第20話 謎の少女?
一瞬の静寂、その場に居た者達は皆一様に突如として現れたユウキの事を見る。
そして、俺も回りの人達を見る。
自分が生きている事に安堵し、あまりの緊張状態にあった為に、心に余裕ができた瞬間に気を失う者がチラホラと現れる。
その者達の近くにいた者が介抱に向かってるのを見て、俺は目の前の敵に視線を戻す。
「やあ、はじめまして。確か王国の副騎士団長のアール殿だったかな?少しの間お見知り置きを…」
自分の発動した魔法が跡形もなく消滅させられた事実に驚愕し、言葉を発することができなくなっていたが、ユウキが話しかけて来た事により、少し落ち着きを取り戻したアールは、憎々しげにユウキを睨みつける。
「今、何をした…?」
「おや?王国の副騎士団長ともあろうお方が挨拶一つ録にできないなんて、落ちぶれた者ですね」
「黙れぇぇええ!!!!今何をしたと聞いてるんだ!!!答えろ!!」
俺の煽りに激しく激昂し、醜く喚き散らすアールの姿に俺は肩を竦め、やれやれと思いながらも質問に答えてやる事にする。
「見たまんまだけど?魔法の発現を無かったことにして消しとばしたんだよ」
「そ、そんなことできるはずないだろうが!!私が発動した魔法は無効化できるような魔法じゃないんだぞ!!いい加減な事をぬかすな!!!」
俺の言葉を真っ向から否定してくるなこいつ…
まぁ、信じたくないんだろうな。
確かにさっき奴が発動しようとしていた魔法は普通のやつならなんの抵抗もできずに、この国を滅ぼせていたかもしれないが…
まぁ、俺がいたからな魔法を掻き消す事なんて造作も無いわ!ふはははは!!
(なんだかマスターの方が悪者っぽいのです…やれやれ…なのです)
(ほっとけ!!)
まぁ、それはさておき、アールがいつ仕掛けて来てもおかしくない状況なのは変わりない。
さっきの一網打尽にしようとする魔法は不意を突くことにより止められたが、ここから先は真っ向から戦わなくてはならない。
俺がそこらに転がってる奴らと同じなら、この状況に緊張するのが当たり前だけど、生憎と俺は良くも悪くも普通じゃないからな…
「嘘偽りは無いよ、僕が言ったことが全てであり、そしてこの国が消える事なく存在してる事が何よりの証明だろう?違うかい?」
「くっ…だが…こんな事が…」
まぁ、信じたく無いのはわかるけどな…
自分の魔法が掻き消された事が納得できない様子のアールを見て、だろうな。と思った俺は、とりあえずアールの方を警戒しつつ、この国の重鎮達のいる方へ目を向けて、エギルに念話を送る。
(やぁ、国王陛下。申し訳無いけど乱入させてもらったよ。)
(っ!!?これは念話か!いや、大丈夫ですぞこの国の一大事を救ってくれたのだ、お礼はしても文句を言う等ワシの矜持に反する。気にしないでくれ)
(ふーん、まぁもともと気にして無いけど、それよりもあいつのことは俺に任せてもらっていいかな?)
(任せても良いのか?私が言うのはなんだが、アールは非常に優秀であった。何故このような事をしでかしたのだ…)
(それについては分かってる事でよければ後で説明するけど、アールの処遇はどうするの?殺しちゃっていいなら殺すけど)
(いや、それは待ってほしい。戦闘中に止むを得ず殺すなら仕方ないが、もし生きて捕まえる事ができるなら、私に話をさせてもらえないだろうか?)
(じゃあ、生け捕りにするよ。まぁ、あまり人の姿をした者を殺すのは趣味じゃ無いしね…処遇は任せるよ)
(承った、それとお主の名前だけ教えてもらえぬか?その仮面を取れとは言わぬが、せめて名前だけでも…)
(あぁ、名前ね…ラピス…とでも名乗っておこうかな…)
(ラピス殿ですな…其方の名前しかと胸に刻み込んでおきますぞ)
(そんな畏まらなくていいのに…まぁ、とりあえずあいつを無力化してくるから、ここで念話切るからね!)
と言い、一方的に念話を切断しアールに向き直る。
「さぁ、アール殿?僕と踊りましょう?」
「踊る…一体貴方は何を言ってるのですか…?」
「わからない?その腰に下げている剣は飾りなのかな?大人しく捕まってくれるなら何もしないけど、その様子だとまだ何か企んでるんでしょ?」
「…ッ!?えぇ、その通りです。私はここで引き下がる事はできない。それが私の宿命なのだから。」
俺の言葉に一瞬動揺したアールであったが、覚悟を決めたのか、左足を半歩下げ腰に携えているロングソードに手を添える。
その様子を見て、ようやくやる気になったか…と思わずニヤけるユウキだった。
「ようやくやる気になってもらえて嬉しいよ。さぁ、きみの宿命がどの程度のものなのか、僕に教えてくれよ?」
「黙って武器を構えなさい…」
「おや?僕が武器を準備するのを待ってくれるなんてお優しい事で、さっき喚き散らしていた人物と同一人物には見えないな〜」
「…私の矜恃の問題だ。武器を持たぬ女性を傷つける事はしない」
流石腐っても王国の副騎士団長だな。と心の中で称賛しお言葉に甘えて態勢を整えることにする。
あれ?今こいつ俺のこと女性って言わなかったか!?
まぁ、いいや…いや、よくはないけどね?とりあえず、今は闘いを楽しもう。
「ミスティ、モードロングソード」
「はいなのです!」
リリアやクラスメイト達が見守る中、どこかこの場に相応しく無い元気いっぱいな声に、ミスティの存在を知らない者は、なんだ今の声は?子供か?とキョロキョロと声の主を探す。
そして、ミスティの存在がどのような者か知っている者達は、驚愕する。
この者は、伝説の武具の所有者なのだ…と
「お待たせ、いつでもかかってきていいよ?先手は譲るからさ」
「…行くぞっ」
ユウキが伝説の武具の所有者である事に動揺したアールであったが、その内心を見透かされないように、すぐ様ユウキに斬りかかる。
「うん、来なよ…一緒に踊ってあげる」
それだけ言い、俺もミスティを抜き放ちアールの一撃を受け流す。
ここに、王都を震撼させる事になった最悪の一夜が幕を開けたのだった。
ようやくここまで来ました。
本日2話目になります。
次の話から、しばらく戦闘シーンになります。
次回の更新は、本日の夜21時頃更新の予定です。




