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2/27加筆
心地よい微睡みに永遠に浸っていたいとさえ思える。けれど、無情にも意識は浮上し、渋々微睡みを手放した。
目を開けば同じ光景。ここは夢の夢なのか。そんな妄想が過る。慌てて体を起こせば、あの時と違い痛みは引いていた。
どれ程寝たのか、それが気になった。その部屋に時計はなく正確な時間がわからない。窓は暗い色のカーテンにより、外からの光は遮断されている。そのせいでそこから推し量ることすらままならない。
八方塞がりだった。一縷の望みを託すように体内時計にすがれば、わからないと曖昧な答えにならない返答しか寄越さない。
自分のおかれている状況を一切把握できてない事実に憂鬱になりながら、額に手をあてて短く息を吐いた。
独りでに扉が開かれた。突然起きた独りでにおきるはずのない事象にびくりと体を震わせる。
来た。乾いた呟きが漏れた。
「あぁ起きてたのか」
低い声が耳に届いた。それは男のもので、少女はそっと身構えた。恐怖に屈さぬように純白のシーツを強く握りしめた。
「そんなに身構えなくてもいい。別に取って食べたりなんかしないから」
努めて優しく言う男は少女を警戒させぬように、亀のような足取りで寝具へ近づく。元々扉から距離はない。普通に歩けば数秒もかからない。程なくして足音が窓際で止まった。少女は怪訝な視線を男に向けた。
「おはよう。体の調子は?」
「わからないです。けど、多分大丈夫だと思います」
「そうか、それなら良かった」
男は心底安堵した声色で呟いた。その声に驚き瞬いていると、勢いよくカーテンが開かれた。まばゆい陽光に目が眩む。視界がフラッシュアウトする。確かに、すぐそばにあるのに、いるのにそこには何もかもが存在していないと思わせる。まるでこの世から隔絶された気さえしてくる。
忙しく瞬いた。何度も瞬く内に掛け値なしの白がほんのり薄まった。濃霧のような白。まだ不十分だが、微かに男のシルエットが見てとれた。その影は異様に大きく見えた。
寝具が軋み、大きく揺れた。ようやく回復した瞳で捉えたのは、いつの間にか至近距離まで接近した男の姿。
少女は目を丸くしてただそれを呆然と眺めた。
「じゃあ、とりあえず風呂に入ろうか」
にこやかに言いながら、未だ硬直から回復しない無抵抗な少女を担ぎ上げ、部屋を後にした。
「湯加減はどう?」
浴場の外からそう問いかけられる。気持ちいい。そう返事をしようとするが、今は誰とも話したくない。声を出すのが億劫というわけではなく、ひたすらにこの快楽に愉悦に浸っていたいのだ。
お湯に入ること自体が久しぶり過ぎて、感動で胸が高鳴っている。
あぁ、幸せ。悔いはない。もう死んでも構わない。死ぬ訳ではないが。
こんな幸せな時間が永遠に続いてほしい。そう思った。




