第26話 眠れぬ王都 ③
奇跡のような光景を目の当たりにし、波が引く時のように一瞬王都中…いや、世界中が静まり返った。
その光景を作り出した者が雲を消し飛ばし、王都の光が無くなったことにより、忘れていた光を取り戻したかの如く、より一層光り輝く星々がユウキの事を見下ろしていた。
人々が夜空の下、空色と白色のオーラを身に纏い、二振りの剣を構え、空に浮かぶユウキを神の使いであると信じ、祈りを捧げる。
…この国をお救いください…と…
自分たちの手で救えない歯痒さに歯を強く噛み締める騎士団の面々や冒険者達は、悔しさを覚えながらも頼む!と拳を握りしめていた。
「さて、調子はどう?ミスティ?」
「う〜ん、あんまいつもと変わらないのです!」
普段と変わらないミスティにガクッと肩を落とした俺は、少し肩の力が抜けるのを感じ、これが狙いだったか!やるなミスティと思ったところで、「むむむ?待ってなのです!ちょっとだけお胸が大きくなった気がするのです!」と続けた為、無いな…と真顔になってしまった。
そんなコントを繰り広げてる相手を敵が待ってくれるはずもなく、夜空に数千…いや、万を超える火球が発現する。
ーー…グゥオオオオッオオオ…ッッ!!
邪神もどきが低く唸るように言葉?を発した瞬間、全ての火球が俺目掛けて一直線に飛んでくる。
「おいおい…いくらなんでも多すぎるぞ…」
とげんなりした俺は、魔法の詠唱を省略し魔法には魔法で対処しようと、魔法名を唱える。
「我は魔導王なり、全てを司る全知の魔神なり…魔導の真髄を見せてやろう…水神の抱擁…ッ!」
魔法の詠唱が完了した瞬間…俺に襲いくる火球が一瞬のうちに全て水に包まれ、ジュッという音を上げ掻き消されていく。
それに負けじと邪神もどきも火球を増やし、俺を焼き殺そうと打ち続けて来るが、一度発動した俺の魔法は使用者の俺が発動を解除するまで、火に即座に反応して、その場で消し去る。
それを何度か繰り返してると、痺れを切らしたのか、火球を発動しながら、奴の背後にとてつもない大きさの魔法陣が出現する。
あれはヤバイ!!!
俺の本能が警笛を鳴らし、危機察知スキルがガンガンと頭を殴られたように警戒を促している。
急いで俺も別の魔法の詠唱を開始する。
「我は魔導王なり、全てを司る全知の魔神なり…
魔導の真髄を見せてやろう…」
更に詠唱は続く…
「…我が魔導は神をも穿つ必殺の一撃…なりそこないに見せてやろう…本物の輝きを!しかとその目に焼き付けよ!!極大魔神法…"海神の神槍"ッッ!!!!」
俺の詠唱が終わると同時に邪神もどきの魔法が解き放たれる。
それは王都の空を真っ赤に染め上げ、遥か彼方まで焼き尽くさんと放たれた必殺の一撃。
この一撃はきっと世界を一周回ってもなお衰える事なく全てを消し炭に変えていただろう。それ程の威力を誇る、邪神もどきと言えど、流石神とステータスに表記されてるだけのことはある。
だがそんな化け物ももう1人居れば相殺されてしまう。
知能の低いなりかけの邪神では、どうしても目の前の敵が自分よりも格上だとは思えなかったのだった。
そして完成した俺の魔法が奴の魔法と拮抗したのは一瞬のことであった…
少し押されているように見えた俺の姿に、グェェエエッォォ!!と勝ち誇った様に雄叫びを上げ、魔力の出力を極限まで高め、一気に勝負を決めようとしてきた。
その奴の行動に、計画通り…とニヤリと笑った俺はさっきとは打って変わって魔法の密度を2倍、3倍と徐々に増やしていき、とうとう10倍に差し掛かる。すると一瞬で邪神の魔法を打ち破り、本体目掛け、水で出来た神々しいまでに精密な槍が邪神を穿とうと襲いかかる。
その瞬間、山の様な図体を捻り何とか回避を試みた邪神もどきであったが、右腕に被弾しその腕を肩から下…並びに、脇腹の辺りもゴッソリとえぐられ、あまりの痛さに、ゴガォォァァアアアアッッッ!!!と悲鳴をあげる。
「おいおい、それくらいで喚くなよ?周りを見てみろ、この地獄絵図を作り出したお前がその程度でみっともなく喚くんじゃない!!!」
海神の神槍をすかさずもう一撃叩き込み、今度は奴の左手を消し飛ばす。
だがしかし、徐々に腕が再生して言ってることに、俺は舌打ちする。
これじゃキリがないな…一撃で消し飛ばすにはやはりアレしか…
思考を加速させながら、邪神もどきから伸びて来る幾つもの触手を日本の剣で切り裂き続けていると、不意にリリアから念話が届く。
(ユウキさん!私に手伝える事は何かないでしょうか?これでも魔法はそれなりに使えます…先程のユウキさんの魔法には遠く及びませんが…それでもその触手くらいなら防ぎ切れると思います!)
