第55話 ペリドットの戦い Ⅲ
しばらくリリア視点とローズ視点が交互に続きます。
〜〜sideリリア〜〜
普段とても静かなほとりが激しい戦闘音で塗り替えられ、水面も荒々しく波打っている。
そして、何よりも魔神族の力は強大でリリア達は苦戦を強いられていた。
「くっ!!サーシャさん!魔法だけでは厳しそうですよ!?」
「ウォーターバレット!!くっ!相殺されました…」
2人の魔法はアメジスティア王国内では向かう所敵なし…そう言われてもおかしく無いほど精密であり、申し分ない威力を発揮している。
だが、アールもそうであったように魔神族の魔力は負の感情を集め、それをエネルギーに変化している。
この数日で、連れ去られていた人達から得たエネルギーは莫大なものであった。
それこそ、土竜を巌窟竜へと進化させ、尚且つアリンが魔神族になってもそこが見えぬほどの魔力を蓄えていたのだ。
結果2人は徐々に魔法戦で追い詰められている…この事実は変えられぬ真実なのであった。
「あはははは!!その程度なのか!?さっきまでの威勢は何処いったよ!?ほーら!!フレイムストームッ…あはははは!!早く対処しないと盛りを焼き尽くしちまうぞー?」
「!!?サーシャさん!合わせてください!
「はい!」
「「合体魔法!ウォーターサイクロン!!」」
2人の魔法が合わさり炎の渦を掻き消し、なんとか森への被害を最小で食い止めるが、先ほどからリリア達は森への被害をださないように闘っているために今一調子を出せずにいたのだ。
それに比べアリンは森なんて燃え尽きれば良い。
その考えをそのまま実行し、全てを焼き尽くす事だけを考え、目の前のリリア達を焼き殺そうとしてくる。
「……サーシャさん、このままではこちらがどんどん不利になっていきます…ですので私が前衛として彼女を抑え込みますので、サーシャさんはサポートをお願いできないでしょうか?」
「…リリアさんが前衛…?その、純粋な魔法職だったのでは無いのですか…?」
「はい、ペリドットへとやってくるまではそうでした…ですが、私の目標はユウキさんの隣に立ち、共に敵と闘うこと…後方支援ではなく隣で闘うために必死に武術を習いました!」
ユウキの地獄のような特訓を約一月程耐え抜いたリリアは、本人のやる気も相まって西音寺流の一つの流派を使えるまでに成長していたのだ。
「まだ中伝までしか覚えてませんが、それでもユウキさんが実戦で使っても大丈夫と太鼓判を押してくれたのですから、あんな女に負けません!!」
「なるほど…ユウキさんに手取り足取り教えてもらえるなんて…私も師事しようかな…」
「はい?何か言いましたか?」
「いえ!なんでもないです!っとリリアさん!」
「はい!人が話してる時に攻撃してくるなんてマナーが悪い人ですね!!サイクロンミホーク!!」
アリンが放った火の鳥に、リリアの放った風の鳥がぶつかり魔法を相殺する。
2人は呑気に喋っているように思うが今は殺し合いの真っ最中…一瞬も油断する事なくアリンの攻撃をいなし続けるのはユウキとの修行のたわものであると言えるだろう。
「では、サーシャさん頼みましたよ!」
「はい!御武運を!私もできる限りの援護はします!」
元々サーシャは攻撃系よりも補助系統の魔法の方が得意だった。
なので正直リリアの申し出は素直にありがたかった為に、この後のミスは許されない。
プレッシャーに打ち勝つことができるか…それがサーシャが成長するか否かのボーダーラインなのかもしれない。
そして1人アリンの元へと肉薄するリリアは思う。
実戦で使うのは初めてですが…ユウキさんの流派が最強であると示すために!!絶対に負けられません!!
