第23話 闇落ち
本日も読んでくださりありがとうございます。
あー、疲れた!返り血防ぐの忘れた!最悪!風呂入りたい!!てか、寝たい!!
はぁ…これ以上抵抗されても面倒なので、さっさと捕縛する事にするか…
「西音寺流緊縛術 中伝 影牢っと」
エギルのお願いを忘れていなかったユウキは、アールを捕縛し、エギル達の元へアールを引きずって連行する。
エギルの前まで引きずって来たアールの事を、ぽいっとゴミをゴミ箱へ投げ入れるようにエギルの前に捨てる。
「ほいっと、やぁ、陛下こうやって話すのは初めてだね。僕の名前はラピスだよ。よろしく」
敗者なのだから当然だが、あまりにも酷い捕虜の扱い方に顔が引き攣るのを感じながらも、ユウキの差し出した手に自分の手を差し出すエギルであった。
「う、うむ…ラピス殿この度は本当に助かった…改めてありがとう。この国は其方に救われた。最大限の感謝を込めて後日褒美を贈らせてもらう」
「いや、気にしなくていいよ?僕は僕の護りたい人の為に闘っただけだからさ…ぶっちゃけ国が滅んでも関係無いし、それほど思い入れもまだ無いからね…」
「だが、実際に救われたのは事実だ。其方が勝手にこの国を救ったと申されるなら、こちらも勝手に恩を感じ、お礼をしたいだけ。それで良かろう?」
ユウキがこの世界にやって来た時にこの人が国王で大丈夫なのか?と心配になっていたのだが、どうやら杞憂だったようだ。
「ふふっ、うんそれでいいよ!仕方ないから感謝は受け取ってあげる」
「では、この城にある宝物庫か「ただし!!」ら…?」
エギルの言葉を遮り、ぽかんと惚けるエギルにユウキは自分の欲しいものを告げる。
「僕が欲しいのはお宝でも、財産でも名誉でも無いよ」
「…?では、何を与えればいいのか、私には分かりませぬ…欲しいものがあるのであれば、教えて頂きたいのだが…」
「いいけど、それは後で話すとしてこの人の処遇を早く決めないとダメじゃない?」
あっ!と思いアールに目を向けたエギル達は、ユウキの魔法によって血が流れ出すのを止められてはいるが、治療も何もしていない状態のアールが、顔を蒼白にして白目を剥いている姿を見て、大袈裟に慌て始める。
「このまま放置しとくとこの人死ぬけど…どうする?一応回復魔法を掛ける事はできるけど…」
「す、少し時間を貰えないだろうか?少し話し合いたいのだが…」
「んー、僕としてはさっさと帰りたいんだけど、10分ぐらいなら待つよ…?でもこの人は5分もしないうちに昇天しちゃうと思うけどね!」
「そ、それは…」
どうするべきか悩んでいるエギル達の様子を見ると、死なれたくないという思いが久々と伝わってくる。
仕方ないな〜と思いながら、ちょっとサービスしてあげる事にしたユウキは、一つの魔法を行使する。
「我は願う、時間の理を司る力を!!猶予の部屋発動!」
その瞬間、アールの周りを結界が覆う。
「ラピス殿…?これは…?」
「ん?これ?遅延魔法だけど?」
何を当たり前のことを聞いてるんだ?と言わんばかりのユウキの様子に、異世界組以外の面々が絶句する。
リリアだけは、ユウキさんなら当然です!とでも言いたげに、うんうんと頷いていた。
リリアの事はスルーし、エギル達の様子に、紅葉達もユウキと一緒に首を傾げるのであった。
「陛下?陛下は何をそんなに驚いているのですか?」
「か、カミサキ殿…時間に関する魔法の使い手は遥か昔に存在されたと言われていたのだが、実際にどの文献を調べても、時魔法関係の書物は一つも見つかっておりません…我々は今…奇跡を目の当たりにしているのです…」
この国で一番魔法を知り尽くしている筈のエルが、存在しない筈の魔法と言った為に、勇者組の中には疑いの眼差しを向けるものがちらほらと現れ始めた。
「まぁ、疑うのはわかるけど…そんな目で見ないで欲しいな〜?殺っちゃうよ?」
ユウキがあはは〜と笑いながら一瞬だけ、殺気を漏らした事により、その場に静寂が訪れる。
静かになった空間を支配しているユウキは、証拠を見せる事にし、結界の説明を始めた。
「いいかい?この石が見える?この結果は外から一応干渉が可能なんだけど、こうやって石を投げ入れると…」
それだけ言い、ぽいっと石を結界に投げ入れる。
そして、結界の中に飛び込んだ石が、何故かゆっくりと地面に落ちてゆく光景を目の当たりにし、感嘆する者と首をかしげる者が半々くらいに反応が分かれた。
「この空間では、時が10分の1まで遅延してるから、石が地面に落ちるまでに通常なら1秒ぐらいだとすると、この中だと下に落ちるまでに10秒はかかるんだよね。つまりこの中では、陛下達が10分話してても、この中に入れば1分しかかかってない事になるよ!」
ユウキから説明され、首を傾げていた面々もなるほど!と納得する。
「…ラピス殿は本当に何者なのだ…?今なら女神だと言われても信じてしまうかもしれない…」
「あはは〜女神なんてないない!…まず性別が違うんだけど…」
後の言葉はあまりにも小さく発せられた為に誰も聞こえていなかったが、ミスティとシンクロしている今の性別は女の子であるので、強く否定できないのが悲しいユウキなのであった。
「そんなことより早く話まとめなよ?僕はこいつが変な動きをしないか見張ってるからさ」
「そうですな…時間は有限、1秒たりとも無駄にはできないですからな。皆集まってくれ!」
