第191話 鬼教官ユウキ
ねむむむむむむ
謎の男が別荘へ訪れ……墜落した翌日。
俺達は、何事も無かったかの如く湖の畔でバカンスを楽しんでいた。
え?魔族領に向かわないのかだって?
そんなの後回しに決まってるだろう?
今はやる事はただ一つ……
「せ、せんぱいっ!死ぬ!死ぬぅぅうう!!」
「黙れ後輩!!いいから泳げ!!死んだら生き返してやる!そしてまた泳がせてやるから安心しろ!!」
「かばっ…安心…ごぼぁっ…できないですっ」
そう、俺はこの湖を使い後輩のトレーニングを行っていた。
「いいかひまり!この中で一番お前が雑魚なんだ!!雑魚は雑魚らしくもがき続けろ!!それがお前に課せられた使命だ!!」
「そ、そんな使命……ごふぁっ…嫌すぎる……ぶくぶくぶく……」
「ユウキさーん、ひまりちゃん沈みましたよ?」
「気合いが足りない奴め……強制転移」
溺れたひまりを回収して、地面に横たわらせる。
「し、死ぬ……本当に死ぬ……先輩は私のこと嫌いなんだ……だからこんなイジメみたいな事をするんだ…うぅ……」
「はぁ…ちょっとユウキ?ひまり泣いちゃったわよ?」
やりすぎよ!と殊更に睨み付けてくる一華を無視して俺はひまりの元へと歩み寄り、片膝をつく。
「先輩…?」
俺が側に来た事で慰めてくれるのかな?と勘違いしたひまりがうるうるとした瞳で俺を見てくる。
「ひまり……文句言えるならまだ頑張れるな?ほら、行け」
「へっ…?ひょわぁぁぁああっ!!ふべぇっ!!?」
ドボーーーッン!!と盛大な水飛沫を上げ入水したひまりに仲間達が「おぉ〜」と口を揃えている。
なんだかんだ言ってみんなひまりを助けようとしないのは、自分自身も同じ道を辿って来たからに違いない。
「んじゃ、ひまりはあと1往復するまで飯抜きな〜」
「こんの…鬼ぃぃぃいいいいい!!!!」
静かな湖畔にひまりの絶叫が木霊する。
そう、俺のこの別荘での目的は水連である。
この中で人一倍体力の無いひまりには水の中で活動する事により、肺活量や脚力を補ってもらう。
そして、他の面々には水中での闘い方や息を確保する術を身につけてもらっている。
「マスター?ひまりにはまだこの練習はきついのです…まだこの世界に来て一月も経ってないのですよ?」
「そうよ?ひまりちゃんにはフェイトさんと一緒にお留守番してもらった方がいいんじゃないかしら?」
ミスティとローズの意見には俺も100%同意だ。
だが、これは俺が強制してるわけじゃなく、ひまり本人からお願いされたのだ。
ひまり曰く、私は一番弱い。だから遠慮なく訓練してください。
足手纏いにはなりたくないので!!
と意気込んでいたのだが……
「でも、私が初めてユウキさんの訓練を受けた時は、1時間でギブアップしてたので…それに比べてひまりちゃんはなんだかんだ言いながらもやり続けてますし……凄いです」
「ん、凄い。私には真似できない…」
「そうだね…私もちょっと無理かなぁ…泳ぎはそんなに得意じゃないし」
「……まっ、なんだかんだ言ってもあいつは俺の一番弟子だからな?元の世界に居た頃からずっと扱いて来たから、根性が身についたんだろうさ」
「……ご主人様の居た世界は殺伐としてたのですね」
「いや、フェイト騙されてはダメよ…私たちの国は世界でも有数の平和な国だったんだから…」
「そんじゃ、みんなも休憩終わりにして再開するぞ?準備はいいか?」
「はい!」
「おー!ルビー頑張るよー♪」
訓練に目覚めたリリアと何でも楽しそうにこなすルビー以外は、皆一様に嫌な顔をしながら渋々入水する。
「そんなじゃ水中神殿は攻略できないぞ?」
「てか、そもそもユウキ抜きで攻略しようとする事自体間違ってるのよ!!」
「いやいや一華さん?俺が居たら俺のことを頼っちゃうだろ?それじゃ修行にならん!俺はみんなが水中神殿に挑戦してる時は、他にやることがあるからな…それが終わったら家に戻って旅の準備だ」
(なんでマスターは水中の中で普通に喋れているのです?)
