第2話 国王による説明会(ほぼ主人公目線)
「と、とりあえず中に入りましょうか」
先生だけあって、生徒達の先頭に立って雪姉が扉を開けた。その後を各々緊張した面持ちで、扉の中に入っていく。
「お待ちしていた、勇者様方。そちらにおかけ下され」
と、きっちり人数分ある椅子に腰掛けるよう陛下に促された。
「し、しつれいしまつッッッツツ」
おうふ…雪姉盛大に噛みやがった…聞いてるこっちが恥ずかしくなる程の噛みっぷり…
「はっはっは、そんなに緊張されなさんな、私は国王といってもあなた方はいわゆる国賓なのだから、堂々としていてくれて構わんよ」
俺達が席に着くのを見計らって陛下は口を開いた。
「では、まず最初に私があなた方を召喚した経緯についてお話ししよう」
陛下は所々雑談を挟みながら俺らにもわかるように、言葉を選びながら説明をしてくれている。陛下の話を要約すると、この世界にはまず、5つの種族がいる。人族、エルフ族、獣人族、魔族、そして神族である。
最初の4つの種族はいいとして、神族とか異世界物のライトノベルでもあまり聞かないんだが…
種族ごとの詳しい話をされたが、大事なとこだけをまとめると、まず、人族は高い知性を活かし国を繁栄させて来た。文明レベルでは他種族をはるかに上回ってるらしい。
いや、神族とかどうなのよ?と思うかもしれないが、神族はほとんど表に出てこないらしく、神族が住む神界と呼ばれる場所には、未だに誰も行ったことがないとか…どんな所なのか行ってみたい気もするが、まぁ、いつか行けるだろう。
次にエルフ族だが、これは純エルフ、ハーフエルフ、ダークエルフと住んでる地域がバラバラらしい。
ただ、よくある異世界物のライトノベルのように、互いに犬猿しあってるという訳でもなく、きちんと友好関係にはあるようだ。住んでる地域にしても、純エルフとダークエルフは完全に分かれているが、ハーフエルフは、どちらにも住んでいるらしく、そこからもエルフ族の仲が伺える。
でだ、やはり陛下の話の中で一番重要だったのは、やはり容姿だな。これは定石通りで、美男美女が集まってるらしい。素晴らしい。楽園はエルフの国にあるらしい。絶対に行こう。今すぐ行こう。はよぅ!はよう俺をエデンに案内してくれぇぇええ!!と叫びたい気持ちを必死に抑え込み陛下の話を聞いていたら、隣に座ってる神咲が、「じーーーっ」と効果音が聞こえてきそうな目で俺を見ていた。「な、何もやましいことは考えてませんよ?」と視線で伝えると、「ニッコリ」と、これまた効果音が聞こえそうな笑顔?を俺に向けてきた…うむ、俺の気持ちは通じたのだろう。ただ何故だ?神咲が俺の腕をつねっているのは、痛い、あっ、だめだ涙が出てきた…
「ん??そこの君…えーっとユウキ君と、言ったかね?どうしたのだ?急に泣き出して」
「あっ、いえ何でもないです。そういう病気のようなものだと思ってください。」
我ながらこの言い訳は余りにもおかしいと思うのだが、周りから見たらいきなり泣き出した頭のおかしい子なので、今更である。
「そ、そうか?では気を取り直して次だな」
次は獣人族についてである。獣人族は知性を持ってるもの達の中で、俺が思っていた通り一番種族があるらしい。
本当に多くの種類があるらしく、未だに知られていない種族もいるかもしれないとの事。更に驚いたのが、獣人族の中でも、完全に獣の身体をしてるものと、人族と変わらぬ容姿に耳や尻尾といった、獣人特有の部位があるだけのものと分かれてるらしい。
そして獣人族にも二つの国家があり、片方は完全に獣になってる者達でできていて、もう一方は一部分だけ獣の特徴が現れている者達で構成されてるらしい。こちらも蟠り等は無い。う、うーむ…完全な獣人も見てみたいが、やはりオタクとしては獣耳をもふもふしたいです。やはりもふもふこそ至高。もふもふもふもふもふもふ…うへへぇ…
おっと、危うく意識が持ってかれる所だったぜ…やはり獣耳は最強だな。うむ。そして、神咲様…なぜ、無言で腕を抓るのでしょうか?そしてさっきのとは違い、爪だけで抓るガチで痛いやつなんですが?!いたたたたたた!!!!すみません!!俺が悪かったです!!何もしてないけども!!!あっ!!だめ!!拗らないでぇぇええええ!!!!
