第133話 水の都 Ⅰ
「おっしゃっ!ユウキはん!見えて来たでー!」
「やっとか…」
「長かったですね…」
魔神族に関する情報を得た俺達は翌日の朝には村を旅立ち、最後の村を経由して等々目的の場所へと辿り着いた。
「あれが魔族領第三の都市ポセイディアね…」
「水の都…その名に恥じない美しさね…」
「マスター!すっごい綺麗なのですー!」
「パパ見てー!綺麗ーだよー!」
「ふわぁ〜!ユウキ様!虹が掛かってますよ!」
チミっこ3人が馬車に備わっている窓から顔を出し、目の前に広がる幻想的な光景に瞳を輝かせていた。
斯く言う俺も目の前の絶景に目を奪われていた。
「ここが魔族領最大の観光名所や!」
「魔族領で毎年開催される魔導祭で訪れた人々が必ず立ち寄るんだぞ?」
「そういえば普段結界で阻まれてる魔族領だけど、魔導祭の最中は行き来が自由になるのか?そこら辺深く聞いてなかったなそういえば」
「せやで!その時だけ魔族領との国境に魔族が派遣されてな?魔族領内の都市を自由に行き来できるパスを渡すねん」
「因みにそのパスにはその人の生態情報を記録する為、何処で何をしてるのかがわかるようになってるぞ!」
「なるほど、悪い事しようとしても筒抜けって事ね。でも、プライベートは守られてるんだろ?」
「それはもちろんだ!それに関しては我々四天王と幹部達が責任を持って管理しているぞ!」
「本当に魔導祭の時期は忙しくて嫌になるで…まぁ、商人としては儲かるからええんやけどな!それに各国から商人がここぞとばかりに商品を持ち込むんや!うちはそれの管理を一任されてるんやで!」
なるほどねぇ……魔導大会に乗じて行われる祭りのことを魔導祭って言うのね。
俺はミュウラ達の話を聞きながら、窓の外に映る景色を眺める。
小高い山から水が流れ落ち、その衝撃で創り上げられた幾つもの小さな湖が微生物や成分によるものだろうか?鮮やかなパステルカラーに染められていた。
更には水飛沫により一年中虹が掛かってるらしく、水の都以外にも虹の都や七色の都市と呼ばれている。
因みに街並みも遠くから見てわかるくらいカラフルな色合いをしている。多分だが街の人達がこの風景に合わせに行った結果こうなったのだろう。
暇な時にでもスケッチしに来ようかな。
そんな風に美しい光景に魅了されていると、あっという間に都への入り口に辿り着いてしまった。
サッサと中に入り、予定を終わらせるのが目的ではあるものの、先ほどまで見ていた光景を暫く眺めていたい衝動に駆られるのは、仕方がない事だろう。
「よっしゃ!早速街の中を案内するで!」
「ありがとうございますミュウラさん!」
この街を治める四天王はめんどくさい人らしく、アポ無しでの訪問が許可されないらしい。
なので毎回1日待たされるのだとか…
その為、今日1日街を見て回ることができるのだが…
「うぅ…先輩、なんでこんな素敵な街に限って直ぐに出ていかなきゃいけないんですか…」
「……俺もそう思うけど我慢してくれ…魔神族との戦いさえ終われば幾らでも滞在できるから…」
そう、魔神族の目的が魔導大会だとすると、早めに対策を講じないと手遅れになる。
馬車の中で聞いた話によると魔導大会によって集まる人は武闘大会の5倍……
武闘大会ですら何十万人という人が一つの国に集まっていたのだが、それを遥かに超える人が集まるのは1年に一度しか訪れられないというプレミア感からだろうか?
もし、魔族が武闘大会に興味を持ってしまったらインカローズにもそれぐらいの人が集まるのかもしれないな…
まぁ、基本的に魔族が魔族領から出る事は滅多に無いらしいから、そんな事は起こらないか…
「とにかく!1日時間が取れたんだ!折角だし観光名所でも回るぞ!」
「あなた?その前にやる事があるでしょう?」
「…あぁ!そうだな!とりあえずフェイト達を呼んであげないと!」
俺はローズに促され、屋敷でお留守番してる3人に念話をすると、支度が完了したら直ぐに連絡すると言われ念話を切られてしまった。
「さて、んじゃフェイト達の支度が終わるまで、皆んなも着替えるか?」
「そうですね…折角ですしオシャレしないとですよね!」
「そうね!それがいいわ!行くわよみんな!」
「あっ!ちょっと待ってよお姉ちゃん!」
「あなた?少しの間ルビー達のことよろしくね?私達は馬車の中で着替えてくるわね」
「待っててくださいね先輩♪」
「あ、あぁ!行ってらっしゃい」
「そしたらうちも着替えてくるでー!」
仲間達にくっついて案内役のはずのミュウラも行ってしまった。
そして、もう1人案内が任せられそうなダミル殿は、例の如くいつの間にか居なくなっていた。
本当に消えるの得意だよなあの人…
それはともかくリリア達女性陣のおめかしを待つ間、チミっこ達とリンと近くの噴水広場で待つことになった。
「パパー!この水いろんな色が出ててすごいね〜♪」
「本当だなぁ…どうやってるんだろうな?」
「マスターもわからないのです?」
「ん、お兄ちゃんがわからないなんて不思議」
「リルもユウキ様ならわかると思いました!」
なんか俺がなんでも知ってると思ってるのかねこの子達は…
知らない事は知らないのですよ?
