第116話 天空 光の独白
俺の名は天空光。
東京で生まれ、東京で育ち、そして異世界に転移した。
何を言ってるか分からないだろうけど、俺も理解できないから一緒だな!
じゃなくて!
なんで俺がこんな話をしているかだけど…
いよいよ明日、幼なじみであり親友である西音寺と戦う。
今から少しだけ昔話をしようと思う。
俺には幼稚園の頃、毎日遊んでいた友達が居た。
まぁ、それが西音寺なんだけど…
それだけじゃない。
あいつは忘れているが俺と西音寺、そして神咲は同じ幼稚園に通っていた。
それはもう気があったもんだから毎日泥だらけになりながら駆け回ったよ。
そして…
あの日、キャンプに行くと言って、家族旅行へと旅立って行った西音寺の事を神咲と一緒に羨ましがった。
だが、あいつが戻ってくることは無かった。
幼い俺は親に何度もあいつの所在を尋ねたそうだ。
それは仕方ないことだろ?
毎日遊んでいた友人がいきなり消えたのだから。
幼稚園、小学校、中学校と神咲とは同じだったが、俺の求めていた男は姿を見せなかった。
元々西音寺を中心に遊んでいた俺と神咲は、あまり話すことは無かった。
だけど小学校の時から常に同じクラスなんだよなぁ…これが腐れ縁ってやつか?
まぁ、そんな事はいい。
大事なのはこっからだ!
そう、高校の入学式…
名門高校に受かった喜び等遥かに上回る喜びが、あいつの名前が掲示板に張り出されていたのを見つけ歓喜に震えた。
高校生になってようやく、西音寺と再開できた!
この感動は凄まじかった。
チラッと見た神咲は号泣していた程だ。
そして、入学式…新入生代表として登壇したあいつの姿を見て、誇らしく思った。
俺の友は入試でトップの成績だったのだ…
それが自分のことの様に嬉しかった。
でも、なんでマスクと眼鏡を…?
普通こういう時って眼鏡はともかくマスクは外すよな?風邪でもひいてるのか?
後にあの時の事を聞いたら、顔を見られるのが恥ずかしかったと言っていた。照れ屋か!?
そして教室に戻り、たまたま席が隣だった為すぐに声をかけた。
「よぉ!久しぶりだな!」
俺が声を掛けた事に表情を曇らせ、考える素振りをする西音寺。
「あ、あぁ…お久しぶりです田中くん?」
「いや、田中って誰だよ!?」
ふざけてるのか?とも思ったが西音寺が居なくなってから10年近く経過してることもあり、もしかして忘れられてんのか?と思い幼稚園の時の話をした。
結果、それが間違いだった。
「すまない…その頃の記憶が無いんだ…」
この時のあいつは物凄く悲しそうに一言こう告げ、顔を机に伏せてしまった。
やっちまった。俺は頭の中ぎ真っ白になり呆然とした。
殺気を感じて振り向くと見知らぬ女生徒が此方を睨んでいた。
え、何?君になんかしたか?
この時、多分声をかけようとしていたのだろう。神咲が西音寺の側までやって来ていて、俺と西音寺の会話を聞き、同じく顔を真っ青にしていた。そして、教室を飛び出していった。
そりゃそうだ、10年近く恋い焦がれていた相手がまさかの記憶喪失で、あの頃の事を覚えていないと言うのだ。
それ以来少しの間ぎこちない関係が続いた。
話しかけても返事はしてくれるがそれ以上の会話は無い。
そんなある日の事…
たまたま俺が買って来た漫画をあいつも読んでいた。
漫画、たった一つの偶然が俺と西音寺を再び友人にしてくれたのだ。
なんでこの漫画が好きなのか?と言う話になった時に西音寺は、必殺技の参考になるからと言っていた。
その時は厨二病拗らせてんのか?と思ったが本人は至って真面目だったので、茶化さない事にした。
そして、いつの間にかしれっと輪に加わっていた神咲。本当にいつの間にか、夢に見た光景が目の前にあったんだ。
ようやく止まっていた時間が流れ出す。
そんな気配を感じていたのだが、それを快く思わない奴らが居た。
神咲の事を中学の時から好きだった奴らだ。
実際告白もされているところを何度か目撃した事があったが、常に断り続けていた。
それは西音寺の事を思い続けていた証拠でもある。
だが、それが良く無かった。
神咲は男とは全くと言っていいほど会話をしていなかったのが、何故か西音寺には笑顔で自ら話しかけに行く。
その光景は女子達の間でも異様に写ったし、男子達は嫉妬した。そして、中学時代に振られた奴らがこいつの事を逆恨みし始める。
そしてあの日…
上級生に呼び出され、校舎裏に連れられていった西音寺を心配して、神咲と二人で担任である雪先生を呼びに行き、駆けつけた時には全てが終わっていた。
ボコボコになった上級生。
それをゴミを見る目で見つめる西音寺…
なんだ、あいつめっちゃ強かったのか!心配して損したは!
