【第三十三話】終わり
屋上から自身で壊した穴を降り走る。
切り離された尻尾がどんな力を持っているのか分からないが、アイツの言い方からしてハルたちをどうこうするだけの力を持っているはず。
急がないと不味い。
ハルたちがどこまで逃げたか。
四階と三階を繋ぐバリケードはもう無いからそこから下に行ったかもしれない。
僕は階段を降りるのさえ惜しく、直下に居ないかだけ音を聴き確かめ、足元をシャベルで破壊して降りる。
降りて見回す。いない。
音を聴き、足元を破壊。
そして降りてやはりいない。
一階か、もしくは外に出てしまったのか。
そう思い視線を窓へと、外に向けると正しくそこにハルがいた。
七海ちゃんの手を掴み、必死に逃げている。
二人の後ろからは不気味な肉の塊がうねうねと這うように二人に迫っている。
僕は窓を蹴破り、そのまま外へ向かって飛び降りた。
まだ校庭を走るハルたちとの距離はある。
色々規格外な存在になった僕だけど、足はあまり早くない。
瞬間瞬間の移動は速いけど、距離を稼ぐ移動は他の身体的ステータスに比べて低い。
だから一瞬で彼女たちのもとにたどり着くことは出来ない。
だけど、と。僕は視線をハルたちを追う蠢く肉の塊へ向ける。
距離はある。でも、届く距離だ。
僕は手に握りしめたシャベルを引き絞った。
投擲。剛ーーッと風を突き抜ける音とともにシャベルは正しく一筋の矢となり蠢く肉の塊を貫き地面へと縫い付けた。
「ーーーーーーふぅ」
バダバタと暴れる肉の塊も次第に動きが鈍くなり完全に止まった。僕はそれを確認してからシャベルを引く抜く。
少し先にいてこちらの様子を見ていたハルたちの元に歩く。
「ぺんちゃんっ」
「ハル、無事?」
近付くと小走りで駆け寄ってくる。僕は彼女の爪先から頭にかけて見るが怪我らしい怪我はしていないようだ。
・・・・決して、服の破けた上半身を見ていたわけではない。下のブラが見えた瞬間思わず脳裏でガッツポーズしてたけど、それは仕方がないことだ。
「わ、私よりぺんちゃんは大丈夫なのっ!?凄くボロボロだよっ」
「あーーー、まあ、大丈夫と言えば大丈夫だけど」
僕の見た目は、ゾンビ無双でボロボロもいいところだ。顔だって血の後が結構ついているし、学ランも裂けてシャツだけで。そのシャツも血でべっとり。
端から見ればどちらが怪我人かなど一目瞭然だ。
「そう言えばさっきのあの肉の塊ってなんだったの?」
「あれは、屋上のアイツの放ったモノだったみだいだよ」
「そう・・・前橋くんの」
前橋、たしかアイツの名前か。僕にとってはただの敵でしかなかったけど、彼女や和也たちにとっては数日間とは言え共に生き延びた仲間だったわけだ。
それがあんな変貌を遂げればくるものがあるだろう。
あれがどうやってあれだけの力を手にいれたのか、未だに分からないけど、取り敢えずは決着のついたことだ。
ゾンビもこの辺りの敵はだいたい滅ぼした。
例えいたとしても変異体程度なら瞬殺だ。
全部、とは言えないが、終わったのだ。
「ぺんちゃん?」
「ん、どうかした」
「その腕、大丈夫なの?」
ハルが僕の腕を見ながら問う。僕の左腕は布がグルグルに巻かれている状態で、ぱっと見、一番怪我をしているように見えるのだ。
僕はそっと左腕を体の後ろに隠すように向きを変え、「大丈夫だよ」と笑って誤魔化す。
「それより、これからどうしようか」
「そう、だね。これから・・・」
ハルと七海ちゃんが不安げな顔をしてうつ向く。僕は視線を校舎へと向けた。
ーーーーーー和也は・・・いや。
僕は無言で目を閉じた。たぶんもう、亡くなっているだろう。あの出血量に、あの怪我だ。
彼と彼女はーーーーーーハルたちを安全な場所に移したあとに、どこかに埋葬しよう。
あのまま放っておくことも出来ない。
取り敢えずはハルと七海ちゃんは僕の家(学校)に来てもらって、
「ハル、七海ちゃん、取り敢えず僕の家にーーーーーーえ」
二人の方へと振り返り僕は見た。
ハルと七海ちゃん、二人が並んで立っている。
その真後ろに大きく口を開けた蠢く肉の塊いた。
僕は咄嗟にシャベルを投げようとするが僕の真後ろにも気配を感じ、振り向かずにシャベルで一閃した。確かに肉を裂く感触。仕留めた。
時間にして一秒かからない程度、だけどーーー
この一秒が、時に運命を変えるのだった。
大きく口を開いた肉の塊は、そのままハルと七海ちゃんを頭から飲み込むとーーーーーーーーーーーーバボリッと噛み潰した。
「ーーーーーーーーーーーーーーーーーーは」
それは悲鳴すら上げる暇もなく、何が起こったのか知る時間すらなくーーーーーー
二人を殺したのだった。




