第17話 シリアスなんて似合わない
太陽も地平線の彼方へと潜り込み、辺りがだんだんと夜の帳に包まれていく。
その光景を哀しげに見つめるユウキは、普段見慣れていた高層マンションや住宅街の人工的な灯りではなく、どこか暖かみのあるランプから発せられる灯りや、行き交う街の人々の姿を眺め、自分は本当に異世界にやってきたのだと改めて思い知らされる。
しかも、この世界に来て僅か数日で関わるような内容では無い案件を抱えてしまい、ふぅ…と思わずため息を吐く。
今し方部屋を出たリリアがこちらを見上げていることに気づき軽く手を振るユウキに、満足そうに手を振り返し走り去って行くリリアは、側からみれば王女であることなど誰もわからないだろうな…と薄く笑い、リリアの為にも頑張ろう。
そう思うユウキなのであった。
ミスティと共にリリアを見送った俺は、カーテンを閉めて早い備え付けられている小洒落たティーテーブルに置かれているすっかり冷え切ってしまった紅茶を一息で飲み干した。
「さて、ミスティ!まずは王城の構造を把握しようか!」
「はい?そんな事ができるのです?」
もちろん普通の人間ならできるはずもない。
だが、良くも悪くもユウキは普通の人間ではなかった。
「そりゃあ勿論普通はできないけどね?俺ならなんとかできると思わない?」
「マスターは普通じゃないのです!確かにできそうなのです!」
ミスティの評価に、おいっ!と突っ込みを入れたい衝動に駆られるも、ミスティの悪気は一切無い!と言った様子に毒気を抜かれた俺は、心の中でスキルが特殊なだけで俺自体は普通のはずだ!と反論しておいた。
こほんっ!と咳払いをし話を進めることにする。
「でだ、俺はイマジンリアリゼーションを使って城の模型を作り出すから、抜け道とか無いか一緒に調べてくれないかな?」
「そんなことできるなんて流石マスターなのです…私にお任せなのです!」
快く手伝いを承諾してくれたミスティに、感謝を込めてポンポンと頭を撫でイマジンリアリゼーションを発動する。
「我願う、王国に聳え立つ白亜の城よ、我の友を助ける為、ここに虚像の城となりて顕現せよ!」
徐々に出来上がっていくアメジスティア城に2人してぽけーっとその光景を見つめている。
やっぱ城を作るとなると複雑な作りになっているのか時間がかかるな…
ミスティのぽかーんとしてる表情も可愛いし、俺は城じゃなくてミスティのことを見てよ。
「マスター?構築が終わったみたいなのですよ?」
「ん?あぁ、ごめんぼーっとしてた」
そんなこんなで、城が完成したのだがミスティを観察していたユウキは、ミスティに言われるまで気づかなかったのだった。
「よし!それじゃあやるぞ!」
「はいなのです!でもどうやって調べるです?分解するですか?」
ふっふっふ〜と自信満々なユウキを怪訝そうに見つめるミスティだったが、マスターだからどうせとんでもない方法を使うに決まってる。と決めつけてやれやれと首を竦めて見せた。
「これからこの城に入って勇者プレイをするぞ!」
色々と突っ込み所が多かったが、だんだんとユウキの奇行に慣れてきたミスティはあまり気にしないことにした。
「城に入るってどうやるのです?このお城はお人形さんしか入れないのです」
確かに、ミスティはお人形さんみたいで可愛いな〜と心の中で呟く
「そんなっ可愛いなんて〜照れるのです〜♡」
両手を頬に添えてもじもじするミスティに、あれ?また声に出してたのかな?と思ったが話が進まなくなるので、取り敢えず忘れることにする。
「今ミスティが言ったことはあながち間違いじゃないよ、寧ろ正解に等しいかもしれない」
「みゅふふ〜♡みゅ?そうなのです?」
ユウキに可愛いと言われ浮かれていたミスティだったが、正解と言われて我に返った。
「うん、今から俺達は人形サイズになってこのお城…アメジスティア城を探検しよう!!」
「もちろん!これはミスティが色んな武器やアクセに変化してるのを見て思いついたんだけど、アクセになる時に極力小さくできるなら、人の姿のまま小さくなることも可能なのでは?と思った結果…」
「思った結果?」
「うん、普通にできたね」
「もう、流石マスター!略してさすマスなのです!」
「うんうん、そうだろうそうだろう!」
ここにリリアが居たのならば、普通って何かしら…?と頭を抱えることになるのだが、今はユウキとミスティの他に誰も居ない為に突っ込みを入れるものが誰もいなかった。
