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貴様のような外道に豊かな頭髪はもったいない!

 はい。騙されました。もうね!

 俺が転送されたのは、城の一室。

 まわりには10代のガキども20人ちょい。

 かわいいブレザーを着てるので高校生だ。

 なんの嫌がらせなのか俺一人だけオールドスタイルの学ランだ。きっとヤンキー天使の仕業に違いない。

 高校生の中におっさん一人。つらたん。


「あ、ああああああああ! ここはどこだ!」


「なにがあったの! 修学旅行のバスの中だったはずなのに!」


「なにがあったんだー!」


 はーい、ここまでテンプレ反応。

 ふはははは! あわてろあわてろ!

 若さが憎い! 金を払わなくても女子が半径数メートルにいるというその環境が憎い。

 俺は混乱したフリをしながら、心の中で憎悪の炎を燃やしていた。大人というものは薄汚いものなのだ。

 ところが次の瞬間予想外のことが起こる。


「おい真鍋、なに呆けてるんだよ。起きろ! たいへんだぞ!」


 なれなれしい、少しカロリーを体に溜めすぎた男の子。

 一言で言うとデブが俺に話しかけてきた。

 そいつが俺を真鍋という聞き慣れない名字で呼んでる。

 ああ、こいつはなにがあっても守ってやろう。

 汚いオッサンはデブに優しいのです。人ごとじゃないから。かつて自分が通った道だから。

 いや、今まさに直面してる問題だから。


「おい、転校生の真鍋! だから起きろって!」


 少年は俺を激しく揺らす。

 少年は確信を持って俺を【真鍋】と呼んでいるようだ。

 ……なにやら嫌な予感がする。


「お、おう、悪いが鏡持ってないか?」


「あ? ああ、持ってるぞ。前髪が気になったのか」


 お前は前髪より体形を気にすべきだ。

 嫌味やからかいではなく、マジで後悔するのだ。

 学生時代の非モテは一生の心の傷になるぞ……いやマジで、ホント。

 男子校になんて行かなきゃよかった……。死にたい。

 少年は仏のような眼差しになっている俺に鏡を寄こす。

 どれどれ、いつもの頭髪が不自由な汚い中年が映ってるかな?


「……マジか!」


 そこには、ほっそりとした少年がいた。

 髪の毛ある! シワない! テカリなし!

 場末のホストみたいにいじらなくても、普通に他人様にお出しできる顔。

 服を買いに行ける顔だ!

 これなら男子校で暗黒の高校生活を送らなくてもいいレベルだ。

 チートか! チートなのか! これがチートなのか!


「えーっと……悪い。頭打ったみたいだ。名前なんだっけ」


「マジで大丈夫か? 福本だよ! なあ真鍋、ホント、気持ち悪かったりしないか?」


 やはり記憶にない。

 俺の高校時代の修学旅行は、眉毛を剃ってカラフルな髪の色をしたヤンキーに囲まれてたはずだ。

 こんなに優しい人間はいなかった。みんな今ごろ死んでるといいな。なるべく苦しんで。

 俺が憎しみを反芻しているとドアが開いた。

 金属製の鎧を着込んで、長いヒゲを生やした男が俺たちを一瞥する。


「使えそうにないガキどもだな。今度もはずれか」


 失礼な!

 いや待てよ……もしかして天罰はこれが原因か!