決意を胸にアリンへ腰に携えていたユウキから貰った、剣としては細くすぐに折れてしまいそうな一振りの剣を抜き放つ。
ユウキさん…あなたから貰ったこの剣…紫水剣ウラルアメスタスで必ず敵を貫きます!どうか私に力を…
「はっ!何かと思えばそんなほっそい剣で何をしようって!?そんな棒叩き折ってやるよ!」
「…この剣にはユウキさんへの私の愛が詰まってるのです!簡単に折れると思わないでください!」
この場にユウキ本人が居たら、重すぎるだろ!?とツッコミを入れていたのだろうが残念ながらこの場に居合わせた戦士達に、リリアの言動をいちいち気にしてられる者はいなかった。
「ちっ…何が愛だよっ!そんなものぶっ壊れちまえばいいんだ!残念ながら私の得物は剣じゃなくて、この斧なんだよなぁ!そんな鈍一撃でへし折ってお前の顔を絶望に歪めさせてやるよ!!」
肉薄してきたリリアにアリンの容赦のない一撃が頭上から襲いかかる。
だが、リリアはこの程度で縮こまるほど柔な鍛え方はされなかった。寧ろこの一撃プラス十発は同時に攻撃が飛んできてたのだ…なので…
「こんな攻撃ユウキさんとの修行を乗り越えた私には止まって見えますよ!!エンチャント!風神の陣脚!!」
ユウキに名付けて貰った新しい風魔法…自分に風を纏い、ユウキの雷光のように素早さを極限まで上げる…ユウキは全力でやってもコントロールができるのだが、今のリリアでは出せて50%が限度…
だが、その50%でも充分すぎるほど効果を発揮した。
「なにっ!?何処へ消えた!?」
疾風と化したリリアはまさに風神の如く風を自分のものにし、一気にアリンの頭上へと舞い上がっていた。
「ここですよ?」
律儀に返事を返してしまうのは、リリアの性格によるものが大きい…だが、ユウキはそれを叱る事なく寧ろ褒めていたのだ。
曰く、自分の居場所を敵へと教え、更には手の内を曝け出した状態で敵を上回る…それこそが西音寺流の真髄であり、極地だ!!
絶対に女の尻を追いかけて見つける物ではない!
と最後の方はよくわかりませんでしたが、ユウキさんが豪語していたのだから、私は間違っていないはず!
「なんだと!?馬鹿が!これでも喰らいやがれ!フレイムランスッ!!」
リリアの事を目視した瞬間に火の槍を作り出し、即座に放つアリンの判断は間違ってはいなかった。
だが、この場にいるのは何もリリアとアリンだけではない…
「馬鹿なのはあなたでは?ウォーターシールド…やらせるとお思いですか?」
「サーシャァァア!!邪魔するならお前から消し炭にするぞ!?」
「それこそやらせませんよ…?西音寺流刺突術 初伝…翡翠っ!やぁぁぁああ!!!」
「ぐっ!このっ!がはっ!?」
リリアによる一撃が決まるかに見えたが、咄嗟に斧で頭上を庇ったことにより、吹き飛ばされるだけで済んだアリンは悪運が強いのだろう。
そしてリリアは確かな手応えを感じていた…
やった!!完璧に翡翠を繰り出せました!!我ながら最高の出来です!!
翡翠とはユウキ達の世界に居る鳥類の仲間だと聞いた。その習性からファンが多く、翡翠が獲物を取るときの姿は素晴らしい!とユウキが楽しそうに語ってくれた…
その姿をモチーフに編み出したのがこの技…そもそも10メートル以上飛び上がる事のできる人間はユウキぐらいしかいないだろう。
身体強化魔法を使う事により初めてびっくり人間的な動きができるのだが、元々できていたユウキは最初から人間ではなかったのかもしれない。
だが、そのおかげで今リリアの努力が実力へと推移したのだ…ユウキの技に魅せられた少女が惚れた男と同じ技を使い敵を圧倒する。
英雄章なら盛り上がるシーンだが、今は現実に起こっている最中なのだ…
アリンが吹っ飛んだ所に登っていた土煙が徐々に晴れていき、そこに無傷で仁王立ちしているアリンの姿を見て、リリアは気を引き締め直す。
「今ので倒れてくれてたら楽だったのですけど…強がりは体に毒ですよ?」
「はんっ!あんなの少し油断していただけで、こっから先地面を転がるのはお前だけだよ」
「あら?その油断が今後も続かないといいですね?でないと、どんどん泥だらけになって可哀想になってしまいますから」
睨み合う両者…
「コロスッ!」
「こちらのセリフです!」
魔神族vs西音寺流の使い手…
第二ラウンドがここに始まる。
こんにちは!1日ぶりの更新になります!
さて、この話ではリリアの修行内容に触れることができました!リリアが剣を振り回す…これは予定通りに進行できているので嬉しい限りです!
次話は再びローズ視点…リリアの戦いの続きが見たかった人は申し訳ありません!次はローズとルビーの戦いを見守って頂けると幸いです!
次の更新は明日の正午になります…
ps5の抽選…当たりますように!w