その結果暴走を止める人がいない為に、ユウキの技を考えていた時のように、2人は赤いヒラヒラを見た猛牛の如く暴走するのであった。
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……1時間後
「「つ、疲れた(のです)…」」
城内に潜入した2人は、ユウキのスキルによって元の姿のまま小さくなったのだが、あまりの広さに時間が足りない事を悟り、何とかならないかと考えた結果…
時間の流れを緩める事に成功したのだった。
完全に止めようと最初は試みたのだが、急に空から手紙が降って来たので、恐る恐る中身を見たところ、奴(女神)によって時間停止系のスキルは流石に封じられてるような内容だった。
例の如く、イライラし始めたユウキに何事か!?と思ったミスティだったが、今までの経緯を聞き、まさかそんなことあるわけなのです!と思い手紙に目を通す。
するとそこには、ユウキが話したようにとても神経を逆撫するような文章が書き連なっていたのだった。
結果、時間の流れを10分の1まで減らす事でなんとか城内を探索し終えたのだが、この話はまたいずれするとして…
「ふぅ〜疲れたけど何とかなりそうだね」
「なのです!隠し通路探し楽しかったのです!」
いや、楽しかったんかい…
ハハハッと口元を痙攣らせながら笑う俺だったが、ミスティの無邪気な笑顔を見て、いろいろな危険から守れてよかったと安堵する。
まさかあんなに城に罠があったとは…先に知っててよかったなこれ…
いくら俺たちでもこれだけの罠を初見で何とかするのは、無理じゃなくても結構手間取ったもんな…
終始楽しそうだったミスティと違って俺は結構緊張してたもんな…昼間の戦闘もあったし、こっちでは1時間でも城の中で10時間近く気を張った状態だったし、そりゃ疲労も出るわな…昔はもっとキツかったな…
ユウキが昔の事を思い出し1人、遠い目をしているとミスティが不思議そうにユウキの着ている服の袖を、ちょんと掴み引っ張る。
「マスター?遠い目をしてる場合じゃないのです!もうリリア達はとっくにパーティーが始まってるはずなのです!早くリリアを迎えに行ってあげるのですよ!」
気合充分と言った様子のミスティは、待ちきれないといった様子で、うずうずしている。
俺としても、敵地と言っても過言では無い場所に、リリアを送り込んでしまった罪悪感もある。
何よりも昼間のゴブリンとの戦闘では、完全に力を制御し切れず、爆撃でもされたのか?と思えるような光景を作り上げ、リリアの身を危険に晒してしまった。
俺の渡してあったネックレスのおかげで事なきを得たが、あの場でリリアが死んでしまってもおかしくはなかった。
しかも、その結果ゴブリン討伐の証も剥ぎ取ることできずに塵にしちゃったし…
城を10時間も探索している間に、自分の身体の動きを把握する事ができたのは本当に助かったな…
…おかげで自分の力を再度確認できた。
昼間は失敗したが、今度こそ完璧にリリアと親友達を救ってみせる!
…ついでにクラスメイト達も助けてやるか。
一応あんな奴らでも地球から、俺に巻き込まれこの世界に来てしまったのだ。死なせるのは申し訳ないしな…
そんな事を思いながら、遠く…王都の中心に佇む白亜の城を真剣な眼差しで見つめるのであった。
「さぁ、ミスティ…この国を救いに行くぞ!」
「お供するのです!マスター!!」
自分達が宿から出た事を周りにバレない為に、部屋には隠蔽の魔法を使い、常に誰かがいる気配を漂わせておく。
何かあった時の為のアリバイ工作を完璧にし、先程リリアを見送ったあの窓、その窓枠を強く蹴り月の無い夜空に跳び上がる。
一瞬のうちにイヤリングになり、耳に装着されるミスティを携え、2人は漆黒の闇に乗じて空を舞う
「さて、お姫様を迎えに行きますか!!」
街を歩くもの達は、上から聞こえた気がした声に空を見上げるが、そこには漆黒の闇が広がっているだけだった…
気のせいか?と思い、何事もなかったかの如く前に向き直り歩みを進めるのであった。
城内散策の話は閑話でそのうち語りたいと思います。
流石に展開が進まなすぎになるので…
次話投稿は、明後日のお昼公開予定です。
土日に取り敢えず一章の終わりまで行きます!多分!
早く次の章に進みたいんじゃ〜




