【第三十話】炎の戦い
崩れ落ちる巨大鉄ゾンビの死骸から何とか脱出し、僕はふぅ、と息をつく。
そして、僕は少し先にいる最後のゾンビを見つめた。
ゾンビ、というと、既に色々違うけど、・・・アンデット系だよね。
炎の化身になったゾンビ。
巨大鉄ゾンビとの戦いで一切動かなかった。それがひどく不気味で仕方がなかった。
もっとも、この炎の化身にも動かれていたら僕は既に死んでいただろうけど。
僕は新しいシャベルを地面から探しだしそれを強く握る。
「最後の・・・一体だ」
こいつで最後。千以上のゾンビ。体感的に無限に感じたあのゾンビの最後の一体だ。
こいつを倒せば・・・おっぱいだ。
・・・いや、違った。違くないけど違くて、
こいつを倒せば終るのだ。この長かった戦いが。
それだけに僕のやる気は全快だった。
炎の化身も巨大鉄ゾンビが倒された今となっては静観は止めたらしい。
その視線が僕を捉えたのがわかった。
炎の化身はその姿こそ恐ろしいが、大きさも威圧感も巨大鉄ゾンビほどではない。
だから、か。僕は手強いだろうが倒せなくはない、そう考えていた。
「なんて、思ってた自分がいました」
ほんの数分前の僕に告げたい。
「こいつは・・・あかんやつだ」
僕の周りは火の海だった。
熱い。ここ最近は火を使わなかったが、僕に取って火とは熱いという認識ではなかった。
いや、ちゃんと熱いと知っているし火傷するとも分かっている。
でも、普通に生活していて火に触れることなんて稀だ。料理に使っていてもその熱は感じるが実際に触れるわけでもない。
それこそ、火そのものの恐ろしさを知っているのは消防やレスキューなど限られた人だけだと思うんだ。
漫画なんかだと炎を食らって平然としていたり熱さを感じていなかったり。
そんな漫画を読んでいる僕も火はそれほどでもないと考えてしまうわけで・・・。
さっきの炎ゾンビも火を纏っていたけど、それは身体の一部だった。
それが、この炎の化身はちょっと可笑しかった。
いざ戦おう、そう思って先手必勝と即座に首を落とした僕。
あれ?勝った?そう思った瞬間、炎の化身の身体が炎となって消えた。
そして、辺り一面が火の海となっていた。
「これは・・・どう対処すりゃいいんだよ」
一部的な炎を消すのは問題ない。シャベルで砂をかけるなり風圧で消すなり。だけど、この辺り一面というのは無理だ。
「あ・・・あぁ、そうか」
関係ないことだが、一つわかった。
何故この炎の化身が先程まで動かなかったのか。
「こいつが動いたら同族も巻き込むからか」
ゾンビに味方意識があるのかは別として。
こいつがいまのように火の海を作れば通常ゾンビや柔い変異体はそれだけで全滅だ。
もっとも、こいつ自身が生まれたのはついさっきたからそんなことは起こらなかったが。
僕は身に降りかかる炎をシャベルの風圧で吹き飛ばしながら打開策を考えるがなかなか見つからない。そもそも、この炎だけでなく、炎の化身がヤバいのだ。
だって、あいつ、頭落としても死なないのだ。
俗にいう精霊とか悪霊とかそんな奴なのだろう。
生きて動くゾンビな炎。意味わかんないけど実際にそんな存在がいる。
だが、以外と漫画やアニメではポピュラーな存在だ。
ファンタジーな話なら大抵一回は出てくる。
だから倒しかたも分かる。ああいう物理が効かない敵には魔法攻撃で戦うのだ。相手は炎だし水とか氷がいいだろう。
「・・・・・・まあ、僕魔法使えないけど」
最近人間止めてきた僕だけど魔法には目覚めませんでした。
ちなみに、こういった物理が効かない敵に対し効果的な魔法がない場合ほぼ負けるというのがセオリーだ。
酷いゲームだといくら剣で斬ってもダメージ0。
もしくはダメージは入るけど途中で戦闘が途切れて負けてもいないのに負けイベント。
僕の場合は前者になりそうだ。
斬っても殴っても効果がない相手にどう対応すれば良いのかがわからない。
貯水地やプールなどが近くにあればそこに落としてみるのも手だけど、僕はこの辺りの貯水地が何処にあるのか知らないし、プールのある学校はハルたちのいる学校くらいしか知らない。
そうなるとこの手も使えない。
僕は悩みながらも自身に迫る炎を的確に捌いていく。思考の並列処理にも慣れたものだ。
いくら炎をぶつけても倒れない僕に苛立ちを覚えたのか、消えた炎の化身が再び姿を現した。
僕はそこに向かってシャベルで瓦礫を撃ち込んでみるがやっぱり効果なし。
流石にこれはイライラが募る。
いままでの敵は固かったり早かったりしたけど、殴ればその感触があったし手応えもあった。それが無いだけで随分とテンションが変わる。
僕はイライラに任せて炎の化身に思いっきりの破壊衝動を乗せた怒気をぶつけてみた。まあ、所謂睨み付ける攻撃だ。ガン付けとか、アニメや漫画でいう殺気を飛ばす、というに近いかもしれない。
イライラをぶつけた。それくらいのつもりだったのだが、
『グギュッーー!?』
というヘンテコな悲鳴が聞こえて、炎の化身が苦しんでいた。
「え、え?・・・効いて、る?」
試しにもう一度怒気をぶつけてみたら再び『グガガァッ!?』という悲鳴が響いた。
「・・・・・・」
自然と首の端がつり上がるのを感じた。
つまり、そうか。
物理が効かない敵には精神的な攻撃をすればいいのか。
人だって驚いたりして心臓麻痺する人がいるのだ。
つまるところぼくはあの炎の化身を心臓麻痺にさせればいいのだろう。
もっとも、炎の化身に心臓があるのかはわからないが。
やり方さえ分かればあとは行うだけ。
僕はこれまでの怒りや憎しみを全部全部全部思い出し、それを眼力に込め思い切りに叩きつける。怒気というより既に殺気になっているそれを炎の化身は堪らず避けようとするが、僕がそれを許すはずもない。
視線から逃げようとする方向へ回り込み真っ直ぐに殺気をぶつける。さっきみたいな悲鳴は上げないが目に見えて弱っている。
それに加え、弱った炎の化身はもとの人の形を取り始めた。
・・・これなら殴れるんじゃ?
