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何か適当な終わり方だから適当に加筆しときまする(.・ิω・ิ)ダラ〰
それは在りし日の記憶。初めてこの世の理を教えられた時だった。
「神は不平等を嫌う。何か恩恵を与えれば、逆にそれに見合った代償を与える。それは大小違いがあるが大まかには変わらない。つまり等価交換だ。お金を渡せば何かが買えるように、恩恵を買えば代償を支払われなければならない。それがこの世の真理。この世のルールだ」
そう、彼は言う。ならもし、その恩恵を望まぬ者がそれを得たとしたら。神が気まぐれで恩恵を渡したとしたならば。それは、身に覚えのない、莫大な借金を支払わせられているのと同意義ではないのかと、口に出した。
「そうだね。その通りだ。君の言ってることは間違っていない。神は君達を勝手に生み出し、自分勝手な理由で恩恵を渡す。君達がどんな人生を送るかなんて考えてない。ただ考えるのは自らの暮らしと、この世界の安寧のみ。どうだい?辟易したかい?」
首を横に振った。それが普通だ。そう言った。誰しも自分勝手になる。自分が生きるためなら喜んで人を殺すだろう。つまりはそういう事だ。
それに、神が考えなしに与えるはずがない。何か必要であるからそれは託された。そう考えている。
その言葉を聞いて、彼は満足そうに微笑んだ。
「君はかなり聡明のようだ。じゃあ、そんな君に質問していいかな?」
頷く。どの様な質問が来るのだろうか。生唾を飲み込む。
「君はその恩恵をどの様に使う?」
恩恵。何度も話に出ているが、いまいちピンと来ない。まず自分の恩恵が何かも理解していない。
それを踏まえて、わからない。そう言った。彼はそれを見透かしていたかのように笑った。
「まぁ最初はそれでいい。その力もまだどんなものか、わかってないようだからね。だけど、これだけは約束してくれ」
そこで紙芝居の様に続いた過去が、突然終わりを迎えた。
目が覚めた。
カーテンの隙間から微かに覗く外は、暗く陰っている。あぁ夜か。
ある程度、疲れがとれた体を起こす。また完全とは言えないが不完全と言うほどでもない。程よい疲労感が体に残っている。
今は何時だろうか。生憎この部屋にも、自分も時計は持ち合わせていない。しかしまぁ、夕飯の時間になれば呼びに来るはずだ。
だが、早く行っても向こうは困りはしないと思う。ただ自分が暇になるだけだ。
ベッドから身を下ろす。立った瞬間、立ち眩みはしたものの、普段通りの体調まで回復していた。こんな事に代償が役立つとは思いもしなかった。
代償は何種類もある。その多くが肢体、器官の欠損や虚弱体質による。その中でも自分は特殊で、一言で言うなら不老不死。これが神から与えられた代償だ。
明確には不老不死ではないのだが、ほぼ変わらないだろう。自分の死に、他者からの介入、または予想しない死は一切無効とする。つまり、もし誰かに恨まれ、心臓を一突きされて、どれだけ血液が出ようとも激痛を伴うが死ぬ事はできない。
逆に、自分の寿命が訪れるとぽっくり死ぬ。
先程の代償が役立ったとは、本来体内にある魔力を使うと人は極度の疲労で最悪死に至ることがある。チカゲも同じように、体内の魔力をすべて使った。しかし代償が死なせまいと働いた結果、驚異的な速度で回復し、命に別状はなかった。つまりその代償を逆手に取ったというわけだ。
扉を開け、直ぐそこのリビングに入った。いい匂いが鼻孔を刺激する。
「あれ?もう起きたんですか?」
「あぁ、早めに目が覚めて暇だったから」
不思議そうに見つめてくるエルミィを尻目に、椅子に腰を下ろす。気を利かせてくれたのか、コップ一杯の水を持ってきてくれた。
「ありがとう」
と、礼を言うとコップを仰ぐ。冷えた液体が喉を潤す。空になったコップをテーブルに置く。コップをもっと奥にやると、チカゲはその若干濡れている、空いたスペースに突っ伏する。
静かな空間。聞こえるのは呼吸音と調理音だけ。
「なぁ、エル」
穏やかな湖の水面に、石を投げ込んだ。調理に集中していたエルミィも反応する。
「なんですか?」
「俺達がさ、この世界に、この恩恵と代償を持って存在する理由って何なのかな?」
「さぁ?」
彼女のその一言に吹き出しそうになる。だが、彼女はふざけた様子ではなかった。
「私のような何かが足りない人の為に貴方がいる。それでいいじゃないですか。難しい事考えるだけ無駄ですよ」
そうなのかも知れない。あぁ、余計なこと考えるから頭の中がグチャグチャになってきた。
「そろそろ出来上がるので食器の用意をしてもらってもいいですか?」
「あぁ、分かった」
グチャグチャな頭の中を整理しようと立ち上がる。そして、キッチンに向かい、きれいに磨かれた食器を手に取り運ぶ。前と比べて一つ多いその食器を眺めながら、テーブルに並べていく。
ノック音が聞こえた。次いで聞こえた声。
「私だけど開けてもいいかな?」
この家の主レンオアムの声だった。ロアはベッドから体を起こし、扉を開ける。彼が部屋を訪ねるのは初めてで驚いた。
「どうかしましたか?」
「そろそろ夕餉の準備が終わるから呼びに来たんだ」
あぁ、もうそんな時間か。時が経つのは早い。
ちょうど図ったかのかと、疑いたくなるタイミングで腹がなった。その間抜けな音に、レンオアムは笑い、ロアは顔を真っ赤に染めて羞恥に悶える。
「君のお腹がそう言ってることだし、早く行こうか」
恥ずかしさのあまり俯く。そして微かな声ではいと答えた。
彼は歩き始めた。ロアもそれについていく。
リビングに入ると、いつにも増して豪勢な食事が出迎えた。一つ多い席と食器。その席にはもう人がいて、今か今かと食事が始まるのを待っている。
その人がふり返る。
「早く座って飯食おう。腹と背中がくっつきそうなんだわ」
目があった。吃驚して、目線を切るために、慌ててレンオアムの後ろに隠れる。ちょうどいい物陰がレンオアムの後ろだけだったのだ。
「君が…」
それが自身に発せられた言葉だと理解する。何だろう。何か意味深に言いかけた、その言葉に興味が湧いた。しかしそれに継いだ声は「何もない」だった。
移動する。レンオアムは席に座るように促す。ロアの意をくんでか、なるべく遠い場所の席を引いた。そこに座って唇を噛む。
暫くして食事が始まった。いつも通り、無言で時は過ぎていく。
豪勢な食事だったのに味は全くしなかった。