第213話 ツボ
案の定昨日は書けませんでした。ごめんなさい…
「ぶふっ!!あーっはっはっは!!!あんたら本当におもろいわ!!ひーっ!!」
「わ、笑いすぎだろ!!泣くぞ!?」
俺が誰から見ても見事。と褒められるであろう完璧な土下座を披露していると、ミュウラさん…いや、こんな奴呼び捨てでいいだろう。
……でだ、そのミュウラが俺の滑稽な姿を見て、腹を抱えて笑っている。
………ふっ、強くて笑いも取れる俺って…顔さえ整っていれば完璧だったのでは?(錯乱)
「あ、あの…そろそろ話を…」
「そうだった。いやー、うち人とツボがズレててな?シリアスな空気醸し出されると笑ってまうねん」
「迷惑なやつだな…それでミュウラは俺たちにどんな試練を出すんだ?」
割とあっさりと笑い終わったミュウラに若干イラッとした俺は、さっさと本題を聞き出す事にした。
「つれないやっちゃな〜ユウキはんは!まぁええけどね?」
「いいんだ……うぅ、先輩!私意外にこの人苦手ですっ」
ボソッと俺にだけ聞こえるように耳元で呟いたひまりであったが、相手が悪いだろ…
「ひまりちゃん聞こえとるでー?商人の地獄耳舐めたらあかんよ?」
「ひゃいっ!?ご、ごめんなさい!」
「ええよええよ!美少女に苦手にされるのもそれはそれでええやん…?こう、ゾクゾクってせえへん?」
「俺に同意を求めるな。頼むから続きを話してくれ…」
どや?と俺に同意を求めて来たミュウラを軽く足らい、さっさと本題に戻す。
「ぶーっ!少しぐらい冗談に付きおーてくれてもええのに!!……ほないしたら部屋移動しよか。座りながら話させてもらうわ」
「………了解だ」
俺は仲間達を見渡し、全員が頷いているのを確認してから返事を返す。
「ふむふむ、あまり信用されてへんなぁ…まっ、これからどうとでもなるやろ。ほな、付いてきーや!こっちやで!」
俺たちの反応を見て信用されてないと悟ったミュウラが先に部屋を出ていく。
なんか申し訳ない事したなぁ……
別に信用してないわけではないんだけど…
一応クランマスターとして仲間達の意思も尊重しないと行けないし…確認の為一人一人の反応を伺ってるだけなんだよな。
あっ、因みにちょくちょく冒険者として活動してるおかげか、幻想旅団というクラン名も意外と広まってたりする。
どうでもいい事を考えながら商人らしく、調度品が揃えられたミュウラ邸の廊下を歩いていると、ミュウラが立ち止まった為、俺たちもそれに習い立ち止まる。
「ここや!それとこの部屋を自由に使ってくれて構わへんからね!」
扉を開き中へ入って行くミュウラに続き、俺達も入室し部屋の内部を見ると、どれも高そうなものばかり並べられていた。
うぅむ…これは一応ルビーに触れないように言っておくか…
「なぁ、ルビー?ここにある物なんだけど…」
「パパ見てー!これ凄いキラキラしてるよー♪」
「ん?」
ルビーが俺によく見えるように頭上へと掲げた如何にも高級そうな壺。
慣れた仕草で鑑定すると日本円で約1億程の値が付く程の歴史的価値のある品物だった。って……
「る、ルビー?!危ないからそれ俺に渡しなさ……」
「あぅ……」
「あっ」
俺が慌てて取り上げようとした瞬間、幾ら俺の娘だからといって自分と同程度の壺を頭上で掲げていたら、そりゃバランスも崩しますよね。
俺の目の前でこれまた高級そうな絨毯へとと吸い込まれていく壺。
「……ッ!?止まれッ!!」
俺は今世紀最大のどうでもいいタイミングで時魔法を使っただろう。
だがしかし、ここまでしてこの壺を死守したのには2つ理由がある。
まず一つ、壊れてもイマジンリアリゼーションで直せばええやろ?と思うかもしれないが、それはできない。
何故なら、一度高価な物を実験として壊してみたんだけど……
元々の金額が100万程の工芸品が俺のスキルを使って修理したところ価値が1万円程に値下がりしてしまったのだ。
そしてもう一つの問題…
ぶっちゃけこっちの方が重要だ。
何故ならこの壺は呪われていたからだ。
超級隠蔽魔法が施されたこの壺の完璧な詳細を見ることができるのは、それこそこの世界だと俺ぐらいじゃないか?
この壺を鑑定を使ってよく見ると、そこにはこう書かれていた。
奇跡の壺(最弱の壺)
この壺を所持している者に幸運な出来事が舞い込む。更に自身の全てのステータスが倍になる。
(この壺を所持している者は不運になり、全てのステータスが半減する。更にこの壺が壊れた時に半径1キロに居た者の全ての能力値がリセットされ、以降強化される事は2度とない)
表向きの情報と正確な鑑定した内容で差がありすぎるだろ!!!