(ん、ちょっとおかしい)
(リンちゃん?ちょっとじゃなくてかなりおかしいわよ?)
(ん、でもユウキお兄ちゃんだから)
(あぁ、確かに)
「いや、確かにじゃないからな?んじゃ、とりあえず俺に一撃当てられるまで…掛かって来いや!」
その後俺は日が暮れるまで嫁達をボコボコにした。
因みにシロナとモモは非戦闘員の為、別荘で家事を任してる。
面倒は昨日飛んで来たダミルという魔族の男に任してある。
本当は奴が変な気を起こして、シロナとモモを連れ去らないか心配だったが……昨晩男同士で語り合い、イエス!ロリータ!ノータッチ!!の精神が養われていた為任せる事にした。
戦闘力も申し分ない為、フェイトのトレーニング中は極力ダミルに任せる事にしたのだ。
「はぁ、はぁ……や、やりきりました……もう動けない…」
「おっ、ひまりお疲れさん。よく頑張ったな?」
「へ、へへっ…見ましたか先輩……これが私の実力ですよ…頑張ったので今日は私の好きな先輩特性ハンバーグを所望します」
「はいはい、ご褒美は必要だもんな?そんじゃ、とりあえず帰るとするか」
俺は陸で今にも干からびそうな仲間達に声を掛け、ルビーを肩車し、ひまりをお姫様抱っこしながら帰路に着く
「うへぇ…お姫様抱っこされてるけど……一昨日の悪夢を思い出してあまり嬉しくないです…」
「言うな……あれは俺もトラウマなんだ……」
「それ、本当に何があったの?」
「私たちにも言えない事なのかしら?」
「……時が来たら話すさ」
俺が意味深に言うと、嫁達が揃って溜息を吐く。
「まぁ、そのうち話してくれるのだから今はいいじゃない。それよりも今は自分達の実力の底上げの方が大事よ?」
「うっ……そうですね…水中戦は中々難しいです…」
「ん、動きにくい。でも、コツは掴んだ」
「そういえばリン様は急に動きが良くなってました。それに比べて一華は……はぁ、ご主人様と恋人になれたからといって浮かれてるのですか?」
「そ、そんな事ないわよ!そ、そりゃ恋人になれたのは嬉しいけど…もにょもにょ…」
一華が小声で何かをぶつぶつ言ってるが、それは放置してリンの成長を褒める事にする。
「確かにリンは、フェイトを除いて一番動き良かったな…後でみんなにもコツを教えてあげてくれな?」
ぽんぽんと頭を撫でてやると尻尾をふりふりしながら「ん!」と可愛らしく応えてくれる。
まぁ、ぶっちゃけるとリンは水中で魔力の膜を身体に巡らせていた。
それが水圧への抵抗力を底上げし、少しの動作で水中を自由自在に動き回ることができるようになっていた。
後は足の裏に光魔法で小さな爆弾を作り、機動力を上げていたのも高ポイントだな。
「まっ、水中神殿への挑戦は3日後だからな…それまでに各々各自でやれるだけの事はやっておく事だな…前日に俺がチェックして行かせられないと判断した人は留守番だ」
「「「「「えぇ〜!!」」」」」
「えぇ〜、じゃない!お前達も少しはルビーやリンを見習いなさい……」
文句をぶーぶー言いながらもしっかりとトレーニングを続けた結果、見事に全員俺の訓練を突破し水中神殿への挑戦権を獲得した。
「そんじゃ頑張って来いよー!」
俺は水中へと潜っていったみんなを見送り、とある場所へと転移する。
「さてと、俺のやるべき事もやっときますかね…」
次の更新は明日の0時頃になります!!
ちょっとこの1話だけ挟んで魔族領に旅立ちます!
ひまりの特訓は毎日続きます…
あっ、しばらく旅の同行者におっさんが混じりますが無視してください。




