第51話 憤怒
本日1話目になります!
「うぅ…私は駄目な王女ですぅ…」
俺の説教を受け、項垂れるリリアの首には駄目王女と書かれたプラカードが下げられている。
「うぅ…なんで私まで…リリア絶対許さないのです…」
今回は8割リリアが悪いので、ミスティにはゲンコツ一発で許す事にした。
頭を押さえて蹲ってるが恨みは俺ではなくリリアのほうに向いてるみたいなのでそのままリリアを人柱にしておこうと思う。
我ながらクズである。
「こほんっ!それでリリア、わざわざ危険な目に会いに行って見つけてきた物は何か説明してくれる?」
「うっ、言葉の節々に棘が…わ、私とミスティちゃんの2人で見つけたのは、地下へと続く階段です…最初は空間の揺らぎのような物を知覚して、そこをミスティちゃんの固有スキルで切り裂いたら出てきました…」
「なるほど、ミスティってそんな事できたんだ?」
「えっ…マスターって私のスキル把握してないのですか…?ガーン!!なのです…」
そういえばだけど最近全然ステータス確認してないな…この前俺のステータスを神界で見た時は結構成長してたし…ミスティも俺と共に行動してたのだから相当あがってるんだろうな…
あっ、しかもリリアのスキルに関しては風魔法が使えるくらいしか知らないな…聞いてすら無いわ…
「ミスティちゃん大丈夫ですよ!私も結構一緒に行動してるのに未だに聞かれないですから!ユウキさんは私たちに興味が無いのだと思います!」
何故か今度は俺に非難の目が集中してる気がする…だ、だが言い訳させてほしい!!
最近忙しくて普通に忘れてただけなんだ!!
……全く言い訳になってなくね?
「こ、この問題が片付いたら改めてゆっくりと話をしような…?」
「絶対聞いてくださいよ!?忘れてたは通用しませんからね?!」
「あっ、はい…」
だがこれではっきりしたな…
サーシャさんが見た予知夢が洞窟ではなく地下だった…岩や土に囲まれた空間という事で間違えても仕方ないが、やはり子供達や老人を連れて深淵の森を進むのは自殺行為だ
なので近くに地下施設を作り、そこへと避難させるという程で誘い出したとしたら子供達はともかく、大人も避難場所としてローズが作っていたとでも言えば信じてしまうかもしれない。
特に大切な人の死体を見せつけられた後だ、冷静な判断を下せなくなっていても仕方なかったであろうからな…
明日は忙しくなりそうだな…
「まぁ、お手柄だったな2人とも…おかげで探す手間が省けた、早速今夜襲撃を仕掛けるぞ…」
「わ、私も行きます!」
「ん?いや、今回はミスティと俺だけで行くからリリアはこの国の防衛に回ってくれ…」
この世の終わりのような顔をしているリリアの頭をそっと撫で、連れて行かない理由を事細かに説明してやる。
「いいかリリア、幻惑魔法を破った時点で向こうは此方の動きを予想してるかもしれない…となると階段自体が囮という可能性もある」
「囮…あれが…?」
「あぁ、可能性はゼロじゃ無い、現に2人は猫を追ってたら見つけたんだろ?人為的にそこへと導かれた可能性も考慮すると、戦力は分担した方がいい。特にこの間の襲撃はリリアが居れば土竜くらい倒せてただろうしな…だからリリアはこの国を守る要の役目を担ってほしいんだ…ダメかな?」
「……足手纏いだから置いてくのでは無いのですか…?」
「?当たり前だろ?足手纏いだと思ってたら深淵の探索にも連れてってないし、ここ最近の頑張りを見て、ダメだと言うような奴は目が節穴だ。それぐらいリリアは成長したよ…よく頑張った」
その瞬間リリアの目から大粒の涙がこぼれ落ちた
「……あぁっ、私のやってきた事は間違いじゃなかったんだ…足手纏いじゃないんだ…」
「今まで直接褒めた事なかったなそういえば…リリアは負けず嫌いで、料理もそれ以外の家事も下手だけど…それを克服しようと頑張ってる姿を俺は好きだ。魔法が弱い事に後ろ向きになるのではなく、そこで自分を昇華しようと努力するリリアが好きだ!いつも俺たちを一番に想ってくれてるのも知ってる。いつもありがとう、そしてリリアの努力は誰がなんと言おうと俺は認めてる。だから、この国を守ってくれ。いや、一緒に守ろう!リリア!!」
「う、うわぁぁぁぁんっ!!辛かったよぉ…2人が闘ってる姿が遠く感じてっ、それを一生懸命追いかけるのにまた離されて!このまま捨てられるんじゃないかって!そう思って…うぅ…」
「そんな事するわけないだろ…リリアは俺の大切な恋人なんだからな…その指輪をリリアはエンゲージリングと呼んだのを俺は否定したことなんてないだろ?」
「ユウキさんっ!……ぐすんっ、私も闘います…この国で…アメジスティアが崩れるのを眺めてることしかできなかったけど…今は、ユウキさんが認めてくれた私の力で、この国を守ってみせます!」
やっぱリリアは最高の恋人だ…俺と一緒に来てくれてありがとう…
この戦いが終わったら必ず伝えよう。
そう心に決め、残された時間で今夜の奇襲を完璧に成功させるために作戦を詰めるのであった。
そして夜中、草木も寝静まった頃…
俺は気配を完全に消し、ミスティの案内で先程見つけたという地下に続く階段の側で身を潜めていた。
(ミスティ、モード刀に無音で変化できるかい?)
