【第九話】初めての生存者
早速部屋に戻って着替えた僕は少し早いので久々にノートに色々と書き込むことにした。
今日は書くことがたくさんある。あの変身?進化したゾンビのことやゾンビ(死体)が消えること。
取り敢えずノートにそれらを埋めていく。進化ゾンビも首から上を破壊すれば死ぬことなど。下手くそな絵を着けながら詳しい特徴とか、そうなる兆候など。
それからステータスだ。
僕は悩みつつもそれを書き込んでいく。
ステータス
【攻撃力】10
【防御力】3
【速さ 】10
【技量 】10
【体力 】10
スキル
【シャベル術】10
【鉤縄術 】5
【逃走術 】10
【バーサーカー】1
と、こんな感じだ。
これを書き始めたときはゾンビ相手に無双とか無理無理、と思っていたのに・・・僅か数日で無双してしまった。
防御力が極端に低いのは単純に分からないからだ。
というか、ゾンビさんの攻撃は基本的に一撃必感染。攻撃を食らったら漏れなく動く死体の仲間入りだ。
試そうとも思えない。
自分的には少し筋肉もついたと思うので最初の頃よりは上がっていると思いたいけど。
あと、鉤縄が5というのは五階より高いところに上ったことがないからだ。
あと、スキルに付け足したバーサーカーはあれだ。漢字で書くと【発狂戦士】。まさしく僕のことだろう。レベルが1なのは発狂しても対して強くならないから。という、逆に窮地になる。
僕はネズミではないのだからそんなに沢山窮地になっても猫は噛めない。
相手はゾンビだけど。噛んだら逆に感染してしまうよ。
さてはて、パタンとノートを閉じると僕は部屋の隅に置いたリュックへと視線を向けた。
簡単な着替えと水、食料、タオル、折り畳み式シャベル、鉤縄予備(自作)を入れてある。
それを背負い、今度は視線を窓の向こうへと向けた。
終わってしまった世界。いや、もしかすれば僕がそう思っているだけで、案外人は沢山生きているかもしれないけど。
まあ、目視で生きた人間を見たことは一度も無いけど。
「それじゃ・・・行くか」
僕は壁に立て掛けていた相棒エクスカリバー(シャベル)を肩に担ぎ外へと向かった。
ーーーーーー
僕の学校はちょっとした坂の上にできていて自転車通学の生徒には登校がキツいと不評だ。
因みに僕自身が自転車通学の不評だったけど、今はその不評が良い方向に働いたのかもしれない。
というのもなんだが、坂道を降りているいまあんまりゾンビに会わない。
ゾンビさんも坂道を登るのは疲れるのだろう。
ま、直ぐに坂道も終わる。終わったらどうなるのだろうか・・・。
やっぱ、あれかなぁ、・・・ゾンビの群れとか・・・。と思っていたが、坂を降りてみてもゾンビは疎ら。
壁に隠れて様子を窺うが目に見えるところには10体前後しかいない。
もっといるものだと思ったけど。
取り敢えず僕は鉤縄を投げて建物の屋上に登り辺りを見回してみた。やっぱり思ったより数は少なかった。20体くらいしかいない。
それぞれが単体か二、三体のゾンビだ。
これなら殺ってしまった方が速いか。
というわけで、僕は屋上から降り道を歩く。
歩いて、ゾンビ発見。ゾンビがこちらに気づく前に頭をスパン。
ゾンビさんのバタリ。
歩いて、ゾンビ発見。ゾンビがこちらに気づく前に頭をスパン。
ゾンビさんのバタリ。
歩いて、ゾンビ発見。ゾンビがこちらに気づく前に頭をスパン。
ゾンビさんのバタリ。
歩いて、ゾンビ発見。ゾンビがこちらに気づく前に頭をスパン。
ゾンビさんのバタリ。
その繰り返しだ。まれにゾンビに気付かれても襲いかかってきたゾンビの足を蹴り上げ転ばせて頭をズブリ。
それだけだ。二体、三体いても変わらない。
僕の散策は順調そうだ。
そうして一時間ほどで歩くと少し先のデパートにゾンビが貯まっているのが見えた。
三階建てで、屋上は駐車場になっている。
シャッターが降りきり、そのシャッターをカリカリと引っ掻くゾンビ。
デパート全体的を囲むようにゾンビさんたちがいるのでちょっとしたホラー?パニック映画みたいだ。
この前借りたゾンビ映画にこんなシーンがあったはず。
にしても、だ。
ゾンビの数が異常。
パッと見、何体かはわからなが百や二百じゃ済まない数だろう。もしかすれば1000体くらいいるのかもしれない。
流石の僕も1000体相手に無双は無謀だ。
途中で力尽きそうだ。というか、倒し終わる前に発狂して終わりそうだ。
でも、このゾンビのこの行動。僕が見た映画の知識からすればここには生きた人間が少なからずいる。
この終わった世界で生きた人間が。
・・・会ってみたい。会いたい。そう思う気持ちと、会うのが怖い。という恐怖も同時にある。
もしあって、それでどうすればいい?
