第18話 2人の想い
月明かりの無い夜空を駆ける俺は、誰にも気取られる事なく闇に溶け込んでいた。
このまま城内に飛び込む前にやる事がある俺は、城内から漏れ聞こえる人々の笑い声に呼応するかの如く、どことなく楽しげな雰囲気を醸し出しているアメジスティア城を上から見下ろす。
(よし、ミスティ準備OKだ。これから潜入するぞ)
(了解なのです!いつでも武器になれるように待機しているのです!)
(あぁ、頼りにしてるからな)
ここからは時間との勝負だからな…なんとか奴が行動を起こす前に会場にたどり着かないと行けないからな。って、ん?あれは…
そこには、誰にも見つからないように、コソコソと話し合う貴族のような装いをした2人が挙動不審に当たりを窺っていた。
少し気になる光景を目にした俺だったが、今はそっちに構ってる暇は無いと早々に頭の片隅に追いやり、探索時に見つけた隠しルートの入り口の前に降り立つ。
えっと、確かここの岩の隙間にこの石を嵌めれば…
ゴゴゴッ…と俺が石を嵌めた途端に目の前の壁が地面の下に吸い込まれていく。
いやー!この光景は2回目でもテンション上がりますわ!とRPGでも隠し通路を探すのが好きだった俺は、テンション爆上がり中である。
(マスター?そんなにいいのです?これが…?)
(いや〜、ミスティにはわからない?この冒険心を擽られる光景が!テンション上がるに決まってるやん?)
テンションが上がりすぎてついついエセ関西弁になってしまった。本当に緊張感無さすぎて逆に申し訳ない!
妙なテンションのまま謎の謝罪をしつつ、警邏中の騎士達の気配が近づいてきてる事に気づき、直ぐに通路の中に入る。
すると今度は、先ほどの逆再生のように閉まってゆく入り口を背に、俺はゆっくりとだが確かな足取りで着実に目的地までの道を歩き始めるのだった。
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一方その頃リリアはというと…
王族の義務として、この場に参加した貴族達に挨拶回りをしながら、パーティーを抜け出す口実を必死に考えていた。
「リリアよ…何をそんなにそわそわしてあるのだ?もしやト…「お父様?それ以上口に出したら、いくらお父様でも容赦しませんよ?」いや、なんでもない」
一国の王であっても娘には敵わないんだなと、リリアに話しかけ、それ以上言ったらコロ○とギロリと睨み付けられ、しゅん…としているエギルを横目に、天空と紅葉は、父親が娘に逆らえないのは、どこの世界でも一緒なのか(ね)と思い、苦笑するのであった。
「でも、リリアさん確かにちょいと落ち着きないよね」
「うん、そうだね。やっぱさっきの高田くんたちが原因かな?」
と思い、あいつらは誰にでも迷惑かけるな。と思っていたのだが…
まさかリリアがパーティーを抜け出す為に知恵を絞っているなど露知らず、可哀想に…などと的外れな見解に至っていた。
リリアもリリアで、まさかユウキに指示されてる内容がブラフだとは思っていない為、自分の教えられた作戦が全く別物だとは、後程ユウキに語られるまで知らなかったのである。
(あー!もうっ!早くユウキさんのとの合流地点に向かいたいのに…なんで私は未だにこんな所に…)
1人頭を悩ませても良い案が浮かばず、だんだんと余裕が無くなって来たリリアはだいぶ精神的に追い詰められていた。
(先程の騒ぎに乗じて抜け出せなかったのは痛手でした…ユウキさんのご友人が近くにいらっしゃいましたので…強い行動に出れませんでした…はぁ…)
完全に無意識だったが、ユウキの親友たちに嫌われるのはいや!と思いそれからは大人しく最初の指示通り王女らしい行動を取りながら、時間だけが無駄に過ぎて行った。
(こんな時ユウキさんならどうするのでしょうか…ユウキさんに早く会いたいな…)
ユウキの事を考えていると、ふっと何者かの視線を感じたリリアはゆっくりとそちらを振り返る。
(っっ!なんでしょうかこの嫌な気配…これがユウキさんの言っていた城に忍び込んでいる魔神族の気配なのでしょうか…?)
