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一件落着……とはいかないのである。

 俺は今度は普通に歩いて降りていき、片っ端から部屋を開けていく。

 おっと、メイドさんがいた。


「この城な、今から消滅させるから、みんなを連れて逃げてくれないか」


 はいはい。避難避難。

 ムカつきもしない女の子に暴力を振るうのはためらいがある。

 ついでに下働きのおばちゃんとか、庭師のおっさんとかも避難させる。

 

 部屋を確認して回っていると、とある部屋につく。

 鍵がかかっていたので、とりあえず蹴り破る。

 なかには猫耳の少女が! 猫耳だ。普通の少女だが猫耳だ。猫耳なのだ!


「ひ、ひい! どうか命だけは……」


 怯えるな……。けも耳の人よ。私味方。けも耳正義。


「私はあなたがた亜人を助けるために神がこの世界に送り込んだ使徒。ちなみに彼女いません」


 歯をキラーン。目もキラキラ。

 いや、態度違いすぎやろって、誰だって猫耳がいたら優しくするだろ?

 俺、どこか間違ってる?


「あ、あの……外に出ていいんですか?」


「もちろんです。その……できればお耳を触らせていただければと……」


 耳をモフりたい。モフりたい。ああ、モフりたい……。モフ……。はあはあ。


「あ、あの……使徒様、地下牢にはまだ獣人が囚われているのです! どうかお慈悲を……」


 くわッ! 許さん!


「あなたは外に出てください。何度も言いますが彼女いません」


 そう言うと俺はその場で回転する。俺の足はドリルとなって床を貫通する。ふはははははは!

 もうやりたい放題だが、気にしたら負けなのである! 苦情は神様まで。

 あっというまに地下牢に俺は到達する。

 地下には鉄格子があって、中には猫耳、犬耳の女の子が囚われていた。許せん!


「らーにわい!」


 俺は謎のかけ声とともに鉄格子を握ると引っ張る。鉄格子はグチャグチャに壊れた。

 俺は鉄格子をその場に捨てジョジョ立ちする。精一杯の格好いい演出だ。

 そしてモデル歩きでけも耳たちに近寄り、20歳くらいと思われる女性の手を握る。

 ちなみにウケるまでネタは続けるつもりだ。そう、おっさんのネタはしつこいのだ。


「もう安心です。私は神の使徒、神様の言いつけであなた方を救いにやってきました。ちなみに彼女いません!」


 きらん!


「は、はあ……」


 女性は困っている。

 愛してる! 結婚してください!

 といきなり言うとストーカーとかセクハラ扱いされるので、しばらくは爽やかキャラで行こう。


「とにかく外に出ましょう。上にいた女性もいるはずです」


「え、マリンがいるのですか!? 彼女は今日、異世界の勇者様を召喚するために生け贄にされる予定だったのです!」


 なるほど、先ほどの女性はマリンさんか。

 それに有益な情報もくれた。

 国王たちは、高校生を召喚して選別してから、さらに召喚の儀式をする予定だったのだ。

 いやー、シャレにならんわー。……待てよ? どのくらいの人間が拉致されてるんだ? かなりの人数なんじゃ……。

 いいや後で考えよう。とりあえず答えるか。


「ええ、無事です。とりあえず外に出ましょう。そこの子たちも連れて。ちなみに私は(略)」


 俺はけも耳娘たちを連れて外に出る。

 外に出るとマリンさんがいた。

 俺はキリッとした顔を保持しつつ、みんなを宮殿の外に颯爽と連れ出す。

 なお、これからのことはノープランである。

 宮殿の門を抜けると学生たちがいた。点呼を取っている。

 俺が近づくと高校生たちが俺を囲んだ。

 太った少年、福本が手を振る。ああ、美しきかな友情。


「真鍋ぇッ! 生きてやがったのか! 俺は信じてたぞ!」


「真鍋くん! 大丈夫? 無事だった!?」


「なあマジで怪我してないか?」


 本当に心配しているらしい。

 大丈夫だ。頭がおかしいのは生前からだぜ!


「あ、悪かったな。国王その他、成敗してきた。それで、この娘たちは城に囚われた人たち。この世界の案内を頼もうと思うんだけど……金を稼がねばなぁ……」


「あ、それそれ! あのあとみんなで部屋を漁ってきたんだわ」


 そう言うと高校生たちは、戦利品を俺に見せた。

 金や銀の調度品に、眩い輝きの宝石に、高そうな食器類まで。

 俺は無言で親指を立てる。ヒャッハー! サバイバル向きの連中だぜ!

 急にコイツら好きになったぜ!


「それじゃあ行こう!」


 俺たちはこうして異世界の第一歩を踏み出すことになったのである。


「でもさー真鍋。あの宮殿はそのままで逃げるってのはムカつくよなー。俺たちは呼び出されたんだっての!」


 福本は不満げだ。しかたない。年長者が場を和ませてやろう。


「まあ、まあ、気にするなって。こういうときはだな、人差し指と中指を上にくんって……」


 俺は笑いながら某星人の真似をした……してしまったのだ!