まぁ、ある程度予想はつくけども…
「正解かはわからないが遠くから見た時に色んな色の湖が見えただろ?」
「見えたのです!綺麗だったのです!」
「ん、凄かった」
「きれいだったね〜♪」
「リルも見惚れてしまいました…」
4人がその光景を思い出してるのだろう…それぞれいい笑顔で感想を伝えて来た。
その笑顔を見てると俺も自然と笑みが溢れる。
「綺麗だったよな!多分その湖からそれぞれ地下に管を通して、魔法で固定してるんじゃ無いかな?魔術回路の解析をすれば一発でわかるんだけど…それじゃ折角の景色が台無しになるだろ?」
俺が4人の頭をぽんぽんと交代ずつ撫でながら噴水を眺めていると、俺の表情を見て何かを思ったのだろうか?4人とも静かに頷きそれぞれ俺にしがみついてくる。
今のうちにみんな気になってるヘルズビートルがどうなったかを説明しとくと……ん?俺は一体誰に説明するんだ……?まぁ、いいか…
でだ、ヘルズビートルと従魔契約したのはリルだ。
理由は簡単だ。
リル自体の戦闘能力が低い為他の要素に頼る他ない。どうしたものか…と考えていた所にリリアが良さげな魔物を連れて来たのだ。
俺の思惑をリルに説明した所、俺が言うならそうしますとアッサリと了承されたので、そのまま俺が仲介役として従魔契約を施した。
因みにリルが嫌がった場合は、ヘルズビートルを気に入っていたルビーに契約するつもりだった。
そして、契約する際にリルがヘルズビートルの名前を付けたのだが……
見た目は漆黒のカッコいいヘラクレスオオカブトみたいな姿をしてるのに、リルに名付けられた名前はヘラちゃんだった。
……一応、ヘラクレスオオカブトというカブトムシがこの世界にいるわけも無いので、なんでその名前にしたの?と名前の由来を聞いてみたのだがメンタルがやられてそうだからです!といい笑顔で答えてくれました。
なるほど、メンタルがヘラってるってことね……
(ご主人様、支度が終わりました)
(おっと、了承!リリア達の着替えが終わったら馬車と一緒に迎えに行くわ)
(承知しました。お待ちしております)
リリア達が着替えに行ってからまだ10分と経ってないので、もう少し時間がかかりそうだな…
フェイト達の準備が早いのは、フェイト自身はメイド服のままだからだろう。
支度をするのはフェイトではなくてモモとシロナの支度の手伝いって所だろうな……
とりあえずリリアに念話しとくか…
(おーい、リリア!フェイト達の支度が終わったみたいだから急いでくれ)
(えっ!?早いですね!?わ、わかりました!皆さんに伝えます!)
(頼んだぞ〜)
これで少しは急いでくれるだろうと思う。
因みにルビー達が着替えない理由は、普段から俺が可愛い服を着させてるからである。
因みにリンに関しては俺が幻想旅団の紋章の入った服を着替えない限り、自分も着替えようとしないのだ…
なんでも
「私は全部お兄ちゃんと一緒がいいから」
とちょっとヤンデレ入ってきたのか?と心配になるぐらい俺と同じ行動をしたがるのよね。
まぁ、そんな風に甘えてくるリンも可愛いからオールオッケーだけどな!!
それはともかく、立って待つ必要もないので、近くにあったベンチに一緒に座り、リリア達の支度が整うのをゆっくり待つのであった。
……………。
「パパ〜、ママ達遅いね〜」
「…女の子は支度に時間がかかるものなんだよ」
俺はルビーの純粋な質問に、遠くを見つめながら諭すように答えるのであった。
次の更新は明後日、木曜日の0時頃になります!
久しぶりに異世界っぽい世界観になりましたね…