と、一人で痛みを耐えていると、またしてもクラスメイト達からの痛いものを見る視線が、グサグサと俺に突き刺さる。そして、天空だけは俺のことを見て、今にも吹き出しそうになりながら必死に我慢してる様子が伺えるのだが??アイツアトデコロス
「つ、次は魔族についてだな!!!」
おや?陛下は俺の事を無視することに決めたらしい。俺、何も悪いことしてないのに、俺の評価が一方的に急降下していってるんだけど…解せぬ…
魔族について陛下の話をまとめると、魔族はやはりと言うべきか、魔王がいわゆる魔族領と呼ばれる地域を統括しているらしく、基本的に無害な存在らしい。
おや?おかしくね?魔王が世界を支配しようと動き出したので困っているから助けてください。と言うと思ってたのだが…魔王は無害とな?確かに魔王が無害、と言うよりもメインヒロインになったりする異世界物も多かったが、やはり基本は魔王が世界征服を企んでいる、といったものだろう。俺以外にも、おや?と思った奴らも居るみたいだが、黙っていて何も言おうとしないので、俺もそれに便乗して、そういうものなのか?ととりあえず話を聞いておくことにした。
そして、その続きの話で重要なことが、魔族は魔王が統括していると言ったが、魔王は配下達に領土を分配し、各々で任された地域を運営、、切り盛りしているらしかった。その全てをまとめて魔族領とよび、やはりここでも国がいくつかあるらしい。魔王は城に配下達と住んでいるらしく、その城こそが、所謂、魔王城と呼ばれているらしい。城の名前は別に正式名所があるらしいのだが、今は割愛しておこう。
そして魔王の配下達の中でもっとも力に秀でている4人、通称四天王と呼ばれる者達がそれぞれ国を繁栄させているらしい。魔王に謁見するためには、この四天王から認められ、4つの国からそれぞれ謁見状を貰い、4枚全て集めた状態で、魔王城に行かなければならないらしい。
いや、ちょっと待て。なんだその〇ケモンみたいなシステムは!!あれか?魔王がチャンピオンで、チャンピオンに挑戦するためには、四天王全員倒してこいや!!とか、そんな適当なノリで決めちゃったのか!?頭悪すぎだろ!すげぇめんどくせーな!!
「ちなみにこのシステムを考えたのは、魔族四天王の1人で、なにか問題があれば拳で語り合おう、と言い出すお方だとか」
クラス全員+雪姉「「「「「「やっぱり脳筋かよ!!!!!!!!」」」」」」
流石に我慢の限界でした。
「おぉうっ!?いきなり大声を出されてどうなされた!?」
「あっ、いえ、なんでもないです。お話を続けてください」
「そ、そうか」
まぁ、とりあえず魔族との仲は別に悪くなく、毎年1回必ず魔族と合同でお祭りを開催するぐらいの仲だとか。そうなってくると、完全に俺達が召喚された理由がわからない…何故だ?何か聞き逃しがあったのか?はっ!?もしやあの時!!魔王が女の子と聞いて、ロリか!?やはり魔王はロリっ子なのか!?と一人でテンションを上げている時に聞き逃したのか!?その後、神咲様から罰が下ったのは、言うまでもない。そして、クラス全員+陛下にまで、まるでゴミ虫を見るかの如く視線を向けられたのは、やはり言うまでもないだろう…あれ?なんか、蔑まれてるはずなのに、なんだろう?嫌じゃない…?やばいやばい、これ以上は変な性癖に目覚めそうなので、そろそろ自重しておこう。あれ?俺別に何もしてなくね?
「最後になるが、神族についてですな。この話は皆集中して聞いてもらいたい」
おや?陛下が神妙な面持ちで話し始めたぞ?なるほど…ここからが肝心の異世界召喚の確信に迫る話になる訳か…大分脱線しまくっていた気がするが、細かいことは気にしないでおこう。
「先程少し触れたように、神族について我々の間でも、ハッキリとした情報は無いのだ」
「え?なんでですか?5種族の中に含まれているのですよね?なら、文化の違いはあるかもしれないですが、何かしらの情報や噂などは出回るのではないのですか?」
「うむ、ユキ殿の言った通りあくまで、噂、程度のものは私の耳にも入ってくるのだが、その噂自体も漠然としないものが多く、やれ天界にすんでいるやら、海底に住んでいるやら、将又、神族は本当は存在せず、人間が成り代わっているだけではないか?と言ったように耳を疑うものばかりなのだ。素直に申し上げると、全てが謎に包まれている存在。としか言いようがないのだよ」
「でも、種族に含まれているんですから、目撃された事が1度はある、ということなんですよね?」
「ああ、だがそれも大昔の話であって、過去に世界が邪悪な存在に滅ぼされかけ、全ての民が生きる希望を無くし、絶望の淵にあった時、この世界の創世神と呼ばれ、現在でも崇められている女神イブ・スフィア様が我らが住む世界、“アダムスフィア”の民の前に姿を見せ、そして我らが祖に向かいこう仰られた」
