第173話 悪夢の始まり
翌日…
俺のイライラは何故か治らず、昨日は1日イラついていた。一先ずみんなと同じ空間にいる事を避けて、精神統一をしてみても何も変化は得られなかった。
体調不良と呼んでいいのか定かではないが、本調子ではないのは確かだけど…夕刻からのパーティーは参加するしかなかったので、俺たちは今は唯一知り合った貴族であるユークリット伯爵の好意に甘え、共に王城へと向かっている。
まぁ、実は昨日のうちにエリンに頼んで王城まで連れて行ってもらう算段をつけていたのだ。
その時、他にも色々と話をしたのだが…それはおいおいわかるだろう…
「おっ、見えて来たね。俺が城門だよ…一応この国の観光名所になってるから中々壮観だろう?」
「おー!すごーい!パパー!キラキラしてるよー!」
「うっへぇ…趣味が悪いわねぇ…」
「ん、目がチカチカする」
喜んでいるのはルビーだけで他の面々はあまり好意的ではないらしい。まぁ、俺もだけどな…
「あはは!よかったよ君たちが普通の感性の持ち主で…私もその意見には同意だよ。あれは些か派手すぎる。まぁ、観光名所としての役目を担ってるから誰も文句は言えない状況なのさ…」
「なるほどねぇ…城にも至るとこに金の装飾が使われてるけど…王の意向か何かなのですか?」
「あぁ、王位が切り替わって5年ほどになるのだけど…今の王になってから徐々に変化して行ったよ…」
「よくそんな大金を動かせますね…アメジスティアでそんな事したら国債は火の車になってしまいます…」
まぁ、アメジスティアに関しては一番最初に魔神族の被害にあったからなぁ…当初の俺はアールの変貌を止められる程の力は無かったし…
崩壊した家を全て国の金で負担してるらしいし、相当無理してるみたいだからな…
こんな事を考えながら城門を潜り抜け、俺たちは従者の指示に従い馬車から降りる。
「お手をどうぞ?」
「あ、ありがとうございます…ヒールって履き慣れなくて…うぅ、普通のスニーカーが良かったんですけど!」
「……羨ましい。私もユウキさんにエスコートしてもらいたかった…」
「馬鹿なこと言ってないでリリアがみんなのお手本になるんだぞ?」
俺は一通りのテーブルマナーはできたのだが、仲間達はそうもいかない。
付け焼き刃でテーブルマナーを矯正したけど…まぁ、立食だと思うしなるべく食事する時は離れた場所でするようにって言ってあるし大丈夫だろう…大丈夫だよな……?
「おっと…ユウキ殿、気をつけてください。彼がこの国の大臣である、ホーマット・ワリンソン殿だ…目をつけられるとめんどくさい事になるから、なるべくやり過ごそう」
「了解…」
いやぁ、エリン殿には頭が上がらん…こうやってめんどくさいやつを教えてもらえるし、良くしてもらえるのは本当に助かるわ…
エリン殿の忠告を受けた俺は、仲間達に念話でその旨を伝え、なるべく静観するように呼びかけた。
「おや?これはこれはユークリット伯爵ではありませぬか?もしや、この者達が例の冒険者ですかな?」
「これはホーマット大臣。お久しぶりです。流石のご慧眼ですね。その通り、こちらの方が此度王の呼び出しに参上した冒険者…ユウキ殿です」
「お初にお目にかかります。冒険者ギルド所属、幻想旅団のクランマスターをしております。ユウキと申します」
「ふむ、冒険者の割には礼儀がなってるではないか?それに身なりもキチンと整えて来ているな。良い心がけだ。今日は存分に楽しむといい」
それだけ言い残しホーマット大臣は去って行った。
「ふぅ…よかったよ君が常識のある人で…では、他の貴族にあっても面倒だから、早いとこ会場入りしてしまおう」
「えぇ、案内お願いします」
「承知した。リリア姫達も少し早歩きになるから、辛かったら言ってください」
仲間達が頷くのを確認してから歩き出すエリン殿の後に続く形で俺たちも歩みを進める。
そして、その後は変な貴族に絡まれることもなく、無事に会場へと足を踏み入れたのだが…中々に個性豊かな貴族達が居るなぁ…
赤、青、黄、緑、紫、桃、橙…などなど
色取り取りの服装をしている目立ちたがり屋も居れば、既に貴族の子女へと声をかけてダンスに誘っているチャラそうなやつも居るし…貴族ってもっと厳格な感じじゃ無かったか?
少なくともアメジスティアとは国風が大きく違うのは間違い無いだろう。隣でリリアが王女らしからぬ顔でポカーンとその様子を眺めているのが、紛れもない証拠である。
「……いつ見ても趣味の悪い連中ばかりだなぁ…」
「…アリン殿は苦労してそうですね。同情します」
「アッハッハ…ありがとう。さて、案内はここまでだけど…後は任せて大丈夫なのかい?」
後半を小声で俺にだけ聞こえるように聞いてくるアリン殿に俺も小声で「任せてください」と返し、彼は挨拶回りがあるからとこの場を離れて行った。
さぁ…杞憂であってくれよ?
そう思わずにはいられないほど俺の心はずっとざわつきっぱなしだ。
俺はイライラを抑える為に色々と裏でこそこそ動いていた。
エギル殿からの忠告、ゴラムスの懇願、そしてムカつく程上から目線の手紙。
この3つで俺が探りを入れるには十分な理由だった。
しかもイライラが収まらなかったから仲間達とも別れて別行動していたからな…誰も俺が昨日何していたのかは知らないだろう。
「…ユウキさん?どうかされましたか?」
「いいや、なんでもないよ。それよりもリリアは久しぶりのパーティーだろ?」
「そうですねぇ…実にアメジスティアを出て半年ぶりくらいではないですか?」
「へぇ…もうそんなに経つんだ?時間の流れはあっという間ねぇ〜!あっ、双葉!見てみて!あのデザート美味しそうじゃない?」
そう言って双葉と近くに居たフェイト達を連れて食べ物を取りに行った一華達を見送り、俺はこの会場中に意識を巡らせる。
アリン殿がうまく動いてくれてるおかげで、すぐに把握できそうだ。
バンッ!!
扉が勢いよく開かれ、みんなの視線がそちらへと集まる。その視線の先にいるのが…俺たちを呼び出した張本人。
「ディルクレー・エメラル国王陛下…か…」
俺の声は誰の耳にも届いていないだろう。少なくとも周りに居た貴族達はエメラルを見るのに夢中であった。
優れた容姿、引き締まった身体、圧倒的な強者の佇まいに自然と目を惹かれるものがある。
チッ、イケメンかよ…
ディルクレーが鎮座されていた黄金の装飾が散りばめられた椅子へと座り、口を開く。
「みんなよく来てくれた。今日は存分に楽しんでくれ!そして、我が国の窮地を救ってくれた冒険者も招待してある。後でその者を皆に紹介しよう!俺は気にせず飲んで踊って楽しめ!」
紹介って別に俺はお前の部下でもなんでもないんだが?まぁ、いいか…穏便に済むのなら俺は愚者を演じよう。
「さて、お呼びがかかるまでの間…俺も色々と楽しませてもらうとするかな…」
独り言のように呟き、俺は仲間達が群がっている料理の山へと突撃するのであった。
次の更新は明日の0時頃になります。
さて、そろそろこの章も終わりに近づいて来ましたねぇ…あまり戦闘シーンは無さそうですw
その分次の章がヤバい。
ですが、しばらくユウキの戦闘シーンは少なめです。
仲間達に頑張ってもらいます!




