19
短い
石の扉は簡単に開いた。重いと思ってたものは小鳥の羽のように軽かった。悶え苦しむ長身の女性を肩に担ぎながら、地上へと続く、石の螺旋階段を上がる。
女性の艷やかな吐息が聞こえる。時折、消え入る声で何かを呟いている。聞き取れたとしても知らぬ言語で、その意味を推量することができない。しかしそれが正の感情ではないことは察することはできた。カツリカツリと、無気力な足音が湿っぽい空間に響く。
「どうして私を助けるのですか…」
終始黙り込んでいたかと思うと、突然口を開いた。
「さぁ?」
「はあ?」
彼女は呆けた声を出す。間の抜けた声だ。さっきまでもだえ苦しんでいた人とは思えない。
ようやく足が止まる。目の前に、地上と地下を乖離させる扉が佇む。これもまた羽のように軽く、まったく見掛け倒しの重厚そうな扉は音も立てずに開放される。
その向こう側に広がるのは微小な月明かりだけが照らす世界。薄暗い場所を通ってきたからか目がなれていた。
そこは回廊。天井ほどある大窓が並べられた片面から広い中庭を望むことができ、片面は絵画、調度品などが、バカの一つ覚えのようにおざなりに配置がなされている。
取り敢えず回廊に沿って進んで行く。時折、扉がありそこをことごとく横切る。決してそれには入ろうとはしない。
城は静寂に包まれている。だからか、まるで自分が兎になったような気さえする。遠くで立てられた物音を聞き分けることができるのだ。どこで発せられた音なのか、それがどんな音なのか、手に取るようにわかってしまう。
…何か来る。
長い耳で聞き取ったのは、怒濤の勢いでこちらへ接近してくる足音。生憎、耳でその足音の主を把握することはできない。体が強張る。もしこの音の主が兵だったら…。そんな思考が頭を過る。そんなことをしているうちに、足音は近づく。もう突き当りまで来ているようだ。
その事実が恐怖となって押し寄せてくる。大きく息を吸った。丹田に力を込める。
「いた!」
短く発せられた声は聞き覚えのある声だった。