(それくらい朝飯前なのです!進化した私に不可能はないのです!)
なるほど、これもスキルが成長したおかげのようだ…後でマジで確認しよう。
(んじゃ、一瞬であそこにいるクソ猫をぶった斬るぞ!)
(あれ?マスターって猫さんが好きなんじゃ…)
(勿論俺は猫が好きだよ?だけど奴は俺に呪いをかけてきた敵だ…俺は敵には容赦しない事にしてるからな…)
(そうなのです…?まぁ、確かにあの猫さんは殺さないと呪いが解けないみたいなので反対はしないのです)
(んじゃ、行くぞ…カウント3で斬り込む)
(ラジャー!なのです!)
3、2、1…今っ!!!
西音寺流抜刀術 中伝 無影…
歩法で目の前へといきなり姿を現し、猫の首を刎ねる。影すら現れる事のない高速の一振りにより使い魔の猫は痛みも切られた事すらも認識せず絶命したのであった。
そして…
(やったぞミスティ!索敵スキルが復活した!)
(おぉ!やったのです!これで無能なマスターともおさらばなのです!)
…相変わらず俺の愛剣が厳しい…
(とりあえず索敵に映ってる地下の青い光点は妖精族で間違いないが、厄介なのは赤い点が一つある事か…)
(赤い点…魔神族、それともアリンとかいう妖精族の女なのです…?そこはわからないのです?)
(いや、この点はどっちでもないようだ…どちらかというと見張りをさせられてる使い魔って所か…)
(という事は…ペリドットの方に敵の主戦力が集中してるって事です?)
ミスティに訊かれるまでもなくペリドットの方に意識を集中し、先程から情報を得ようとするが上手くいかない。
(…みたいだな。多分あの魔神族の女が生きてて俺の索敵から隠れられるように、幻惑魔法で誤魔化してるんだろう…さっさと人質を解放してペリドットに戻るぞ!)
(了解なのです!)
俺は勢いよく階段を駆け下り、赤い光点目掛け突撃する。
現れた扉を蹴破り、少し広くなってる空間へと躍り出た俺を待っていた物は、最悪の光景であった。
そこに居たのは…妖精族のように見える何かであった。
いや、妖精族であった者…そう言うべきかもしれない
聞いていた行方不明者の数と、此処に居る青い光点の数が合わない事は薄々感じていた…だが、まさか足りない人数が纏めて一つの生命体になってるとは思わなかったが…
「どうやらあの魔神族の女は相当イカれてるみたいだな…なんでこんな酷い事ができるんだよっ!あの時俺が確実に殺してることを確認しておけばっ!!くそっ!」
そう…そこに居たのは幾つのも顔、そして羽を持った数人の妖精族を混ぜ合わせたような…そんな物体であった…
所謂キメラと呼ばれるようなものだろう…だが、人をキメラにするなんて…魔神族にとって人は幾らでも踏みにじれる存在なのだろう…
そんな風に俺が後悔と自責の念から、闘うべきか躊躇していると、意識を失い床に倒れていた妖精族の子が意識を取り戻したらしく、「あな、たは…?」と呼びかけられた。
その声に我に返った俺は、急いでミスティを人の姿に戻し、かなり衰弱している人達にポーションを飲まさせる。
そして俺はキメラがこちらに来ないように結界を張り、声をかけてきた何処となくサーシャの面影のある少女の元へ駆け寄る。
「意識が戻ってよかった…俺は君たちを助けに来たんだ…君の名前を聞いても…?」
「よ、よかった…ここで死ぬんだ…そう思ってたから…うぅ…あ、あたしの名前はラーニャ…」
「君がラーニャか!これ飲んで、周りの人達を1ヶ所に集めてくれないかな?できる?」
「んくっ、ぷはっ!これ美味しいね…うん!元気出た!大丈夫だよお兄ちゃん!」
「そうか、それであれは俺が始末しちゃって大丈夫なのかな…?」
「あ…うん、みんなまだ意識があるときに話し合ってたんだ…あの人達は生きながらにしてあの姿に変えられたんだけど、ずっと殺してくれってこっちに叫んでたんだ…お願い!楽にしてあげて…」
「そっか…了解!俺がなんとかするよ!それに彼らは生きてるんだろ?なら、元に戻すことも…とりあえずラーニャは今お願いしたことをやっててくれ…そろそろ向こうさんも俺と闘うつもりらしいからね…」
「うん…ごめんね、こんなこと押し付けて…本当は私たちでやらなきゃいけないのに…」
「子供が気にすんな!ほら、行け!」
行け!と背中を押してやると多少よろめきながらも確実に周りの人達を移動し始める姿を確認し、奥に鎮座しているキメラを見据える。
この人達を助ける為に俺はここに来たんだ…なら、彼らも助けてみせるさ!
こうして今宵の舞台が幕を開けたのであった…
次の更新は、本日21時です!
ここから怒涛の先頭シーン…頑張りまする…