視線を向けて来ていた者の正体は分からないリリアだったが、一瞬感じ取れたおぞましい気配に、ユウキの言っていた危険が迫っている事を改めて実感したのだった。
パーティーも佳境に差し掛かった所で、副騎士団長のアールがリリアに近づく。
このタイミングで近づいて来たアールに何処か警戒しながらも、完璧な王女スマイルで対応するリリアは、側からみればパーティーを楽しんでるように見えるのだから流石である。
「リリア様、ご挨拶が遅くなりました。お久しぶりでございます。ご健勝で何よりでございます。」
「お久しぶりです。アールもお元気そうですね。貴族子女からは相も変わらず好かれてるのですね」
「ははっ、いやはや…リリア様は私の弱点を迷う事なく突いてくるのですから、末恐ろしいですね。」
「いえいえ、事実を述べただけですので…あまり私にかまけていると嫉妬されてしまいますので、お戻りになられては?」
特段、何事もない普通の会話に聞こえるが、お互い腹の探り合いをしている。リリア側は貴方が敵ですか?と、そしてアールはこの探り合いで確信していた。
リリアが間違いなく自分の存在に気付いているということを…
「では、そうさせて頂きます。勇者様方もこの後もパーティーをお楽しみください」
疑惑が確信に変わり、抹殺対象に切り替わったリリアと側にいた天空と紅葉に内心を気取られる事なく、一礼しその場を去るアールの姿を最後まで見ていたリリアもまた確信する。
(信じたくありませんでしたが、アールは間違いなく“黒”ですね…)
まさかリリアが幼い頃から知っているアールが王国に反旗を翻すとは思いたくなかった。だが、昔からの知人よりユウキの言葉の方が今のリリアにとっては信頼度が遥かに高い為、何も疑う事なくアールの事を敵と認識していた。
先程のユウキ達との密会で、黒幕の正体を告げられていた為最初から警戒はしていたのだが、言葉を交わしたことによりそれが確信に変わった。
ユウキから渡されていたネックレスに追加効果を更に上乗せしてもらった結果、看破のスキルを得たリリアは、話が始まったと同時に、アールの本当の姿が浮かび上がって来た。
(もう!!ユウキさんはなんでこんな大事なこと教えてくれなかったのですか!?まさか、看破のスキルを使った瞬間、アールの姿が魔神族に見えるようになるなんて!!驚きを表に出さなかった私を後程褒めて頂きましょう!)
そんなリリアの内心を知る由もない天空と紅葉は、騎士団の中で2番目に偉い大物に緊張していた。貴族達との挨拶では全く緊張しなかったのだが、どこかアールのピリついた雰囲気を感じとっていたのだ。
背筋を伸ばしていた2人は、緊張から解き放たれ、ふぅーっと2人して息を吐く。
するとそんな2人を見たリリアは、くすっと笑い、少し風に当たろうと、バルコニーにの方を見やると、1人夜の城下町を眺めている女性に気づく。
2人を連れ立って、1人悲しげにバルコニーにでグラスを傾けていた者に声をかける。
「ユキさん?こんな所で1人で何してるのですか?」
不意にかけられた声に一瞬びくっ!とした雪だったが、声をかけてきたのが、リリアとよく知った2人だったことに安堵した。
「リ、リリア様!?あっ、なんだ2人も一緒だったのね…リリア様すみませんいきなり話しかけられたので、少し驚いてしまいました」
申し訳ない!と頭を下げる雪に、あわあわと慌てながら「謝らなくて大丈夫です!悪いのはいきなり話しかけた私です!」と言うリリアもごめんなさい!と頭を下げるのであった。
どこか気まずい雰囲気になってしまったが、流石天空クオリティ…気まずさなんてどこ吹く風、「で、先生どうしてこんな所に1人でいたのさ?」と何食わぬ顔で空気をぶち壊す。
紅葉が内心呆れながらも、流石空くん…と感心していると、どこか寂しそうに雪が口を開く。
「天空くん…私がここにいたのはね…ここから見える街のどこかにゆうちゃんが居るのかな?と思って眺めてたんだ…ゆうちゃんに会いたいなって…」
「「先生…」」
雪の寂しげな表情と、ここから1人旅立ってしまったユウキの姿を思い出し、2人も雪とともに城下町に目を向ける。
リリアもリリアで、ユウキの名前が出てきてユウキさん…と思うことなく別の事を考えていた。
…イマ、コノヒトハ、ナンテイッタ?と
(今ユキさんは、ユウキさんのことを”ゆうちゃん"とか呼びませんでした??しかも会いたいなって、ユウキさんってユキさんとどんな関係だったんでしょう???後で問い詰めなければ!!)
