレーキを踏んだ前の車が、トラックで運ばれていた荷物でタイヤを滑らせ、俺たちの車に横から突っ込んで来た。運が悪かったとしか言えないが、中央分離帯に突っ込み父親はその勢いで即死、母親も車に突っ込まれたことにより、首の骨を折り即死、俺だけが頭を強く打ち気絶だけで済んだのだった。いや、らしいと言うべきだろう。何故なら、目の前で両親を亡くしたことによるショックにより、事故以前の記憶が完全に飛んでしまっていたからだ。
そのときの影響かはわからないが、完全記憶能力的なものが、なんの取り柄もない子どもだった俺に備わってしまった。
両親が死んでしまったことにより、俺は唯一生きていた、父の父、即ち祖父に引き取られ、田舎の山奥といった場所ではあったのだが、そこからは何不自由なく暮らし、祖父が道場を開いていた為に門下生になったのだが、門下生と言っても俺以外に生徒はおらず、今時の剣道や柔道などではなく、剣術や柔術のように、人を殺す事に特化した武術などを習いに来る物好きなどおらず、俺だけが祖父に鍛えられていった。祖父はノリノリで俺に色々と教えてくれたおかげで、西音寺流だけでなく、色々な流派の型を教えてもらった。中学に上がる頃には、既に熊を素手で倒せる程になっていた俺は、これはまずいと思いつつも、中学時代を這々の体で過ごしていたのだが、ここで更に不幸な出来事が起こる。
それは、高校受験が間近に迫った日の夜、祖父がお雑煮を食べていたら、餅を喉に詰まらせ、呆気なく向こうに逝ってしまった。いや、なんでやねーんと、祖父の最後に心の中でツッコミを入れてしまったが、完全に天涯孤独の身となってしまったのだ…
ここまで不幸が続くと逆に笑えて来た俺は、それまで決めていた田舎の志望校を変え、もともと住んでいたであろう町の、普通科だが都内でも有名な進学校に志望変更し、見事合格(完全記憶で乗り切った)テストは多分満点近かったはずだが、面接がクソすぎて主席で入学は出来なかった。田舎に居たせいで町ぐるみで仲が良く、先生に対しても敬語など使ったことが無かった為に、面接でも敬語が使えず、評価を著しく落とし、先生達にも目をつけられてしまったのであった。
祖父の遺言と共に置いてあった通帳には、両親の事故で入ってきた保険金が入った銀行の口座、もともと住んで居た家の鍵などが一緒に入っていたので、都会に出て住む場所を探したりなどの手間が省けた為、入学までの短い期間で、敬語や話し方などの本を購入し暗記。祖父と二人暮らしで、尚且つ田舎であった為にやる事のなかった(稽古のない日)為に、料理が趣味になっていた俺は、色々な料理本を買い揃え暗記。都内ではどんな事が流行っているのかも調べ、所謂オタク文化が主流らしかったので、流行りのアニメに手を出してしまった…その結果オタクと化してしまった俺は、高校入学後も余り他人と関わらず、休み時間は漫画を読み、放課後は部活もやらずに、料理しつつアニメを見るといった、趣味に費やす毎日が過ごしていった。その中で唯一仲良くなったのが、天空と神咲なのである。
天空は、教室で漫画を読んでいるところを話しかけられ意気投合し、他の漫画やアニメの話をしてるうちに打ち解けていった。
神咲は天空と騒いでる所を注意されていたのだが、俺らが面白いから読んでみろと進めた漫画を読み、日に日にのめり込んでいった。
雪姉は田舎で一緒だった所謂幼馴染なのだが、俺と歳が離れてた為に、田舎の大学(といっても結構いい所)を卒業後都内の高校の教師に、そして、たまたまその高校で俺と再会、といった形である。
だらだらと毎日が過ぎ去っていき…
そして運命の日を迎える
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時は現在に戻る
「西音寺流剣術 初伝 帷ッ!!」
この技は相手の目を潰し視認できなくさせる技なのだが、今は目から水平に頭ごと切り飛ばしているので、余り関係ないかもしれないが、剣で目潰しするための技と考えて欲しい
「チッ!!次から次へとキリがないな!!」
一度大きく跳びのきゴブリンと間合いを広げる。
「ミスティ!モード二刀流!!」
(はいなのです!!)
掛け声と共にミスティの形状が二振りの剣に変わる
「ここからは一気に行くぞ!!ミスティ!俺の黒雷を受け入れて纏え!!」
(ッッツ!すごい魔力なのです!でも嫌な感じはしないのです…これは、マスターと一つになる感覚?マスターを近くに感じるのです)
「行くぞっっ!!」
地面を思い切り蹴り爆発的な砂埃を巻き起こし、一瞬で元の場所まで戻る。ゴブリンから見たらいきなり、砂埃が舞いふと気がついた時には、目の前にユウキが迫っていた。そう瞬きする暇さえ与えずにゴブリンはその命を散らす。
「はぁあああ!!!!一気に決める!!!!西音寺流二刀流術 奥伝 月花雷鳴ッ!!」
もともとこの技は月花と呼ばれる、満月の夜の様に静かに敵の左右の腕を斬り落とすための唐竹、それを繋ぐ形で、両脚を内腿から斬りとばす逆袈裟斬り、終わりに胴体に二刀を横薙ぎに振るいその場で回転し、次の獲物へと向かう、といった中伝の技だったのだが、黒雷を纏ったことにより、剣速は雷鳴…即ち音速を超えており、周りの敵を吹き飛ばしながら、更に黒雷を纏っていることで、周りのゴブリン共にも雷撃を当て、内側から破壊し、瀕死になった所を締めの横薙ぎで一網打尽にするという、なんとも恐ろしい技を編み出したのであった。
そんな状態で数秒暴れまわった結果…
「残り1…」
1分もかからぬうちに、残り2000は居たゴブリン共を蹴散らしたのであった。
「さぁ、あとはお前だけだぞ?ゴブリンの王よ!!!」
最後の一体にとっておいたゴブリンキングと対峙する。しかし敵は、部下を一瞬といってもいい時間で全滅させた化け物相手に、恐怖し体が硬直してしまっている。どこか後方を伺っているようにも見えるのだが、あれは…?
