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塩をまくとは言ったけど実際はなかなか枯れないよ。どうせやるなら六価クロムだよね?

 首都の宮殿を爆破コントで消滅させた俺たちは、とりあえず首都の街に潜伏することにした。

 森でキャンプでもよかったが、気候、川の位置、食料の情報がない。危険生物もいるかもしれない。簡単に言うとサクッと死ぬ。

 高校生もけも耳のみなさんも、自己責任と放り出すのは忍びない。かわいそうである。

 それに俺は外見は別として、中身はゴミみたいといえどもオッサンだ。

 同郷の子どもを守ってやる義務があるだろう。

 それになんとなく感じるのだ。放り出したら死亡フラグが立つって。

 なんかね、たぶんひどい死に方する気配なのよ。天使からの連絡も注意もねえけど。

 だから俺は切り捨てないのだ。半分は俺自分の保身のために。

 国王成敗のあと、とりあえず俺たちは城下町に潜伏した。

 それもなるべく人の出入りが多く、権力に反抗的な人間が多い場所を。それはスラムである。

 スラムには、けも耳を含む様々な人種が掘っ立て小屋を作っていた。

 ここなら目立っても中央の上層部に報告は届かないだろう。

 地球でも国連やNGOの職員、それに宗教家までもが食料を盾に難民居住区でやりたい放題だったのに、上に報告は届かなかった。それが元でいまになって大慌てだ。

 現代の有能な組織でもその程度だ。スラムに情報収集など入るはずがない。人間という種族の限界がそこにあるのだ。

 我々はそういう隠れ家と、それに期協力者を探す必要があったのである。

 一応は言葉が通じることはわかっているが、俺たちはこの世界に生活基盤がない。

 つまりこの世界でガイドなしで挑むのは、難易度ハードスタートどころかナイトメアモードスタート。

 国籍も住民票も役所の支援もなく、しかも超閉鎖的な過疎の村にIターンするのの100倍は難しいと言ったらわかってくれるだろうか。

 サバイバル系シミュレーターで最初の一週間を乗り切るのが難しいのと同じである。あ、こっちの方が的確だった。

 とにかくガイドが必要だったのだ。

 すると猫耳の生け贄娘、マリンさんが助言をくれた。


「あの……恐れながら……親戚がいるかもしれません」


 すると他の子たちも次々に教えてくれる。


「うちの親戚ももしかすると……母は仕立て職人なのでそういう仕事をやっていると思います」


「傭兵やってたおじさんなら生き残っているかも」


「たぶん父が生きてたら馬の蹄鉄作っていると思う」


 要するに助けなければ、早々に死亡フラグが立ったわけである。

 ついでになぜ捕まったのかを聞いてみる。


「青イチゴをとっていたら奴隷狩りで……」


「村が奴隷商人に襲撃されて」


「村が焼かれて逃げ回ってたら捕まった」


 苦労したんだね……。

 これには高校生も同情した。

 涙まで流している。

 おっさんからは絞っても出てこない清い心である。

 生け贄候補だったけも耳のみなさんは7人。

 この世界では獣人と呼称するらしい。

 俺が救助したのは全員女性で、年齢は年長のマリンさんが20歳。最年少はシーラちゃん11歳だった。

 寿命はだいたい同じらしく、年齢も人間と同じように考えていいだろう。

 高校生たちからは、面倒を見なければならない年下の子が加わったおかげか良い影響がでていた。

 秩序と団結、それに我慢である。しばらくはひどい状況に我慢してくれるだろう。

 俺はマリンさんに質問する。


「男性の獣人はどうなったんですか?」


「生け贄に捧げられました」


 つまり時系列的に考えて、高校生を呼び出すのに使われたらしい。

 非道である。神様に感情移入するわけではないが、露骨にムカつく。

 おっさん、本気だそうと思う。

 そんな話をしていると、水路の近くにテントが並ぶところに出た。