俺は止めた時間の中、地面に落ちる寸前だった壺を持ち上げ、指を鳴らす。
「はっ!?い、今何が起きたん!?」
「悪い、ルビーがやらかしそうだったから時を止めたんだ」
「ま、またしれっとどえらい魔法を使いよるな…」
「慣れてください…これがユウキさんですので」
「リリアはん……苦労してるんやな…」
遠い目をしたリリアの一言で手を取り合いながら
「わかりますか?」
「わかるわ」
「ミュウラさん…」
「ほら、ハンカチやで…」
「ぐすっ、ありがとうございます…」
などと三文芝居を始めた2人に呆れつつ、周りの仲間達が「うんうん」と頷いているのが視界に入っているが無視してこの壺の入手場所を聞く。
「おい、ミュウラ!話を始める前に一つ聞きたい。この壺はどこで手に入れたんだ?」
「ん?その壺は確か……先週やったかな?オークションで落札したものやで?欲しくてもやらんで?白金化めっちゃ積んで落札したんやから!」
その言葉に反応したのは俺ではなく……
「そ、そんな高価な物をこの子は割りそうになってたのねっ!?」
自らの娘が借金を背負う未来を想像したのだろうローズが顔を青くしてルビーを捕まえていた。
更にその言葉を聞いた仲間達も近くに居たチミっ子達をガシッと捕まえてくれる。
さて、話を元に戻しますか……
「いや、こんなヤバいもん要らないわ!!こんなの良く飾っておけるな!?」
「んん?何を言うとるんやユウキはんは……その壺に何かあるんか?」
「そうだ。結論から言うとこの壺は呪われているぞ?」
俺の言葉に訝しみながら
「呪い…?うちが鑑定してもそんなのでえへんで?」
と、俺の話を信じようとしないミュウラに俺のスキルを貸し出す事にする。
「そしたら自分の目で確かめてみろよ。俺の神の目をミュウラに付与するから、それで鑑定してみ?」
「ふむ?よーわからんけどわかった!そこまで言うならユウキはんを信じて鑑定してみるわ」
それだけ言うと「鑑定」と小さく呟きながら壺に表示された本当の効果を読んでいるミュウラの顔色がどんどん悪くなる。
「ゆ、ゆゆゆゆゆゆユウキはん!?こ、これって本当なん!?」
「本当か嘘かと言われたら多分本当だ。それが嘘でも確かめようとは思わないけどな…」
「ユウキ?な、なんて書いてあるのよ!」
「り、リルも気になります!」
「ん、私も」
どうやらミュウラの変貌ぶりに仲間達も気になるようで鑑定の内容を聞いてくるが、ミュウラは目を回しながら「これはあかん…本当にあかんやつや…」と誰の言葉も耳に入っていない様子。
仕方ないから俺が教えてやるか…
「この壺の名は最弱の壺って言ってな?割れると半径1キロ以内に居た人達のステータスが初期化されて、その後どんなに特訓しても1もステータスが伸びなくなるらしいよ」
「………ご主人様?それは一生でしょうか…?」
「そりゃそうだ!数時間で消えるような内容だったら誰でも鑑定できるだろうからね」
「よ、よかったのです…マスターが居なかったらリリア達が弱々になる所だったのです…」
「ほ、本当に危なかったねユウキくん…」
みんなが口を揃えてヤバいと言うもんだから壊してしまいそうになった当の本人が泣きそうになっていた。
「パパぁ……ルビーわるいこ?」
いつもの元気いっぱいな姿がなりを潜め、瞳に涙を一杯溜めながら俺の方へと歩いてくるルビー。
流石のローズもルビーの様子から俺に任せるのが最適だと判断したのか、捕まえてた手を離していた。
うぅむ…どうしたものか……
俺が少しの間黙って、どう慰めようか考えていると、それを怒っていると勘違いしたルビーが等々泣き出してしまった。
「ふぇ……パパごめんなさいぃ…ルビーのこと嫌いにならないでぇ…うわーんっ…」
泣きながら足にしがみついてきたルビーを抱き上げて、頭を撫でる。
「ごめんごめん、嫌いになってないし怒ってないよ?ただ、どうしたらルビーの事慰めてあげれるか考えてただかだから。ほら、パパはルビーの事大好きだからぎゅーってしちゃうぞ?」
そう言いながらルビーを抱きしめる力を少し強くすると、涙を流しながらも俺の目を真っ直ぐ見て来るルビーが嗚咽しながらその小さな口を開く。
「えぐっ……ほんと?」
「本当だとも!パパはルビーの事が世界一大好きだからね!」
「ひっく……ルビーもね?うぅ……パパの事が大好きだよ?だから、嫌いにならないでぇ…」
鳴き声を上げることは無くなったが俺の胸に顔を埋めて涙を流してるルビーは、暫くそっとしておいてあげようと思う。
きっとこの前置いてかれたっていう意識もあって、今回は過剰に反応しちゃったんだろうなぁ……
「ごめんなルビー」
よしよしとあやしていると仲間達がほっと息を吐くのが分かる。
みんなが安心したのを見計らって俺はミュウラに声をかける。
「それでその壺どうする?」
「そんなもん今すぐ返品してくるわ!」
果たして返品が受け入れられるのか?と疑問に思うがとりあえず返品されても困る。
うん、俺がなんとかしよう。
そう思った俺はミュウラに提案を持ちかけるのであった。
次の更新は明日の0時頃になります!
すまねぇルビー。こんな役目を任しちまって……胸が痛い。