『希望はあります。世界に闇があるならば、必ずそれを照らし、埋め尽くさんばかりの眩い光があるのです。諦めてはダメ、我が愛する子らよ、今こそあの儀式を……異世界から勇者を呼び出すのです。我々神族はこの事象には手を貸すことができません。ですが安心しなさい、必ず、必ず勇者がこの世界に希望の光を灯してくれることでしょう…我々はいつまでもあなた達を見守っています。さぁ、行動に移りなさい、そして我々が愛してやまぬこの世界の事を頼みましたよ』
「そういうとイブ・スフィア様は各国の王族に勇者召喚のための知識を授けたとのこと。そして、闇は永久の彼方へと封じられ、世界に平和が訪れた…」
ふぅ〜と陛下が息を吐く、なるほど勇者召喚のための知識を授けたのはあのアホ女神だったのか…おっと、まだ陛下の話の途中だったな
「そして、闇が封じられてから1000年という時を経て、封印が弱まってきている。封印が弱まったのが原因か、近頃魔物たちの様子がおかしくてな、何10年に1回あればいいかの、スタンピードがここ最近立て続けに起こっている。我々アダムスフィアの民は、兼ねてから決められていた事項により、それぞれの国の王が集まり、勇者召喚のための知識を共有したのだ、そしてあなた方を召喚したということなのだ」
「そ、それで私たちに何をさせようと?私はともかく、この子達はまだ子供ですよ?この子達にもできることなら私たちも全力でフォローしますが、危険なことはさせたくないのですが」
「ユキ殿がそう仰られるのは致し方ないことだとは承知の時事だが。だが、どうか…どうか我々を助けて欲しい…闇が解放されてしまったら、我々は滅びの時を待つだけになってしまうのだ…」
「その、闇…ですか?それはそれ程までに強力なものなのでしょうか?この世界の人たちは闇に対しての対抗手段などはないのですか?」
「無いな」
「な、なぜ無いと断言出来るのですか」
「唯一闇に対抗できる手段が勇者だけが使えると言われている、光魔法だからだ。1000年前もただ滅びの時を待っていた訳では無いのだよ。我らの祖はその時代の全ての知恵を集め、最大戦力で戦に臨んだんだが。結果は思うようには行かなかった…」
「全滅…ですか…?」
「全滅とまではいかなかったが、それに近い状態に貶められたと聞いている。その時代の英雄と呼ばれる者達もその戦で命を落とし、世界は闇に包まれていった…」
「そう言えばさっきから闇闇言ってるが、その闇ってのは一体なんなんだ?肝心な所をまだ何も言ってないじゃないか、それなのに助けてくれなんて都合が良すぎると思わないのか?どうなんだ国王さん??」
「ちょっ、ゆうちゃん!!国王陛下に向かって言葉がすぎるわよ!!すみません陛下!ほら、ゆうちゃんも頭下げなさい!」
「いや、ユキ殿いいのだ。確かに私も言葉をはぐらかせていたしな。指摘して頂けるのを待っていた訳では無いのだが、私としても話しにくいことなのだよ」
「話すのか、話さないのかどっちなんだ?俺たちは何も知らずいきなり召喚され、挙句に伝えられるはずの情報まで秘匿された状態で、世界救ってください?ふんっ…余りにもご都合がよろしいこって、それが人にものを頼む時の、ましてや命懸けで戦えと言ってる者達に対しての正しい態度なのか?あぁ?どうなんだよ国王さん?」
「ゆうちゃん!!!!!!」
「うるさいよ雪姉、ちょっと黙ってて」
「なっっ…」
雪姉が俺の態度に絶句してる。まぁ、今まで黙ってたやつ(奇妙な行動で話の腰を折ることはしていた)がいきなりこのような態度で、一国の王に対してこんな言葉遣いで話し始めたら、年長として止めるのは当たり前だけども、それでもこれだけは聞いておかなければならないことなのである。後で雪姉には死ぬほど謝ろう
「……ユウキ殿と言ったな、何を言いたいのだ?」
「だから、さっきから聞いてるだろ…その闇ってのはなんだ?具体的な説明をしてくれ、それを聞いてからでないとこいつらも納得しないだろ?腑に落ちないのと、きちんと説明を受けた上で臨むのでは意欲にも差が出ると思わないのか?」
「……そうだな、これだけは言わせてくれ、話さないつもりはなかったのだ、ただただ言い難いことだったのでな、この情報は各国の王族の中でも一部のものしか知らぬゆえ、他言無用で頼む」
「わかったから話してみろ」
「闇というのはだな、邪神の事だ」
「は?神がこの世界を滅ぼしてるのか?」
「神というのには齟齬が生じるが、闇堕ちした神、と言ったところか」
ほぉ、なるほどなるほど…魔王が敵ではないなら、邪神、すなわち神が敵である可能性もあるってことか。
「で、では、私たちはその邪神と戦うのですか?」
「そんな…神様と戦うなんて…」
「無理だろそんなの…」
「無理だよぉ〜元の世界に今すぐ帰してよぉ…」
などとクラスメイト達も悲観的になってるようだ。まぁ、そうだろうな…流石に俺も驚いたし、まさか神と戦うことになるとは夢にも思ってなかっただろうからな
「そのために勇者様方には特別なスキルが女神様よりさずけられているはずだ。次はそちらの説明をさせてもらいたい」
おっ、ようやくその話題に触れるのか、何となく邪神についての話はあまりされていない気もするが、元々神族についても噂程度の話しかされてなかった為、そこまでクラスメイト達も気にしてないようだった