 するとマリンさんが指をさす。


「おじさん!」


「ま、マリン! 生きてたのか!」


 マリンさんのおじさんは見た感じ40前後。

 相撲取りやベテランプロレスラーみたいに大きな筋肉にたくさん脂肪がついた体型をしていた。パワーにパラメーターを全振りした体型だ。

 顔は傷だらけ、地球であれば暴力団員でもチビリそうな顔をしている。


「トムは!? トムはどうした!?」


「あの人は……生け贄にされて死んだわ」


 そうか……そうだよね。

 この世界で20歳が結婚してないはずがないよね。

 旦那さん殺されてかわいそうに。


「ああ……そうなのか……トムが……」


 おじさんは激しく苦悩していた。

 こういうのを見ると切なくなるな。

 汚いおっさんが非業の死を遂げても痛くもかゆくもないのに。


「それで彼らは……見たところ貴族の子弟のようだが」


「……召喚された勇者様です。私たちを助けてくれました。そのときに国王と貴族数十名をこの世から……消し去ってくれました」


 あ、俺、逮捕。逮捕されちゃう。

 もしかして逮捕フラグ? 密告されて逮捕されちゃう?

 と思ったら違った。マリンさんのおじさんは心底痛快だと言わんばかりに笑った。


「おう! そうか、それであのクソ国王をやったのはどいつだ!」


「そこの真鍋様です」


「そうか、そうか! いやあ、胸がすっとしたぜ。おう、わかった。絶対に俺がここから逃がしてやる! ついて来な!」


 俺たちはマリンさんとおじさんについていく。

 だんだんと風景がガチでヤバそうな路地になっていく。

 細く、汚く、折れ曲がった道。

 崩れそうな小屋。それらは信じられないほど適当に増築されていた。

 道にはゴミが散乱し、肉を焼くにおいとゴミや下水のにおいが混じったにおいがした。

 そこはまさにイメージ通りのスラムだった。

 そんなスラムを見て高校生たちは怖がっていた。

 俺はなにも言わなかった。

 発展途上国だとまだ残っている風景だったからだ。だって行ったことあるもの。そして身ぐるみ剥がされたもの。

 だから怖くない。だってけも耳さんが一緒にいるから。

 こんな所で生きているけも耳の人たちはやはり仲間のようである。

 獣人が敵に回るのなら、天使が交渉のカードに使うはずがない。

 そのときは神に不利な行動をとりまくればいい。宇宙から化け物でも召喚して自由に暴れさせてやる。

 だけどそれは杞憂だった。

 おじさんは汚い建物に高校生たちを案内する。


「ここは元教会だった場所だ。国王が教会との戦争に勝利したおかげで神官は皆殺し、ここもこの通り廃墟になったわけだ」


「今はここになにがあるんですか? 案内したってことはなにかあるんでしょ?」


「おう、言ってなかったか。ここには俺たち難民の互助会……いやこの国をぶっ潰すための組織がある。とは言え戦力は整ってないがな……」


 なるほどね。これも神の導きか。別名チュートリアル。

 その組織と組めばいいのだな。

 そりゃさ、村を焼かれて娘を生け贄にされたら怒るよね。

 自分が死んでもいいから、一人でも多く敵を殺すよね。そうじゃなきゃ殺してもいい存在とみなされ皆殺しにされる。弱肉強食の世では当たり前だ。

 俺たちが中に入ると、男たちは熱烈に歓迎した。


「おう、兄ちゃん。あのクソ国王をぶっ殺したって? やるじゃねえか! おう、飲むか?」


「のむー!」


 と答えた瞬間、冷たい視線が突き刺さる。

 未成年は酒飲んじゃダメ。ですよねー。そうですよねー。今、俺は未成年ですよねー。

 俺はすすめられた酒を置く。ホッ●ー中抜きで……。


「私たちの世界では20歳まで酒は飲んではいけないのです」


「おう、そうか。異世界ってのは、そういう信仰なのか?」


 髪に白いものの混じったおっさんが俺に聞いた。


「だいたいそんな感じです」


 法律……と言ってもわからないので、相手に合わせる。悲しい!


