【第四話】NOセーブNOロード
昨日から始めた綱登りだが、あのあと何時間もぶっ続けで練習したせいで手のひらがヤバい。握力もヤバく全然力が入らない。
これではシャベルが握れない。
ということで、今日は拠点としている四階の教室で一日過ごそうと思う。
まあ、でも練習の甲斐あって二階に上がるくらいはできるようになった。
本当に最低限の力量を得たことから少しだけ満足していたりもする。
もっとも、これだけ手を痛めて成果が何もなかったら死にたくなる。
さてさて、そんなこんなで今日何をするか、ということである。
僕が今日しようと思ったことはちょっと前から考えていたことだ。
僕は適当にロッカーから見付けてきた新品だと思われるノートと筆入れを取り出す。
なに、別に勉強をしようという訳じゃない。いや、ある意味では勉強にもなるかもしれないけど。
僕がするのは対ゾンビマニュアルを製作することだ。
ゾンビの行動とか動きとか弱点とか。
生きていく上で必要な技量やテンション。やってはいけないこと。特に、木製のシャベルは使い続けると脆くなるとか、奇声を上げなら乱舞すると死にかけるとか、忘れ物は命に関わるとか。
あとは、これからどうすればよいか、という行動基準を決めよう。
僕はすらすらとノートにゾンビ情報を書いていく。学校の勉強と違って、実体験がある分文章に説得力がでる。
それと、食料についてもこれから問題になるだろうから触れておこう。
因にだが、今は緊急時用の避難食を食べて生活している。もともと百人分×一週間はあるため、水も食料も大分問題ない。
ただ、これだっていつまでも持つものじゃない。
今さらにして思うと、三食おかわり有りのおやつ付きで生活していたから物凄いペースで非常食が消えていく。
もう少し準備が整ったらやはり“外”に出ないといけないだろう。
そういった物をノート数ページにまとめて、今度も新しいノートを取り出す。
僕はその二ページ目から書き始める。
これはこのページだけで足りるだろう。
僕はノートにこう走らせた。
『白沢 朝日=ステータス表』だ。
ここ数日、ゾンビを倒しながら色々と考えていた。
ゾンビを倒す自体はそれほど苦ではない。
だけどこれは体力的な問題の方だ。そりゃ疲れるし筋肉痛にもなるけど。
だけど、問題は精神的な方だ。僕は結構客観的に自分を見れる方だと思うけど、そろそろ危ないんじゃないだろうかと考えていた。
というのも、今はゾンビ=モンスターと思い込むようにしているが、たくさんのゾンビを倒すうちには人の形をかなり保っている個体もいた。
そういった個体を倒すのはひどく心に負担がかかるのと同時に僕の思い込みを揺るがしていく。
それに、いままでに五体ほど。
知り合いのゾンビにもあった。
正直、発狂して奇声あげてなかったら精神狂ってたかも。
いや、発狂して奇声あげてる時点で精神狂ってるだろ、と言えるかもしれないが。それはあれだ。ストレス発散的なやつ。上手いガス抜きのようなものだ。
いくらこの終わってしまったような世界だろうと今の僕に人を殺して全然平気♪という馬鹿げた精神はない。
だから、ゾンビ=モンスターと思い込んだように、もうひとつ、そういった自分を守るための防衛線を作ろうと思った訳だ。
それがこれ、『ステータス表』という訳。
僕はそこにざっと項目を書いていく。
在り来たりに、【攻撃力】【防御力】【速さ】【技量】【体力】。
あとは『スキル』と書いて、【シャベル術】【鉤縄術】【逃走術】と書いた。
そして僕はそこに1から10までの数字を書き入れていく。
ステータス
【攻撃力】3
【防御力】2
【速さ 】2
【技量 】2
【体力 】3
スキル
【シャベル術】3
【鉤縄術 】2
【逃走術 】3
この数字は所謂レベルだ。
レベルの基準はもともと(ゾンビパニック以前)の体力や攻撃力などからどれくらい上がっているかなぁと考えていたアバウトに出したものだ。
僕的にはレベルがオール10になったらゾンビ相手に無双ができるようになる目安。
それから『スキル』だけど、これも適当だ。
シャベル術とかなにそれ、と思ったけど、剣でも斧でも槍でもない。他に例えようもないのでそのままシャベル術と書いた。
鉤縄レベルが2なのは、いまは二階までしか上がれないからだ。三階まで上れたら3、四階なら4、となっていく予定だ。
そして最後に逃走術だけど。
これは速さや体力、鉤縄術など複数を含む統計型のスキルなのだ。
一つ一つの値が上がると平均して上がっていく。
僕はそれを書き終え、なんとなく満足した気分になりながらノートを閉じた。
さてはて、自分というキャラクターを成長させる。
まるでゲームみたいだ。というか、そうしたんだけど。
NOセーブNOロード。止まることもやり直すこともできない。
本物のデスゲームだけども。
これも僕の心を保つ防壁。
まぁ、あれだ。現代を生きる若者らしく、
現実とゲームを混同させようじゃないか。




