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森人は樹の下で笑う  作者:
桜下の墓森
5/20

5

空は少しずつ色づき始める。暗い暗い夜の世界から明るい世界に変わる。

夜を支配した月は消え去り、一定の周期でやってくる太陽が大地を照らす。


カーテンが開かれた窓から暖かい日差しが入り込む。あぁ朝か。寝ぼけた眼をこすりながら身を起こした。あまり眠れなかったせいか顔がひどいことになっているはずだ。


ベッドが軋む音を聞きながら、地面に足をつけた。ひんやりとしたフローリングの床が気持ちいい。若干覚束ない足取りで扉に向かう。


洗面所に行こう。部屋を後にすべく、扉を開いた。




「おはようございます」

「あぁ、おはよう」


顔を洗い、少しはシャッキリしただろうか。椅子に座りながら本を読むレンオアムとキッチンで朝ご飯を作るエルミィに挨拶した。こんな当たり前のような光景が日常になっていることに、一昔前の自分では想像できないだろう。


「ワンっ!」


犬の鳴き声が聞こえた。音源を辿れば、赤レンガの今は使われていない暖炉に、青い煙を纏った一匹の子犬が突然現れた様だ。頭にはその犬の為に作られたのか、ピッタリなサイズの制帽と首から黄色いポーチを下げている。


「あぁ来たか」


レンオアムは驚いた様子はなく、それがまるで日常かのように犬に近寄り、ポーチから手紙を受け取る。白い封筒に赤い封がつけられている。


「いつもありがとうね」


そう言って、犬を撫でる。犬は気持ち良さそうに鳴く。すると、朝食を作り終えたのか、エルミィが犬に近づく。レンオアムは素早く立ち上がりエルミィと入れ替わるように、また同じ椅子に座りまた本を読む。


エルミィは犬の前でしゃがんだ。


「ポチさん。あの人に引き籠るんだったら事後連絡じゃなくて事前に連絡ぐらいしておいて下さい、と言っておいてもらえますか?」

「ワンっ!」


ポチは勢い良く返事をする。エルミィは破顔しながら制帽を持ち上げ頭を撫でる。そしてまた制帽をのせた。

満足そうにワンっと鳴くと、また青い煙を纏い消えていく。


「レンオアム様、手紙には何て書いていますか?」


ベリっと小気味よい音を立て、赤い封を切り手紙を取り出す。開いた手紙を覗き込むと大きな文字で一行、簡潔な文が書かれていた。


「明日そっちに行くからお迎えよろしく☆だってさ」

「あの人は…はぁ」


心底呆れているようで、頭に手を当てている。若干不機嫌そうにも見える。その光景を見るレンオアムは苦笑いを浮かべている。


「誰からの手紙なんですか?」

「前までこの家にいた友人からだね。普段は音信不通だけど不定期で手紙が来るんだ」


チラッとエルミィの方に視線を向ける。いつも通り見えなくもないが、よく目を凝らして見れば動作がいつもより荒々しい。友人というだけでこんなにもなるものなのか。不思議に思った。


「面白いでしょ」


ニヤニヤ笑っているレンオアムに問いかけられる。面白いというか普段と違う一面を見て驚いているというか。よくわからない。だが…


「新鮮ですね」

「そうでしょそうでしょ」


彼は笑いながらそう言った。あそこまでエルミィを不機嫌にさせる友人が気になった。私は気になっていたことを彼に聞いてみることにした。


「ところでどんな人なんですか?そのご友人は」

「昔ここに住んでいて、今は研究者紛いのことをしているね。で、エルミィと結構仲が良かったよ」


何か視線を感じる。そう感じたのか、話し終わったレンオアムは、視線の発生源を横目に見ながら苦笑した。話を聞かれていたのか。それともただ単に聞こえていたのかは分からないが、エルミィがジト目でこちらを睨んでいる。


やれやれといった表情を浮かべながら、エルミィに見えぬよう口の前でバッテンマークを作る。もうやめよう。そういう意味なのだろうか。ロアはそれに頷く他なかった。


食卓に温かい朝食が並べられる。どれも凝っていて美味しそうだ。


「朝ご飯にしましょう」


エルミィがそう呼びかける。各々それに反応し、席につく。


そんな当たり前のような、光景、時から一日が始まる。



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