「それで兄ちゃん。これからどうするんだ?」


「とりあえず、国は私たちを殺さないと周辺国に滅ぼされるので全力で殺しに来るでしょう。宮殿の騎士を全滅させたから、少なく見積もってで蛮族千人を殺す体勢を整えるでしょうね。いや、それじゃあメンツが立たない。数を盛りまくって、俺たちを一万の軍、いや10万の蛮族とみなして殺しに来るでしょうね。軍を編成するのに最低一月かなあ? この辺は物価と予算がどのくらいかわからないから適当ですけど。軍の総司令官は生き残った王子の誰か。スラムの捜査は明日ってところかな? こんな感じだと思いますが当たってます?」


 なお似たようなモデルは新卒で入った会社。

 大手の契約違反と特許侵害にヘラヘラ笑ってたら、ぶっ潰されたでゴザル。

 どの世界でもなめられてはいけないのだ。

 殺すか殺されるか。それが人間社会というものである。


「あはは! 兄ちゃん、貴族の子弟……いや、士官学校の人間だったか。そうだよ。だいたいそんな感じだ」


「いえいえ、ただの民間人ですよ。そういう貴方も獣人軍のお偉いさん」


 そこまでわかっちゃうんだから、この人も軍事畑の人だよねえ。

 俺は違うけど。俺はただの会社員な。

 ホント、元の世界の教育ってすげえや。


「元、な。それで、最大の危機が迫っているとわかったところで、お前さんはどうしたい?」


「そうですね。総司令官になりそうな人の領地ってお分かりになりますか?」


「なにをするつもりだ?」


「先制攻撃で滅ぼします。徹底的に。穀倉地帯と食料庫を焼き払って、冬への備えも焼き尽くします。できれば土地に塩もまきましょう。それが嫌なら占領でもしますかね。略奪はお好きにどうぞ」


 納得する獣人に、固まる高校生たち。

 なにその顔。俺が悪いやつみたいじゃないの。

 俺はバンバン机を叩いて力説する。


「しかたないじゃん! もうね、相手も滅亡がかかってるの。俺たちをなるべく惨たらしく殺さなければ、この国は外国になめられまくって滅ぼされるの! もうね、俺たちと国の関係は殺すか殺されるかしかないの! たとえ襲ってくる数万の軍勢を倒しても、今度は親戚関係にある国が援助の名目で俺たちを殺しに来るの! つかね、これだけおおっぴらに拉致してるって事は、他の国でもやってるんでしょ! だとしたら召喚された連中の反乱なんて、どの国家も許しちゃおけないの。それに何度も言うけど、最後にはこの世界の連中が日本に責めてくるからな! もうね、俺たちには全面戦争しかないの! わかる? 和平を結ぶにしてもやつらは滅ぼす一歩手前まで追い込んで初めて交渉のテーブルに着くからね」


 バンバン!

 ぜえ、ぜえ、ぜえ。一度にしゃべると疲れる。

 本当だったら俺は会議で発言しないで、全責任を言い出しっぺに押しつけるスタイルなのだ。

 リーダーシップとかマジでない。逆さに振ってもない。


「真鍋……お前、マジで言ってたのか」


 福本はあれだけベラベラしゃべったというのに、まだ信じてなかったようだ。

 ざわざわと高校生たちから声が上がる。


「あたり前だろが! もうね、召喚された時点で俺たちは詰んでるの! とにかくさっさと相手の拠点潰しながら、反政府勢力集めてこの国滅ぼそう」


「そんな……まさか……異世界転生といえば冒険者ギルドに登録して、スライム狩りで大金持ちになって、ポーション作って歴史的英雄になって、エルフ嫁を頂点とするハーレムを……」


「福本! 妄想に逃げ込むな! 見てるお前らもそうだぞ! 敵は滅ぼすしかない」


「真鍋くん! 話し合おうよ」


「話し合う間もなく一人死んだのを忘れたのか? この世界は俺たちを皆殺しにするつもりだ。死にたくなければ滅ぼすしかない。スライム狩りはそのあとからゆっくりやれ。死にたくなければな!」


 みんなこの言葉で黙った。

 俺は意思の統一ができたと思い笑顔になる。


「それで、どこからつぶせばいいと思いますか?」


 俺はマリンさんのおじさんに聞いた。

 土地鑑がある人間に聞くのが一番である。

 おじさんは腕を組むと答えた。

 つまり『教えてやるけど推奨しない』と言いたいのだ。


「王都北の砦だ。第一王子がそこにいる。だが国最強の精鋭だ」


「んじゃ、潰しに行きますわ」


「できるのか?」


「第一王子を人質に取って逃げる程度なら」


 なんでもそうだが頭をつぶせばいい。

 それで仕事は終わりなのだ。

 そしたら、スラム狩りで財産築いてけも耳メイドさんに「さすがご主人様」って言われる日々を過ごすんだ。

 妙な死亡フラグを立ててみた。

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