聖剣は便器をスッポンスッポンするやつ
「んじゃ、逃げるぞ」
「は?」
ガキどもの困惑した視線が俺に集まる。
なにその顔。
「この場にいても、殺されるだけだぞ。さっさと逃げよう」
俺の言葉でガキどもは、ハッとした顔になって立ち上がる。
「外を見てくる」
俺はそう言うと部屋から出る。
当たり前だが衛兵が二人いた。
防音が効いていたのか、二人とも俺たちを見て初めて異常に気づいた。
部屋に護衛も入れずに調子にのっていたところから考えると、ヒゲ男はかなりの猛者のようだ。
「く、くせ者!」
兵士が叫んだ。
テンプレ展開的には魔法の一つも使うところだろう。
だが使い方がわからん。
チートのマニュアルもチュートリアルもないからな。
よし、暴れまくっておぼえよう。
兵士は鉄の槍を構える。
俺はポケットを漁った。まだリーマン靴下が残っているかもしれない。
ポケットを漁る手に確かな手応えを感じた。よし引っ張るぞ!
うにゅーん。
ポケットから出てきたのは、明らかにポケットに入らないサイズの物体。
ゴムの頭に柄が着いてて、すっぽんすっぽんとつまった便器に使うアレ。
いわゆる便器スッポンが出てきた。
「な、なんだこいつ! その道具はなんだ!」
この世界には水洗トイレはなさそうだ。
俺はラバーカップを両手で持ち、小学校のころにやっていた剣道のように正眼に構える。
するとラバーカップが神々しく光り輝いた。
ラ●トセーバーのつもりか! つもりなのか!
「なんだと……それは……聖剣……なのか……!」
兵士は激しく動揺しているが、俺には関係ない。
光る武器、ならばやることは一つだ。
俺は真っ直ぐラバーカップのゴム部分を顔まで持ち上げる。
「スッポンフラッシュ!」
眩い光が兵士たちを襲う。
「ぎゃあああああああああッ! 目が目がああああああぁッ!」
「成敗!」
俺はチャンスとばかりに兵士の腹をラバーカップで打ちつけた。
カッキーン! ホオオオオオオォムランッ!
本当にぶっ飛んだ兵士は一直線に壁にぶち当たり、そのまま突き破る。
壁は崩壊し、大きな穴があいた。
ふむ、まだ下の階があるのか。
もう一人の兵士はというと腰を抜かしてその場にへたり込んだ。
俺の頭の中に某なんとか将軍の戦闘シーンの曲が流れる。
ぴらりぴらりちゃーんちゃーんちゃーん♪ ちゃーん!
「責任者はどこだ?」
兵士は俺たちのいた部屋を指さす。
「さ、サズロフ伯爵閣下でございます!」
「やつは社会的に抹殺した。ではサズロフの上司はどこだ?」
……やつの毛髪は死んだのだ。
遠い目をしていると兵士は俺があけた風穴を指さした。
ついでに命乞いをする。
「きゅ、宮殿の本館にいらっしゃる国王様でございますうううううううッ! お願いですからい、命だけは!」
よし、練度も忠誠心も低い!
次のターゲットは国王だな。
ただし成敗は別腹。
「え、ちょっと、なに振りかぶって! ひぎいいいいいいいい!」
兵士の顔面にスッポンスッポン。
無情な暴力によって兵士を無力化。
次のターゲットは国王である。
だがその前にやることがある。
俺は学生たちの所に戻って指示をする。
「みんな逃げるんだ! 俺が血路を開く!」
一点の曇りもない目で聖人ぶる。汚い大人はこうやって恩に着せるのだ。
「ま、真鍋。お前はどうするんだ!?」
お涙頂戴に流されて叫ぶ福本に俺は無言で親指を立てる。
「ま、真鍋えええええええええ! お前ってやつは!」
時代劇だったら俺のテーマ曲が流れるところだろう。
俺が再び廊下に出ると、重武装の……おそらく騎士と出くわした。
壁をぶち抜いたので異変に気づいたのだろう。
もうこれはクライマックス感満載である。
「成★敗!」
くわッ!
俺は目を見開くとラバーカップで襲いかかる。
重武装の騎士が持っていた楯を構える。
俺は盾をラバーカップで殴る。
その瞬間、騎士の鎧が砕けて……服まで破けて全裸になった。誰も得しないサービスシーン。
「な、なんだ! なにが起こった!」
いやーんあふーんってやってられるか!
俺はラバーカップを全裸騎士の股間にぶち当てる。
「きゅッ!」
むごい悲鳴が響いた。
つぶれたっぽいけど気にしない。
「む、むごい! なんという残酷なことを!」
「貴様ぁ! 本当に人間か!」
「悪魔だ! 悪魔がいる!」
拉致した挙げ句にガキを殺しやがったのに、こいつらなに世迷い言を言ってるの?
オラ、本当にムカついてきたぞ。
こういうときはポケットだ。俺はポケットを漁る。
にゅいーん。
なにか大きなものが出てくる。
「ほう……これはいいものだ」
それは廊下に収まるサイズのロードローラーっぽい乗り物だった。
……前言撤回。多少壁にめり込んでいる。
もう物理法則とか突っ込む気にもならない。
さらに便宜上ロードローラーと言ったが、一番近い車の名前を言っただけだ。実は違う。
ローラーからはトゲが突き出していて、なぜか前面にはエンジンらしきものが外に出ている。エンジンにはV8と書かれている。なんたる世紀末仕様!
さらにアメ車っぽい炎がカラーリングされている。なぜだ!
俺がロードローラーを眺めていると騎士たちがざわつく。
「な、なにをするつもりだ……?」
にっこり。
俺は慈愛をたたえたツラでほほ笑むと、ロードローラーに乗り込んだ。
エンジン起動。
ぶるるん。ぶるるん。
昔の暴走族が使ってた自動車のような巨大なマフラーから音がする。
俺の頭の中に某なんとか将軍のテーマが鳴り響いた。
「天★誅!」
ぎゅいいいいいいいいいんッ!
アクセルを踏んだ途端、Gが俺を襲う。
トップスピードまで一瞬、思ったよりスピードは速かった。
容赦なく壁を壊しながらロードローラーは爆走した。
「や、やめ! やめてええええええええ!」
「たすけてええええええ! ママー!」
「俺がなにをしたー!」
泣きながら逃げる騎士たち。だが無駄だった。廊下の先の壁に追い詰められる。
ただそこにいたのが悪かったのだよ! がはははははは!
ちゅどむ!
ロードローラーは壁ごと兵士たちをはね飛ばす。
どうやら轢き殺してはいないようだ。グロ回避。
兵士たちは外に落ちていく。そして俺も。
近くの悪に天罰が下った。
だがまだ国王がいる。悪は滅んでないのだ。
国王め。貴様のおかげで日曜朝のアニメが見られなくなっただろうが!
俺はヘッドハンティング組なのでただの逆恨みですが、なにか?