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ぱかぱーん!

 俺は床に正座していた。

 まわりには高校生たち。みんな俺を見ながら腕を組んでいる。


「どういうことだ真鍋……」


 腕を組んで仁王立ちした福本が俺を見下ろす。


「い、いや、夢に天使を名乗る昭和ヤンキーがあらわれてだな。この能力をくれたのよ」


 くわっと福本の目が見開く。


「ずるいぞ真鍋! 異世界に行ったら最後までチートを使うのはやめようねって約束したのに!」


「お前はマラソン大会の女子か!」


 そんなピンポイントの約束をしているはずがない。アホか!


「ええい、俺にもチートを寄こせ! 栄光のエルフハーレムを俺にも寄こせ!」


 福本が俺に襲いかかる。

 ちょ、俺もまだエルフハーレム持ってない! 寄こせと言われても持ってない!

 ぐぬぬぬぬ! 近い、近い、近いいいいいいいい!


「金、権力、ハーレムううううううううううッ! 寄こせええええええッ!」


 清々しいほどのゲスっぷり。こいつとは楽しい酒が飲めそうだ。

 すると福本ののどが光っている。

 俺は容赦なく福本ののどに地獄突きを入れる。

 ずびしゅ!


「ふごおおおおおおおおおおッ! エルフウウウウウウウウウぅッ!」


 ゴロゴロ転がる福本。

 だが俺たちは見た。

 福本から次々とアイテムがチャリンコチャリンコと湧き出すのを。

 わーお、福本は生産職だったか。

 悶える福本の横にはアイテムの山ができる。

 俺たちは苦しむ福本をスルーして、アイテムを拾っていく。

 中古の鉛筆。古びたホッチキス。肌色だけどこかにいってしまったクレヨン。黄色のチョーク。ガラクタばかりだ。


「うっわ、役に立たない!」


 高藤が声をあげた。

 福本がかわいそうなのでフォローしてやろう。


「まだレベルが低いからこうなるんだ」


「レベルね。私の水を操る力も強くなるかな?」


「たぶんね。水でドラゴン作ったりできるようになるんじゃないかな?」


 そんな話をしているとガチャンと音がする。

 俺はその品を拾う。ハリケーンランタンだ。しかも燃料つき。レアガチャ引いたらしい。


「これは役に立つな。福本、もっといいもの出せないか? アサルトライフルとか」


「無茶言うな……。これでも使え!」


 福本は起き上がると俺になにかを投げつける。

 俺はそれをキャッチしてまじまじと見た。

 ハリセン……よし使おう。

 俺はハリセンをベルトの間に挟むと、他の学生たちにほほえみかける。


「さて、みんなもチート能力を開花させようか」


「み、みんなも? 福本と高藤だけじゃなくて?」


「うん、みんなもだよ♪」


 俺の言葉を聞いた高校生たちは散り散りになって我先にと逃げ出した。

 逃がさん!

 俺は跳躍し、逃げる高校生たちを追う。

 頭の中には某仕●人のテーマが流れる。ぱかぱん!


「破ああああああああああッ!」


「ま、真鍋! やめ、やめええええええ!」


 ずびゅしゅ!


「ま、真鍋くん! 私はそういう能力いらな……」


 ずびゅ!


「てめえおぼえてろー! らめえええええええ!」


 ずっびゅーん!


「ま、まだ結婚もしてないのにー! あんッ!(野太い声)」


 ドスッ!

 俺は次々とチートを開花させる。

 これは善意だ。仮に安全を確保したとしても、その次に人生を乗り切るだけの能力が必要になる。鍛冶も農業も商売もできない彼らの人生にはチートが必要なのだ。

 ……というのは建前で、俺だけ仕事をするのがなんかムカついたのだ。

 だから全員のチートを発現させる。

 ふはははははははははー!

 高校生たちのチートを発言させた俺は満足だった。

 これで俺が終始守ってやる必要はなくなったのである。

 めでたしめでたし……。


 さて、めでたしなのだが、ここからさらに続きがある。

 まずは高藤の経験値アップもかねて水を発生させまくる。

 水を使い放題なら風呂も夢ではない。

 水柱が立ったのを確認すると俺は福本にお願いする。


「福本、鍋を出してくれ」


「はあ? 俺だってどうやればいいか……」


 福本が手を広げるとぽんっと鍋が出現する。


「出た……」


「そりゃあんだけ品を出せばレベルも上がっているだろうよ」


 福本が出したガラクタがうずたかく積まれている。

 重量にして数十キロ。かさばる品なので片付けるのにも全員でやらねばならない。

 とはいえ、ガラクタはこの世界にはない品々だ。交渉次第では換金できるかもしれない。

 いったんそれは考えから外し、福本が出した鍋に高藤の水柱の水をくむ。


「炎が出せる人」


 俺がそう言うと、長い黒髪の気の強そうな女子学生が前に出る。


「真鍋。忘れてるかもしれないけど、蘇我麻紀(そがまき)だ」


 ぶっきらぼうな口調の蘇我は、鍋に手をかざす。

 火炎放射器のように炎が鍋を包む。


「この通り、炎は制御できない。常に強火だ」


「いいよいいよ。そのうちコツをつかむでしょ」


 鍋の外側を黒焦げにするとお湯が沸く。

 かなり減っているが加熱できるのがわかった。


「よーし、これで冬の全滅は免れたな」


「真鍋、どういう意味だ?」


 キッと蘇我が表情を険しくした。

 いやマジで蘇我さん怖いッス。


「福本に燃料出してもらって、蘇我さんに燃やしてもらえば少なくとも凍死はしないでしょ」


「なるほど。じゃあ福本に食料を出してもらえば完璧だな」


「無理じゃないかな? 福本出せる?」


 福本は「や、やめろ! 俺の右手がああああああああああッ!」と言いながら力を使おうとする。

 俺たちはもちろんスルーだ。


「くそ、スルーかよ! 冷たい奴らだ。……ああ無理だ。なぜか食い物は出せない」


「だろうね。能力は万能じゃないってことよ。それに生産系の方がレベルが上がりやすいみたいだね」


 福本はもう鍋を作り出せるのだ。

 超高威力のネタ装備しか作り出せない俺よりだいぶマシだ。


「それじゃあ、真鍋くんの能力は?」


「全能。ただしレベルが上がるのが遅すぎて、今のところ戦闘にしか使えない」


 あーあ、まだかな。エルフハーレム……。

 と、思っていた俺がバカだった。

 そう、笑いの神に愛される俺に普通のハーレムはやってこないのだ。

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