中にいる人がいい人なら良いかもしれないが、悪い人なら、あった瞬間に殺されるとか僕のすべてを奪われるとか。
こんな終わった世界だ。世紀末みたいなモヒカンして釘バットもって人から物や命を奪う人がいても可笑しくはない。
そうなったら、僕はどうすれば良いのだろうか。
正直、いまの僕ならそれ相手から逃げられる、と思う。ただ、絶対じゃない。そうなったとき・・・たぶん、僕は、・・・その人たちを“ヤ”るだろう。
そうして愛でたく発狂だ。
暴れまわってまた窮地になるのだ。そして目が覚めれば、1000体のゾンビに囲まれるのだ、たぶん。
・・・・・・いい人、でも同じか。
もし中にいる人がいい人で、僕はどうすれば良いのか。
助ける?どうやって?
いまの僕の生活状況は結構マシだ。
食料とかもあるしゾンビもどうにかなるし、十分に生きていける。
だけど、それは僕一人だからだ。
人が集まればそれだけ早く食料はなくなる。二人いれば二倍。三人いれば三倍でなくなるのだ。
それに、人が集まれば争いが生まれる。
こんな世の中だ。皆ストレスを溜め込んでいるだろう。ストレスを溜め込んだまま生活を続ければ絶対にいつか爆発する。
そうなったとき、やっぱりどうすれば良いかわからない。
映画なんかじゃそれはバットエンドの始まりだ。
「・・・・取り敢えず、様子見、だけはするか」
中に本当に人がいるのか、いないのか。
どれくらいいるのか、モヒカンはいるのかいないのか。
「さてはて、そうなればどこか高い建物は、と」
僕は取り敢えずあのデパートの屋上に上ろうと考えるのでした。
デパートの隣の建物の屋上に登る。
ゾンビさんがすぐそこにたくさんいるのでできるだけ静かに。
そうして気付かれずに登り終えそこから予備の鉤縄をデパートの屋上に向けて投げうまいこと手すりに引っ掻ける。
「本当にうまくなったもんだ」
・・・一回でできたからいいけど、これ、失敗したらゾンビたちに気付かれるよな・・・。
「うん、気にしない方向で」
そうして縄を引っ掻けてしまえばそれをこちらの屋上に結びつければあれ簡単。この縄を伝っていけばあっという間にデパートの屋上だ。
綱渡り、別段綱の上を歩いて渡るつもりも技術もないのでぶら下がってえっさらほいらさと芋虫のように進んでいく。
下にはゾンビさんがたくさんいる。落ちたら集団リンチだなぁ、と考えるも、それ以前に落ちたら死ぬわな。
二十分ほどかけて屋上に到達。幸いなことに屋上は無人。
見張りの人、もしくはゾンビの一、二体はいるかと思ったけど拍子抜けだ。
僕の目的は様子見なので、誰かに気付かれる訳には行かない。
ここまで来てなんだが、どうやって様子を探ろうか?
取り敢えず屋上から下に行くドアに触れるが案の定鍵がかかっている。
壊せば入れないこともないが、壊したら使えなくなる。それは不味いし他の案を考えなくてはならない。
というわけで、僕は屋上に鉤縄を引っ掻け、建物の側面を歩くわけですはい。
適当に歩き、窓があったら様子見で開いていたら入る。
そんな感じで歩き回っていると大きなガラス張りのスペースがあった。
ここは、食堂というか食事コーナーだった。
こうなる前は友達と良く来ていたものだ。
たこ焼きが絶品だったのだ。
・・・
そんなわけで僕はこっそりと外から中を覗く。
と、案外あっさり人を発見。
男の二人組。
手にはパイプの様なものを持っていて、体にも防具らしき物を着込んでいる。
声は聞こえないが二人は世話しなく動いていてバックに荷物を詰め込んでいる。
中の声は聞こえないからどういう状況か分からないけど・・・見た感じ安全な状況では無さそうだ。
と、じっくり見ていると変化があった。奥の方の扉からゾンビさんが二体ほど現れたのだ。
「うわぁぁぁぁッ!?」
と叫ぶ声が窓の外のここまで聞こえる。
叫ばなかった一人は直ぐにパイプを構えて怯えた男を叱咤し荷物を持たせる。
ゾンビはバカみたいにのそのそと歩き二人の男を襲うのだが、いくらなんでも遅すぎやしないか?
僕を襲ってきたゾンビさんはもっとバカみたいに速かったよ?遅かったのなんて初めの三日くらいまでだったよ?
それからは駆け足くらいになって、そのうち小走り、最後にはダッシュだよ、ダッシュ。
いや、まぁ、最後の方はダッシュしてきたゾンビの首目掛けてそのままシャベルを横殴りで首狩りしてたけど。
兎に角、そんなゾンビから男二人は逃げるようにして・・・いや、まぁそのまま逃げて行った。
・・・建物の中も安全ではないのか。
外にあれだけいたから中は入ってきていないものだと思ったけど・・・。
もしくは、もっと初期。この中で感染したゾンビをまだ倒しきれてないのか。
まあ、これだけ広いところだ。感染者も大勢いたのだろう。
それと、たぶん、あの二人の男はここに食料を取りに来た調達部隊か何か、だと思う。
さて、これだけわかっただけでも幾らか推測できる。
たぶん、このデパートもそう多くの人が生き残っている訳ではないのだろう。
食料を調達しに来たのが二人だけだ。というより、二人だけの調達で、どうにかなる人数なのだろう。
そう考えると、十人か、二十人は行かないだろう。
僕はどうするか、と考え、取り敢えずどこか窓が開かないか探すのだった。