そう考えた僕は一瞬で炎の化身に肉薄しシャベルを振るった。
ザンッーーーーーーと肉を裂く感触があった。
それとともに飛び散る血。
首を狙ったはずだが、どうやら避けられたらしい。だが、斬れた。当たったのだ。
殺気をぶつけながらならシャベルが当たる。
つまり、これでもう“普通”に殺せるということだ。
僕は殺意を乗せながら炎の化身へとさらに斬り込む。
シャベルが肉を裂く感触が確かにあり、僕の考えが間違っていないことを再確認する。
「このまま一気にーーーーーーっ」
『グガッ!!』
殺ろと思った瞬間、炎の化身が破ぜた。
超至近距離からの炎の爆発だ。僕は咄嗟にシャベルを盾にしたが、完全に避けられるものではなかった。高熱、炎、そして爆発の衝撃が僕を襲い吹き飛ばした。
ゴロンゴロゴロと飛んで落ちて転がって、スタッと立ち上がったのだけど、僕の身体は火傷でボロボロだった。
顔や胸はシャベルで防げたが、腕や足は制服も敗れ赤く爛れていた。
「自爆・・・なわけ、ないよな」
ゾンビという化物がそんな簡単な死に方をするとは思えない。
その証拠に周囲の不気味な炎は未だ健在だ。
しばらくして周囲の炎が集まり再び化身の形を取った。
やはり、化物だ。
殺れると思ったらこれだ。
僕は力の入らない手で無理やりシャベルを掴む。
強い。・・・本当に強い。そして恐い。恐ろしくて堪らない。
だけど、・・・僕は負けられない。
負けられない、理由がある。
生きなきゃいけない理由があるのだ。
「そうだ、僕は、僕はお前に勝って」
再び動き出した炎の化身が僕へ向けて炎の波を飛ばす。
僕はそれを一閃のもと吹き飛ばす。
こいつが最後なのだ。
こいつで最後なのだ。
僕はこいつを潰して、
「おっぱいを揉むっ!・・・ハルの」
それであれだ。何だかんだいい感じになってそのままなしくずし的にそのあとまで・・・・・・なんて考えてないよ?え、考えてないよ?まるで考えてないよ?僕今日大人の階段駆け上がるとか全く思ってない。
・・・・・・
、・・・・・・
・・・・・・うそだよ。思ったよ。え゛?悪い?思っちゃ悪いか?あ゛あ゛。
男子高校生の妄想力を舐めるなよ?ハルなんて僕の妄想のなかじゃもうぐちょぐちょのぬちょぬちょさ。
・・・いや、うん。そんな訳で、さて、終わらせようか。
先程からも飛んで来る炎をシャベルの一閃で消し去り僕は奴との距離を縮めていく。
距離が近くなるに連れ、炎の化身の動きが鈍くなる。
僕の殺意のこもった視線を間近見たためか、
一歩、また一歩と近づくに連れ不気味な悲鳴を上げながら唸り苦しむその姿に僕は愉快になり更に強大な殺意を込める。別に、これまでの理不尽の憂さ晴らしをしているわけではない。本当はただの変異体だけが強敵だと思っていたのにより強いのがわんさか出てきて死にそうな目に遭ってキレているわけではない。
そんな訳で僕はちょっと常人が見たら気絶しかねないドス黒イ笑ミを浮かべ炎の化身の目の前に来た。
最後の抵抗を見せるか?そう思ったが、既に僕の殺気で身動きの取れないほどに踞っている。
「・・・終わりだよ」
その一言で、僕はシャベルを降り下ろした。