 どがーん!

 次の瞬間、俺たちの後方で大きな音がした。

 おー……気の力で爆発しちゃったりとか……ねえ?

 振り返ると、宮殿のあった場所には噴煙が舞い、建物は跡形もなく消えていた。

 そして一瞬遅れて、火薬がちゅどーんと爆発した。

 宮殿に備蓄されてたに違いない。黒色火薬なので煙がもうもうと上がり、前が見えない。あのなんとも言えない火薬ににおいが、鼻腔をくすぐった。

 爆心地をよく見ると、アフロになったおっさんたちが全裸でぐったりしていた。

 そうか……爆発オチか。そうきたか。

 ……まさに伝統芸だ。


「なんだ! なにがあった!」


 ぽくなにもみてないもん。


「城が! 城が消えてる!」


 ぽく知らないもん。


「クレーターができてる!」


 ぽく悪くないもん。


「真鍋……少し気分が晴れたわ……」


 福本が俺の肩を叩く。

 犯人確定。犯人は俺だー!


「そう言ってもらえると助かる」


 なんだか変な友情発生。

 そうかこの世界では俺はナッ●様なのか。もう開き直ろう。

 福本は急に真面目な顔をした。


「なあ、真鍋……これからどうする?」


「そうだな。どうやらこの世界に拉致された人間がまだたくさんいるらしい。その人たちも救出しないとな」


「なんでよ? このまま逃げて誰もいないところで生きていこうぜ。自給自足とかさ」


「無理だね。食料、寝床、水にゴミ処理に……なにやるんでも人と関わらないと生きていけないのが人間ってやつだ。それに国王を倒したんだ。国が草の根分けても俺たちを殺しに来る」


「マジか……俺たちはただ召喚されただけなんだぞ!」


 福本の言い分を聞いて俺は思わずふきだした。


「ぷッ! あははははは! やめろよ、この世界に召喚された時点で生き残る選択肢はたった一つだ。やつらは俺たちを生かしておく気なんてこれぽっちもない。言うことを聞けば使い捨てに殺す。逃げれば殺す。反抗したら皆殺しだ。わかるか? 俺たちの選択肢はたった一つ。【この国を滅ぼす】だけだ」


 もー、やだー! 言わせんなよ。

 殺るか殺られるか。それが俺たちとこの国との関係なんだって。

 ぼくちゃん殺られるの嫌だもん! この国滅ぼすもん!

 さて、これだけだと動機が弱い。

 ヒロイックファンタジー風の目的も与えないとな。

 いいですか? 大人は汚いものなのですよ。ここテストに出ますからね!


「それに……ここで奴らを止めないと、やつらは次は地球に侵略してくるだろう。わかるだろう? 戦争がなければ武勲や恩賞を諸侯に与えることができないし、経済が低迷する。もしこの世界に覇権国家が誕生したら? 次は地球に攻撃を仕掛けるだろうな」


 なお、根拠はない。適当である。

 今の文明レベルだったら、この世界の軍勢じゃ重機にすら勝てないと思う。

 異世界の軍隊が来ても皆殺しよ。

 もしかすると核兵器クラスの武器があったりするかもだけどね。

 でもそれをわかってて俺は煽る煽る。


「な、なんだって……それじゃあ……俺たちがここに召喚されたのは奴らを止めるためだっていうのか」


 ただ単に運が悪かっただけだよ。


「これも正義のためだ! 一緒に戦おう! ……だけど内緒な。みんなには知られたくない」


「あ、ああ。わかった。真鍋……ちょっと頭冷やしてくる」


 福本が俺から離れる。今の話を言いふらしに行ったに違いない。

 ぐはは! バカめ! 言いふらすのをわかってて話したのだよ!

 こうやって大人は子どもを騙すのです。

 それに言わないこともあった。

 俺一人だったら魔王になって人類皆殺しエンドでいいのだ。

 俺はもう人類に喧嘩を売ることを選んでしまった。

 ヤンキー天使は言わなかったが末路は誰にでもわかる。

 でも高校生に罪はない。俺がいなくなっても安全に生活できるようにしてやらねばならない。

 こいつらが生き残るためにはなにが必要か? それは勢力だ。数は力なのだ。

 そうだな、相手がおいそれと手を出せない人数が必要だ。

 10万か、20万か。最低でコミケの50万だろうか。

 それを集めるのは困難に思えるだろう。

 でも俺たちの世界のこれまでの世界中の行方不明者、それにけも耳のみなさんの数を考えれば無理な数字じゃないだろう。……と、思う。

 あー……そうか、俺が無茶しないための縛りプレイなんだな。このガキどもは……。

 この世界の神様も皆殺しでリセットボタンは嫌なんだな。はいはい、雑草刈りに専念しますよ!

 こうして俺たちの冒険は、一つの国の政治中枢を滅ぼしたところから始まるのだった。

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