国王の号令に俺を除いた者達が、円を組むように話し合う姿を横目に、俺は今の戦闘を思い返す。
最後の技は賭けだったが…実戦でうまくいってよかった…
誰にも気づかれることなく、ほっ…と息を吐いた俺は、ミスティとのシンクロを解く事にする。
「魂の解放」
解除キーを唱えたユウキの姿が二つに分離した。
「ミスティおつかれ!」
「お疲れなのです!」
と2人はハイタッチを交わし、談笑を始める。
「いや〜強敵だったけどなんとかなるもんだね〜5割くらいは出せたし、ゴブリンの王よりは強かったかな?」
「えぇ…あんなのと比べるの可哀想ですよマスター…」
アメジスティア王国の副騎士団長であるアールをゴブリンキングよりはマシだな!と豪語したユウキにちょっと引き気味のミスティさん…哀れ副騎士団長…強く生きるのです!と結界の中で白目を剥いて伸びているアールに同情するのであった。
そんなこんなで、他愛無い話をユウキとミスティが笑いながらしているとエギル達の話し合いも纏まったのか、異議なしとの声が聞こえた為、話を一旦中断する。
「ラピス殿、お待たせして申し訳ない」
「構わないよ。それよりも纏まったみたいだね?聞かせてもらえる?」
「もちろんですとも。アールの処遇だが…満場一致で殺さない事に決定した」
まぁ、予想してたけどやっぱり生かす道を選んだか…
思った通りの展開ではあったのだが、一応大袈裟に驚いて見せるユウキの姿はハリウッドスター並みの演技力であったが為に、エギルは普通に驚いたと思い会話を続けた。
「えぇ!?即刻処刑する!とかじゃないんだ?それはどうして?」
「もちろんアールの仕出かした事は、当然許される事ではないが、結果としてこの国は滅びず、誰も死ななかった」
「それでも国家をに反逆した事には変わりないよ?」
"反逆"の言葉に一瞬顔を顰めるエギルだったが、ゆっくりと首を横に振り、ユウキの目を真っ直ぐ見て口を開く」
「確かにその通りなのだが…それでも、アールがこの国の為に行ってきた数々の善行は覆されることのない事実なのも確かであると、酌量の余地あり。我々はそう判断したのだ」
俺が思っていた以上に、この男は慕われているみたいだな…では…なんでこんなことしたんだ?
ユウキはただただ疑問であった。仲間に恵まれ、才能にも恵まれている。最初こそ戸惑いや焦りから剣筋が鈍くなっていたが、ユウキに発破をかけられてからは、研ぎ澄まされた剣技を披露していた。
ユウキの実力を5割も引き出したのだから、世界でも屈指の強さを誇るはずである。
その疑問は直ぐに解かれる事になった。
この場にいたユウキを含め、誰も予想していなかった結末と共に…
エギルの出した結論に返事を返そうとしたその時…
それは目覚めてしまった
パリーーーーンッ
ガラスが割れるような甲高い音がユウキの背後から聞こえ、突如として低く地獄の底から響いている…そう感じさせる程、悍しい声がユウキ達の鼓膜を震わせる。
ーー…陛下…に、げでぐだざぃ…グゥゥああぁ…ゴレいじょうおざえられなぃ…
まずい!!!咄嗟に先程エギル達を護らせていた、自在の盾を全開にし、この場にいる者全てを覆うように展開し、魔力を注ぎ込む。
その瞬間、卵が孵るようにビキ、ビキビキッと何かに亀裂が入るような音が聞こえ、次の瞬間…アールの身体が吹き飛び、凝縮されていた禍々しい魔力が一気に解放された。
ドゴォォォォォンン!!
凄まじい爆発音と共にアメジスティア城は消し飛び、爆発は王都全体を更地に変える…
筈だったのだが、ユウキが城に忍び込む前に保険として張っていた結界に遮られ、爆発の範囲はアメジスティア城の敷地のみに留まった。
ユウキの魔法により、ゆっくりと地面に下ろされた一同は、先程までここにあった筈の美しき城が忽然と姿を消してしまった事実に、身体を震わせる。
また、城下町も騒然としていた。
突如として爆発音が轟き、大地震を思わせるような振動が地面を伝い、所々で倒壊した建物から火の手が上がる。
泣き叫び、瓦礫に埋れた母の名を叫び、懸命に探そうとする子供の姿や、アメジスティアのシンボルであった、美しき誇りある城が崩壊し、何もなくなった空間を茫然と地に膝をつき眺める者もいる。
そして、朦々とと立ち込めていた真っ黒な煙が徐々に晴れていき、何かがいる。そう感じ取っていたユウキは、その姿を目にし、珍しく絶句することになる。
煙が完璧に晴れ、姿を現したソレはなんとも許容し難い姿をしていた。
アメジスティア城とほぼ同程度の大きさのソレは、顔と思しき部分を空に向け咆哮する。
ゴォッ……!!!!!
その瞬間、真空波が発生しユウキの張っていた結界を消し飛ばす。
「おいおい…第三形態があるなんて聞いてないぞ…?」
やっと帰れると思った矢先に、今度こそ真の闘いが始まる事実から目を晒したくなったユウキだったが、やるしかないのか…と覚悟を決め、ミスティに呼びかける。
「ミスティ!!100%で行く!頼んだぞ!!」
それだけ言うと、ミスティを二振りの剣に変え、邪なる者へと特攻を仕掛ける。
この国を脅かした本当の戦いが、今ここに幕を開けたのであった…
あんな呆気なく戦闘が終わるわけないよね!
って事で、本当の戦いが幕を開けました!
続きは、早ければ明日、遅くとも明後日には更新します!




