第25話 眠れぬ王都 ②
そろそろ第1章もクライマックスです!
一方その頃…
ユウキが邪神もどきと断定し、イブの事をディスってる少し前、リリアはユウキと邪神もどきの戦闘音が王都中に響き渡る中、必死に王国民をユウキが指定した避難場所に誘導していた。
「では、アマソラ様達は次はこの区画に行き、人々を誘導してきてください」
「あぁ、わかりました」
「了解です、リリアさん」
最初こそ何故リリアは、これ程までに正確に逃げ遅れている人の位置を把握してるのか疑問に思っていたが、このような有事に一々気にしてる余裕など無かった勇者組や王国騎士団の面々は、素直にリリアの言う事を聞く事にした。
次はここに!あっ、あなた達はこっちに行ってください!とせわしなく指示を出すリリアは、的確な指示を行いながらも、少し焦りを覚えていた。
(くっ!この国の広さでは一ヶ所に集めるのは時間がかかりますね…幾らユウキさんと言えど限界はあるはず…なんとか後15分以内に集め切らなければ…)
当初30分の猶予が残されていたのだが、既にユウキが戦闘を開始してから15分と言う、短いようで永遠にも感じられる時間が過ぎ去っていた。
(12区画あるうち、ようやく5つの区画で避難が完了したと報告がありました…ユウキさんが指定した避難場所は系6ヶ所…何故12ヶ所じゃないのでしょうか…?)
まぁ、ユウキさんには何かしら思惑があるのだろう。そう思いリリアはとにかく迅速に避難を完了させることだけを考えるのであった。
そして、避難場所の一つに指定されたとある宿屋の周りは、多くの人でごった返していた。
言わずと知れたユウキの泊まる宿である。
そこの看板娘であるリーファは最近仲良くなった二人の姿を懸命に探していた。
「ユウキお兄さん!!ミスティちゃん!!何処にいるの!?」
「お嬢ちゃん、誰かお探しですか?」
「あっ…騎士様…」
手伝いますよ、そうリーファに話しかけたのは王国騎士団第二近衛部隊隊長である女性騎士、ライムネル・ミュレムであった。
「騎士様…うちの宿に泊まっていたお兄さんと私と同じくらいの歳の女の子が見当たらないの…」
ミュレムはそうですか…と難しい顔で顎に手を置き試案する。リリアの命により、第六まである騎士団の隊長と副隊長に指示されたのは、は避難場所の治安維持。
果たして…どうしたものか…と思っていたその時、思わぬ所から助け舟が現れる。
「リーファの嬢ちゃん!!」
「あっ、ベオトロおじちゃん!」
リーファとミュレムの前に現れたのは、宿屋の隣で鍛冶屋を営むベオトロその人であった。
「こんなとこで何してんだ!!女将さんが心配してたぞっ!!」
「ひぅっ…だ、だってユウキお兄さんが部屋いなくて…」
「あぁん?ユウキの坊主が?そうか…あいつならきっと大丈夫だ、そんな事よりさっさと行くぞ!騎士様のお手を煩わせるな!」
迷惑かけたな、それだけ言いリーファを引きずって連れて行くベオトロは側から見たら幼女の誘拐現場のように見えた。
まぁ、知り合いみたいだし大丈夫だろうと自分の仕事に戻ったミュレムなのであった。
「お、おじちゃん!い、痛いよっ!離して!」
「おう、そいつはすまんかったなっ…て何処へ行く!?油断も隙も無いな…」
ベオトロがやり過ぎたか?と手を離した瞬間逃げ出そうとしたリーファの首根っこを掴み持ち上げるベオトロは、はぁ〜と深く溜め息を吐くのであった。
「だって!お兄さん達を探さないと!ベオトロさんも手伝ってよ!!」
「だから坊主なら大丈夫だって言ってんだろ?大人しくしてろ!」
「なんで大丈夫って言い切れるのさ!ユウキお兄さんはまだ新人さんだってお姉ちゃんが言ってたもん!!」
両頬を膨らましながらベオトロを睨みつけるリーファは、怒っているのだろうがとても可愛らしく、微笑ましいとしか思えず、全く怖く無かった。
「いいか、あまり大きな声では言えないが、リーファの嬢ちゃんなら坊主も許すだろうから、話すが…さっき言ってたミスティってのは、坊主の所有する伝説の武器が人の姿をしているんだ」
ベオトロが小さな声でリーファの耳元で告げた衝撃の事実に、思わずリーファは叫び出しそうになる。
それを済んでのところで口を塞ぎ事無を得たベオトロは言葉を続ける。
「つまり、だ…坊主は新人は新人でも、伝説の武器の所持者に選ばれた実力が備わってる。だからあいつは一人でも大抵のことはなんとかしちまうさ…だから嬢ちゃんは大人しく帰りを待ってろ、いいな?」
リーファは思う。本当にあのお兄さんは何者なんだろうか?伝説の武器に関するお伽話は、リーファの大好きな物語の一つだった。
その物語に登場する主人公にユウキが成っていた事を知り、「ユウキお兄さん凄い…」とだけ呟き、ベオトロの言葉に頷きを返したのであった。
リーファを女将のところまで連れてきたベオトロは、女将に叱られているリーファを尻目に今尚、何者かがあの化け物と戦闘してる姿を遠巻きに眺めていた。
まさかとは思うが、あれは坊主なのか…?となんとなくそんな気がしたベオトロは、「いや、まさか…な…」と無い無いと首を横に振り、大方たまたま王国に来てた高ランク冒険者とアウリム辺りが共闘してんだろうな…そう思い、頼んだぞ…と思いを託したのだった。
そしてリリアの視点に戻る。
残り時間が5分を切った所でようやく終わりが見えた。
後一区画で終わるっ!ユウキさん待っていてください!私はやり遂げて見せます!