普通なら西音寺と関わるのはやめた方がいいのでは?と思えるような光景が広がっていたが、俺は逆だった。
「あれ?みんな来たんだ?」
こっちに今気づきましたと言わんばかりに驚いてみせた西音寺の白々しい顔ったら…笑いそうになったぜ…
「ゆうちゃん何してるの…?もう、心配させないでよね…」
「いや、雪姉は俺がこの程度の相手なら大丈夫って知ってたでしょ?」
ゆうちゃん…?雪姉…?
そういえばこの2人がコソコソ何かを話してるのを目撃したことがあったが、知り合いだったのか?
気心知れたやり取りにあからさまに不機嫌になる神咲。マジで勘弁してくれ西音寺!!
呼び出された西音寺は何故か停学や謹慎処分も無く、翌日からも普通に学校に来ていた。謎だ
なんで免れたのか?そう質問した俺に西音寺はこう答えた。
「ん?探偵がボイスレコーダーと小型カメラを常備してるのは当たり前だろう?つまりそう言う事だよ」
意味がわからん。
ただ、その日の放課後に一つだけ頼み事をした。
俺を強くしてくれと
もし、また大切な時間が失われそうになった時、それに抗うことの出来る力が欲しかった。
西音寺は一瞬キョトンとしたが、それもすぐ真面目な顔に戻り一言。
「承った」
こう言い、俺を自分家へと招待してくれた。
何故か神咲がついて来たが問題は無い。
そして、地下に案内され、そこでその日から毎日夜遅くまで訓練した。
一言で言うと死ぬかと思った。
だけど徐々に身体が鍛えられていくのが分かる。
神咲も家の手伝いが無い日は一緒に訓練していた。メニューは違うけどな!
そして、運命の日…
異世界へ召喚された俺は、自分のステータスに勇者の文字があった時に心底驚いた。
この2文字は西音寺が受け取るべきだっただろ?そう思ったのだが、あいつは何食わぬ顔で予想通りだと抜かしやがった。少しは悔しがれ
そして、アイツは消えていった。
俺に戦う理由を残して。
これじゃ頑張るしか無いだろ?
神咲は数日間、暇さえあれば泣いていた。
雪先生も心ここに在らずと言った感じで上の空だった。
はぁ…別にアイツは死んだわけじゃ無いんだぞ?
仕方ない、俺が人肌脱いでやるか!
俺はクラスメイトに見せつける用に訓練に励んだ。触発された何人かが一緒になって騎士団の訓練に参加する。
そして、西音寺に言われた事を思い出したのか、いつしか神咲と雪先生も仲間に加わっていた。
そして、あの日の夜に自分の弱さを知り。
努力が足りない事を知った。
一からやり直す。
そう自分を奮い立たせ臨んだ訓練の成果が試される。
俺が強くなる理由をくれた西音寺との決戦。
必ずぎゃふんと言わせてやるぜ!
待ってろよ西音寺!!
次の更新は明日の正午になります!
三連休でこの章を終わりにするつもりです!