 この世界の連中は、異世界から人間を拉致しまくってるのか。

 神様が箱庭SLGを楽しむ廃プレイヤーだと仮定して考えてみよう。

 せっかく世界を育てたのに、異世界でも無双できるような偉人とかのSレア人材を盗まれたらそりゃ怒る。

 被害者が増えたら運営大炎上だ。

 俺が密かに納得していると、進学校のヤンキーっぽい黒髪にピアスをつけた少年が男につかみかかる。


「おい! なにわけのわからねえこと言ってやがんだ!」


「ゴミが」


 本当にくだらないものを見るような目をしてパチンとヒゲの男は、少年の前で指を弾いた。

 次の瞬間、一瞬で少年が炎に包まれる。


「ぎゃあああああああああああああッ!」


 少年は床を転げ回る。

 あわてて近くにいた男子たちが脱いだ上着で一生懸命消火作業をする。

 だが炎は強く、たった十数秒で少年は灰になった。助ける間もなかった。


「きゃあああああああああああッ!」


 女子が悲鳴を上げる。

 おいおい……。マジかよ。

 一瞬で場は暴力に支配された。

 ヒゲ男……殺しなれてやがる。

 きっと何度もやっているに違いない。


「くくく、喜べ。お前らには今から魔物と戦ってもらおう。生き残ったものだけ使ってやろう。死ぬまでな!」


 三流の悪役セリフがヒゲ野郎から出る。

 訂正。

 Sレアじゃなくても、ノーマルだって育てたキャラをこうやって使い捨てにされたら、殺すか殺されるかの話になる。

 そりゃ天罰に相当するわ。


「では、せいぜいもがくがいい。私を楽しませてくれ」


 ヒゲ野郎が手を挙げる。

 すると床に魔方陣が現れ、中から大きな何かの手が現れる。

 質感はブロック。

 異世界のお約束的にゴーレムに違いない。


「さあ、ゴーレムよ! そやつらを血祭りにしろ!」


 ひねりがない。

 いきなりのピンチである。

 俺はポケットを漁った。

 チートマシマシなので伝説装備のナイフくらいあるはずだ。

 ここで死ぬはずがないのだ。

 ガサガサ……うわーい。黒のリーマン靴下だー! しかも片方だけ。

 ぐっだぐっだの中、遂にゴーレムは魔方陣から全身が抜け出す。


「グアアアアアアアアアアッ!」


 ゴーレムの咆吼が体の芯を揺らす。

 ビリビリとした衝撃に俺たちはその場にへたり込む。

 よし、終わった。たぶん終わった!

 人生のリセットボタンを探そう。

 あきらめた俺は、リーマン靴下をぶん投げた。

 まさにその瞬間だった。

 靴下は眩い光を放った。

 靴下が、ゴーレムに向かって突き進む。

 まさかのホーミングつきに驚く暇もなく、靴下はゴーレムの顔に直撃。一瞬でゴーレムの頭が塵と化した。

 そのまま靴下は勢いを止めず、部屋の天井をぶち破った。


「ぐはははは! これ程の力を持つ勇者が現れたか! さあ、我に隷属しろ!」


 男は両手を掲げた。靴下完全スルーで。

 都合の悪いものは見えない。疲れた中年の必須スキルです。

 すると俺の首が熱を帯びる。

 首を触ると樹脂っぽい手触りの輪っかが、学ランの詰め襟に巻き付いていた。

 俺は輪っかをつかむ。

 その途端、電流が体を突き抜ける。

 リアクション芸人でも避けて通る電流。

 筋肉が硬直し、首輪から手をはなすことができなくなる。殺してもいいと思ってやがる!

 ちょ、痛いを超えてる! ら、らめ! マジでこれはらめぇッ!


「くくく、抵抗しても無駄だ。そのまま貴様は我が奴隷になるのだ!」


 あっそ、そういう態度。

 なんだかオラ、だんだん腹が立ってきたぞ。

 俺は気合を入れ、無理矢理首輪を外そうとした。


「ぐはははは、知能の低い下等生物が! いいぞ、疲れるまで暴れろ。絶望を味わえ!」


「うるせえこのハゲがああああああああッ!」


 ぶちり。俺は首輪を千切った。

 そして首輪とともに俺の堪忍袋の尾も切れたのである。


「は、は、は、は、は、ハゲだと! 私はこの通りふさふさだ」


 ヒゲ男は必死に否定した。

 必死になるくらい危険が迫ってるんですね。毎朝、鏡を見ると不安になるんですね。よくわかります。

 だが同情はしない! 処刑方法は決まった。


「今からハゲにするんだよ」


 にっこりと俺は嗤う。

 そのままヒゲ男の髪の毛をむんずとつかむ。


「き、貴様ぁッ! 皆殺しだ! 貴様ら絶対に皆殺しだ!」


 男がわめく。

 俺はにっこりとほほ笑む。


「このハゲえええええええええッ!」


 俺は思いっきり髪を引っ張った。

 リーマン靴下が超絶破壊兵器になるほどの腕力が頭髪を襲う。


「ひぎいいいいいいいいいいい!」


 ぶちぶちぶちぶち。

 髪の毛が一気にむしられ、ヒゲ男の頭は鶏肉のようになる。

 激痛のためか白目をむいて気絶していた。

 頭の皮がちぎれるというグロは回避。どうやら俺は本当に笑いの神に愛されているらしい。


「貴様のような外道に豊かな頭髪はもったいない!」


 ビシッと指をさす。

 ……きまった。

 俺は心の中だけで自画自賛したのである。

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