と最後の一踏ん張りだ!と周りの人達に激励していたリリアだったが、ここで一つの誤算が生まれる。
「リリアよ、後一ヶ所の避難がなかなか進まないのは何故だ?一番最初に動き始めて何故まだ終わらぬ…何かあるのでは無いか?」
「お父様…ですが、私が頂いたラピス様の魔法具にはなんの反応も…っ!?」
リリアはエギルに言われ最後の一区画に向かった人員を思い出し、まさか!?と顔を顰める。
「む?どうしたリリアよ。何かわかったのか?」
「お、お父様…1番初めに避難場所を指示した時に真っ先に飛び出していった方達を思い出してください…」
その言葉に、その場にいたエギルを含め自分の受け持つ区画の避難を終わらせ、何か手伝えることはないかと戻って来ていた天空達は揃って顔を顰め、その名を口にする。
「くそっ!あいつらか!高田と関根…こんなとこでも足を引っ張りやがって…おい!神咲!俺らが向かうぞ!」
「そ、そうね!リリアさん私たちがなんとかしてくるから、ここは任せたわね!」
それだけ言い、この世界に来てスキルを得てから身体能力が格段に上がった二人は、人の居なくなった王都を風のように走り、件の区画に直行する。
「陛下…あの2人の処遇を少し考えねばいけなくなりそうですな…」
「…そう、だな…致し方ない、この窮地を無事乗り切った時にちょっとした罰を与えることにする」
残りされた時間は後僅か…果たしてユウキの指定した時間に何が起こるのか…
リリアが質問してもユウキは悲しげに首を振るのみで内容は教えて貰えなかった。
だが、ユウキのただならぬ雰囲気を感じ取ったリリアには自分が動かなくては!と思わせるには充分であった。
(ユウキさんには、この後の展開が読めているのでしょう…でなければ、あんな寂しそうな顔をするわけないのです…私、アメジスティア・ユナ・リリアはユウキさんを信じると誓ったその時から、何が起こっても前に突き進むのみ!この信念だけは曲がることはありません!)
そして残り時間が10秒を切ったその時、第一区画から避難完了の閃光弾が夜空に上がった。
それを見たリリアは瞬時にユウキに念話を繋ぐ。
(ユウキさん!全国民の避難が終わりました!)
(よくやった!絶対にその場から動くなよリリア!)
その瞬間、6ヶ所の避難場所にはユウキが高速戦闘中に、長文詠唱する事によって最初に貼ってあった王城の結界の10倍を凌ぐ強度の結界がそれぞれの場所に貼られる。
ユウキが結界を張った次の瞬間、王都が突如として真っ赤に染め上げられ、熱により結界の外側にあった建物は溶岩のようにドロドロと溶けていた。
邪神もどきの回避不能スキル、終末の焔という長範囲攻撃により、王都全体が地獄絵図と化していたのであった。
この国が培って来た栄華や繁栄が一瞬にして、過去のものへと変わってしまった。
そんな光景に涙を流し絶望する人々は、この時皆一様に同じことを思っていた。
神は何故このような試練を我々に与えるのか…何故この国を救ってくれなかったのか…と
この絶望を作り上げた元凶が、人々の負の感情を感じ取り何処か嬉しげな雄叫びを上げた、次の瞬間…ユウキの一撃により強制的に黙らされていた。
「いい気になるなよ!クソ野郎!これでもくらいやがれ!西音寺流剣術 秘奥義 神雷無影斬!!」
アウリムの事を避難場所の一つに強制転移させたことにより、その場に1人になったユウキは口調を元に戻し、必殺の一撃を叩き込む。
そして、邪神まどきに確かなダメージを与え吹き飛ばし、この悲しき闘いを終わらせるための詠唱を開始した。
「我は願う、この国の悲しみを取り払う圧倒的な強さを!闇に支配され、今尚苦しみ続ける騎士を救う癒しを!!そして、大切な人を護りぬく誇りを胸に!!今ここに顕現せよ!!」
カッッ!!!!
次の瞬間、上昇気流により、急激に発達した雲を切り裂き光の柱がユウキの目の前に立ち上がり、王都を白く染め上げた。
「我が手元に来たれ!!不滅の聖剣!エクス…カリバァァッッ!!!!」
光の柱がユウキの目の前に凝縮され弾ける。
キラキラと輝きながら目の前に浮かんでいる一振りの美しい剣…
これはこの世界に存在しないはずの物だった。
そして…
「我は幻想を願う者…儚き希望を実現する者…我が願うは美しき幻想郷の再建なり!我願いの為に神威を解放せよ!!」
その瞬間、ユウキの持っていたもう一振りの剣であるミスティが光り輝く。
「我が愛剣…ッ!幻想剣ミスティルテイン!!」
その時世界中で不可思議な出来事が起こった。
夜であった筈の空に何故か青空が広がっていたのだ…
その空はまるで、ミスティの美しい空色の髪のようであった。神が降臨するのか?と世界中の人々が空を見上げ、祈りを捧げる。
よろよろと起き上がった邪神もどきに俺は宣言する。
「お前がこの先俺を圧倒する事はない、ここから先は俺のターンだ!!」
突如として現れた謎の剣、そして神威を解放したミスティを強く握りしめ邪神もどきとの最後の戦闘が今、始まったのである…
次話は明日のお昼更新になります!
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