ヤバイ思考に支配されつつあったリリアは、はっ!と我に返り、こほんっと咳払いをし、ユウキの事を知らない程で話をすることにする。
「えっと…ユキさんの言っているユウちゃんとは、誰の事なのでしょうか?できれば私にも教えていただけないでしょうか?それと…ユウキさんとの関係についても詳しく…ごにょごにょ」
最後の言葉はあまりにも小さな声だった為に3人には聞こえなかったが、聞こえてたら大惨事である。
「そうですね…ゆうちゃんは私たちと一緒にこの世界にやって来たのですが、その…自分の能力が低い事に負い目を感じたのか、すぐにここを去ってしまったのです…」
「なるほど…そんな事があったのですね…」
(まぁ、ユウキさんから直接経緯は聞いてたんですけど…この方達はとても寂しそうですね…ユウキさんのことを黙ってるのが、すごく…心苦しいです…)
リリアの悲痛な表情を見た雪は慌てて次の言葉を紡ぐ
「あっ、姫様?勘違いしてるかもしれませんが、ゆうちゃんは自分からここを出て冒険したいと言って、飛び出して行ったんです。その…陛下達に追い出されたとかでは無いので、安心してください。」
リリアの考えてる事とは全く別物だったが、雪のリリアを安心させようとする話は、そこで終わりではなかった。
「それに私はゆうちゃんが誰よりも努力家で、誰よりも凄いことを知ってます。なので、1人でもきっとうまくやれてると思ってますよ?」
「では、なぜそんなに寂しそうにしているのですか?」
……一瞬の静寂を打ち破り雪が口を開こうとした…
だが、その質問に答えたのは雪ではなかった。
「そんなの大好きだからに決まってるじゃないですか!」
紅葉から発せられた言葉に、目を丸くしたリリアに気づくことなく紅葉は自分の思いを口にする。
「そんなの…大好きだから…本当にずっと一緒にいたいと思うほど好きだったから、悲しいんです!!友達としてなんかじゃなく、1人の男の子として私は常に隣にいたかった!でも、私は弱かった…ユウキくんに泣きながら行かないでとしか言えなかった…ユウキくんと離れるのは本当に嫌で、胸が引き裂かれる思いで見送ったんです!強くなると誓って!」
「神咲さん…」
紅葉の言葉は雪の胸に深く突き刺さる。
あぁ、そうか…私ってゆうちゃんの事が好きだったんだ…と
そう自覚した途端に、ユウキと過ごしてきた時間が、他の誰かといた時よりも輝いていた事に気づいてしまった。
楽しかった事も、悲しかった事も…全てユウキと共にいた。そして、自分の気持ちを理解するのが怖くて、ユウキの側を離れ都会に逃げ出したのだと
「私…ゆうちゃんが好きだったのね…神咲さん…ううん…紅葉ちゃん…ありがとう、私の気持ちに気づかせてくれて」
そして、ごめんなさい…と言い夜空を見上げながら静かに涙を流す雪を見て、紅葉の目からも重力に逆らえず、一つ、また一つとバルコニーに敷き詰められている乾いた大理石の上に2人から流れ落ちた涙が染みを作るのだった。
「「……。」」
そんな2人の姿に天空とリリアは何も言えなかった。
…そしてもう1人この場に居合わせた者がいた。
え、えぇぇぇぇえええ!!!!???
雪姉と紅葉って俺の事好きだったの!!???
そこには、さっさと隠し通路を走破し、これから起こるであろう問題を解決する為に潜んでいたユウキがいたのであった。
次回で大きく展開が動いてくる予定です。
いきなり出てきた魔神族とは、勇者達が倒す魔神から力を授かっている種族になります。
魔族とはまた別物になるので、ちょっとややこしいかもしれませんが、お付き合いください。
次の更新は、日曜日予定です。
何話か纏めて更新できたらいいな〜と思ってます。