「ミスティ?あいつ逃げようとしてね?」
(確かにこちらの隙を伺って、今にも逃げ出そうとしてるのです…王様なのに情けない奴なのです!!)
ちょっと挑発してみよう
「おい!!!ゴブリンキングよ!!お前は部下を殺され、怒るどころか!尻尾を巻いて逃げだそうと言うのか!!!みなの上に立つ王がそれでは、お前のために犠牲になった部下が報われぬな!!!!」
ピクリと反応したところで、更にまくし立てる。
「たった一人の敵を殺せないような無能な王に付き従い!!命を落とした部下達のために!!一矢報いようとも思わないのか!!」
プルプル震えだしたぞ?後一押しか…
「所詮お前はその程度の器でしか無かったってことなんだよ!!!ゴブリンキング?笑わせるな!お前なんてゴブリンですらない!ゴキブリキングだわ!!」
(ゴキブリってなんです?)
「後で教えるね」
挑発が功を成したのか、ゴキブリキングは鼻息荒くこちらに向かい無駄に大きい剣を振り上げながらドタドタと走ってくる。まるで、素早さを感じさせない動きに、つい目が点になってしまった…
多分だが、あの剣は何処かの冒険者から盗んだか殺したかして奪い取ったのであろう。あのサイズの剣を振れる冒険者が居ることに驚きだが、きっと死んで居ることだろう。
「よし、ミスティラストだ!!モードガントレット!!」
直ぐさま形状が変わり、俺の手を保護するように変化そして、息を切らせながら走り込んできたゴキブリキング、その勢いのまま両手剣を振り下ろし、俺を亡き者にしようと渾身の一撃を放とうとするが、それを見過ごすほど俺は優しくはない
「西音寺流徒手格闘術 初伝 旋風」
この技は所謂足払いをし、敵を背中から崩れるようにする技である、そして直ぐ次の技へ
「西音寺流徒手格闘術 中伝 打ち上げッッ花火ッッ!!!」
この技は敵を上空に向け下から掬い上げるように蹴るなり殴るなりして飛ばし、上空で停滞したところに、上や横、斜めなど四方八方から通り過ぎざまに殴り、敵を吹き飛ばさぬよう、威力を吸収させるように殴るという、とてつもない技術が必要なのだが、それを想像通りにやってのけるあたり、ユウキはやはり化け物である。
そして、空中で方向転換を何度も繰り返すなど到底不可能なのだが、そこはユウキのスキルである、イマジンリアリゼーションにより、昔読んだ漫画の虚空瞬動術をモチーフにし、スキルを発現させたのである。
今ユウキは黒雷を纏っているということもあって、青空に咲く真っ黒な大輪と化し、ゴキブリキングの死を誘う花となる。
「うぉぉおおお!!西音寺流徒手格闘術 繋ぎの型 初伝 奈落落としッッ!!」
まぁ、カッコよく言うが所謂かかと落とし的なのですね、空中でやり、尚且つ全力で振り抜くので、地面まで叩き落とした時に、地面が割れるといった意味でも、強ち間違いではないのかもしれないが…そして
「これで終わりだっ!!!はぁぁああ!!!」
宙を蹴り、上空まで更に跳ね、最後の型に進む
「西音寺流徒手格闘術終の型 奥伝!!!はぁぁぁあああ!!!流星拳!!!」
地上にいるゴキブリキング目掛け一気に急降下し、元々黒雷と化している上に、上空からの落下速度を上乗せ、糸筋の線となり敵を屠る流星へと至る
ドゴォォオオオオオオッッツツ!!!!
と物凄い音が響き渡り、地面は着弾地点を中心とし、本来の目的地であったゴブリンの森の入り口までクレーターを広げ、尚且つ、ユウキの一撃が見舞われた場所は元々の場所より、20メートルも陥没してしまっているのがどれ程の威力を誇っていたのかを、感じさせる。いや、見たもの全てを恐怖に陥れていたであろう。しかし幸いにも、この光景を目撃したものは誰一人、いや、王女を除いてはいなかった。
その王女はというと、ユウキから貰ったネックレスの効果が作動し、アイギスの盾をイメージとして作った、全ての攻撃を無効化するバリアを展開し(所持者に危険が迫った時に自動発動)事無きを得ていた。王女様涙目である
「ふぅ〜、暴れたなぁ!!スッキリしたわー!」
(マスター凄いのです!!ゴブリンが跡形もなく吹き飛んでるのです!!)
「ここまでやるつもりは正直無かったんだけどねー、解除っと」
解除の一言で身に纏っていた黒雷、並びに身体強化魔法の類が解除される
「ミスティもお疲れさま!めっちゃ使いやすかったよ!イヤリングに戻って!」
(ありがとなのです!頑張ったご褒美が欲しいのです!)
イヤリングに形状を変えながら、ご褒美をおねだりするミスティに自然と笑みを浮かべて、後で何かプレゼントしようと決めるのであった
章タイトル通り、主人公が強い!というイメージが伝わってればいいなぁ〜