どうか私にも手伝わせてください!とリリアの熱い思いがユウキに一つのアイディアを浮かび上がらせていた。
(リリア…君のおかげでこの状況を打破する一筋の光明を得る事ができた…この作戦にはリリアだけじゃなく、この国が一丸となって行う必要がある。君にそれを任せたいんだけど、やってくれるかい?)
そう問われる前からリリアの答えなど決まっている。
(そんなの聞かれるまでもありません!私はユウキさんの仲間ですから!仲間の為に全力で何とかします!)
リリアの回答を聞いた俺は、敵わないな…と薄く笑みを浮かべながら、「西音寺流二刀流術 奥伝 桜花千刃!!」と全ての触手を桜の花弁のような美しい桜色をした千の真空派を発生させ斬り飛ばす。
そして俺は、声を張り上げ魔法の力を使い、王都全体に自分の声を届かせる。
「僕の声が聞こえるか!?こいつを倒す為にはみんなの助けが必要だ!どうかこのまま聞いて欲しい!」
その声に下を向き、涙を流しながら祈りを捧げていた者が徐々に顔を上げ、ユウキの言葉に耳を傾け始める。
「この地獄のような光景に目を覆いたくなるのはわかる!だけど!君たちはまだ生きている!!なら、この最悪に僕と共に立ち向かって欲しい!!」
その声に、目が虚になっていた者達が徐々に光を取り戻し始める。
「僕はこの国の人間じゃない!!だけど!この国でできた大切な人を失わない為に闘っている!!余所者にこの国の命運を任せていいのか!?君たちが過ごしてきたこの国は、こんな得体の知れない化け物に滅ぼされるのを黙って見てるのか!?」
その言葉に、「黙ってられるか!」「そんな事許せるわけないだろう!!」という声があちこちから上がり始める。
「なら、何故立ち上がらない!!力がないから何も出来ないんじゃない!!君たちが行動する理由なんてなんでもいいじゃないか!!大切な家族を守りたい!子供や恋人を死なせたくない!!信念を胸に抱いた時!初めて何かを成す事ができるんだ!!」
静寂が訪れる…たが、この静寂は先程までの絶望に打ち拉がれていた時の静寂とは違かった。
ユウキの次の言葉を待つ。その様子はまさに嵐の前の静けさ…そのように思わせる異様な光景であった…
「今こそ奮起する時だ!!奮い立て!自分の信念を燃やせ!!勝利を自らの手で手繰り寄せろ!!!アメジスティアの民よ!奮起しろ!!僕が!必ず絶望を終わらせてやる!!だから!僕に力を貸してくれ!!」
その瞬間、王国中の心が一つになった。
そして、人々の雄叫びをが地鳴りとなって大地を揺らし、空気を震わせ、確かな意思の力で邪神を怯ませていた。
邪神の強さの源は人の負の感情である。
今この国に絶望を心のうちに宿す者など誰一人としていなかった。その為、邪神もどきの再生速度は目に見えて低下し、攻撃速度も落ちている。
「僕は今から奴を一撃で消滅させる為の準備に入る!!魔法を使える者は僕の合図で自分の使える最強の魔法を叩き込んでくれ!!そして、魔法を使えない者は今から僕が魔道具を結界内に転送する!それに魔力を流し込んで魔力を貯めてくれ!!」
ユウキには見えていないが、確かにユウキの言葉に頷く人々の姿が幻視された。
「そして、自分の武力に自信のある者は、今僕に襲いかかって来てる触手を斬り飛ばす役を担って欲しい!!任せても大丈夫か!?」
この言葉に、アウリムを筆頭に騎士団のメンバーや冒険者達から、「任せておけ!!」と頼もしい返事が返ってくる。
この国は今…邪なる者を滅する為に一丸となり手を取り合う。全ては、平穏な日々を取り戻す為に…この永遠に感じられる眠れぬ夜を終わらせる為に…
何より、1人で邪神もどきの攻撃を凌ぎ続けたユウキが終わらせると約束した。その希望を自分たちの手で繋ぎ止めるために、今ここに奮起する。
国中の魔導師達の魔法の煌めきが頂点に達した時
ユウキの…いや、この国の人々の未来を掛けた闘いが着実に終わりに向け、時を進め始める。
止まっていた時が動き始めるように、時計の針がゆっくり動くカチッ、カチッという音が鮮明に彼等の耳に響き渡る。
そして、ユウキの号令が下される。
「西音寺流二刀流術 中伝 虚……今だよ!総員放て!!!騎士団長!!後は任せたよ!!」
ユウキを突き刺すように集まっていた触手はユウキがいた筈の場所で空を切る。ユウキの技、虚によりその場に虚影を作り上げ、アウリムに後を託し、退避したユウキは即座に自分の詠唱を始める。
次に俺が姿を現す時…
それが、お前の最後だ!
そしてこの眠れぬ夜を終わらせる…
そう思い精神統一を始めるユウキなのであった。
本日も読んで頂きありがとうございます!
剣殆ど使わんかった…
次回活躍します…
この次の話で一応決着の予定です。
次回の更新は明日のお昼頃になります!
日曜なので何話か更新して、できればエピローグまで公開できればいいなと思ってます!




