【第二十九話】大怪獣決戦
「うがぁぁぁぁぁぁっーーーーー!!」
と駆け出して、ーーーーードスンッという巨大鉄ゾンビの足踏みによる地震で僕は思いっきりずっこけて顔面から瓦礫にダイブしていた。
「ーーーーーぬっ」
スポッと頭を抜ければ良かったのだけと、はまったのが瓦礫だった為、ガシャンッと頭を抜き取り瓦礫の破片で程よく顔は傷だらけた。
にしても、と。
僕は胡座のまま地面に尻を付き、巨大鉄ゾンビを見上げる。
「これは・・・どうすればいいんだ?」
さすがの僕もこれは想定外だった。
ゾンビ映画的な無数のゾンビに襲われるとか、強化ゾンビに襲われるとか、そう言うのはなんのなく考えていた。主にホラー映画的なことだ。
だけど、いまの僕の状況はホラー映画ではなく怪獣映画か、ファンタジー映画だ。
誰かウルトラマン連れてこいよ。もしくはあれだ、巨大ロボ。マジンガー、ガンダム。
これはもうそう言う状況だと僕は思うんだ。
巨大鉄ゾンビの少し離れた横には炎の化身がいるし。ホラー映画は止めにしたらしい。
僕は立ち上がりながらシャベルを担ぎ、どうするかな、と考える。
いままでのゾンビたちなら戦い方の参考があった。それすなわちアニメと漫画だけど、それでも戦い方の参考にはなるのだ。
だけど、と、ぼくは記憶を呼び起こすも検討するものが見つからないのだ。
巨大ロボット相手に生身で戦う話なんて何処かにあったけっ?
取り敢えず、思い付くことはなかった。なかったのなら仕方がない。
「取り敢えず殴るか」
シャベルを右手に構え、僕は身体の余分な力を抜く。
取り敢えず、まずは一発。
殴ってみないと始まらない。
殴って、・・・殴ってどうにかなるのかなぁ・・・あの大きさは・・・。
殴る前から不安になる。
僕は小さく深呼吸をし、意識を切り替える。不安も恐怖も戸惑いも、いまは全部置いておく。
やるべきことを一つに絞り、それに全力を注ぐ。そうしないとあらゆる面であれに勝てない。
僕は腰を落とし、姿勢を低くする。
炎の化身は動かない。
それだけは確認し、あとは視界から外した。
鉄ゾンビも炎ゾンビも視界からは消え、在るのは巨大鉄ゾンビとそこへ行くための道だけだ。
そして僕は走った。
走りながら瓦礫を足場に、少しずつ高さを上げていく。
あれだけの巨体の、足の先だけ攻撃しても意味がない。
ならば攻撃はできるだけ致命的な場所へ。
僕が目指すのは首。
殴る、いや、斬る。
どうやら速さだけは僕の方が上のようだ。
先ほどから僕に気が付いた巨大鉄ゾンビがそこら辺の瓦礫を投げつけてくるけど、当たる気がしない。
僕は加速をさらに上げ最後の瓦礫を蹴って跳ぶ。
跳んだ先は巨大鉄ゾンビの膝。いきなり首まで跳ぶなんて無理。僕は腰に手を回し、鉤縄をつかみそれを投げる。
鉤縄は上手く首辺りの凹凸に引っ掛かり、僕は縄を掴んで全力で巨大鉄ゾンビの身体を駆け登る。
僕が登っているのに気が付いた巨大鉄ゾンビが身体を揺するが、もう遅い。
僕は既に首にたどり着きシャベルを構えていた。
全力全壊ーーーーー斬鉄
「秘技っ、シャベル斬りっ」
声に出して思い切り斬り付け、刃が鉄の肉に食い込む。
ーーーーー硬い。
やはり、硬い。だけど、
「あぁぁぁぁッーー!!!」
振り切る。シャベルの刃が鉄の肉を斬り裂いた。それを確かに感じた。
「ーーーーーあ、やべ」
斬り裂いた喜びに一瞬で棒立ちになってから冷静になって、そこで状況を認識した。
そして声に出した瞬間、僕は大型トラックほどもある巨大な拳によって殴り飛ばされていた。
殴られ、虫を払うかのように地面に飛ばされ、瓦礫の山を破壊して地面を抉り、爆風を立てながらやっと止まった僕はまるで屍だった。
バカだ。バカした。バカすぎた。
僕の攻撃、シャベル斬りは確かに巨大鉄ゾンビを斬り裂けた。まぐれでもなくもう一度やれと言われてもできるだろう。
だけど、斬るだけなのだ。
シャベルの刃が当たる場所を。
シャベルの刃もそこまで長くない。精々三十センチ程度。
放りきる勢いなどもあるからもう少し食い込むけど、一メートルはいかない。
つまり、僕のシャベル斬りで切断できるのは精々五十~八十センチ。
長くても一メートルいかないくらいだ。
それなのに、何メートルもある巨大鉄ゾンビの首を一メートルくらい斬っても意味がない。
まだ殴った方が衝撃を伝えられた分、効いたかもしれない。
まるでただの屍のように、なっていたけど、僕はヨロヨロと立ち上がる。
「あーーーーー、やば、・・・ま、じ、ヤバい」
骨がビシボリと軋む。
欲を出しすぎた。
ちょっとここまで上手くいっていたから調子にのり過ぎた。
さっきだって斬るのを選択したのは、あのまま斬ればこう、なんていうか、アニメとかみたいに明らかに刃の長さが足りてないのにそれ以上の太さのモノを斬る、アニメ斬りができると思ってしまったからだ。
今更にしてみれば何故そんなことができると思ったのか・・・。
そもそもあれはどういう理屈なのだ?
斬る瞬間刃が伸びるのか?それとも斬撃を飛ばしているのか?
ああいうのは大抵やり方なんかは説明しないから僕も見よう見真似しかできない。
それで結局できてないのだから笑えない。
もうこれは殴るしかないのか。
・・・いや、そもそも、次もあんなに簡単に近付けさせてくれるか・・・。
遠距離から攻撃できる手段があれば良いのだけど、僕が持っているのは鉤縄とシャベルだけだ。
小石や瓦礫を投げつけても全くもって意味もない。それくらいにデカイ。
遠距離攻撃があればそれをやりつつ、隙を突いて再び突貫。
今度はちゃんと殴る。
もっとも、それができそうにないから、巨大鉄ゾンビの周りを走りながら隙を探すしかないか。
・・・なんて考えたのだけど、ボロボロの身体でどこまでできるか。
・・・いや、あれ?
僕は不思議に思い、身体を見る。
僕の身体はボロボロだ。
これは事実。だけど・・・。
「・・・結構普通に動くな」
クイクイズンズン動かしてみてもそこまで異常もなく、流石に全く支障がない、と言うわけでもないけど、全快の7割くらいなら問題なく動けそうだ。
・・・・・・高さ十メートルちょいのところからトラック並のパンチくらって地面に突っ込んだのに。
「・・・取り敢えず考えない方向で」
人はそれを現実逃避という。うん。現実を逃避しました。
「はぁ・・・・・・それじゃ、逃避しきれない現実の方をどうにかしなくちゃな」
僕は再び巨大鉄ゾンビと向き合った。
見れば僕が斬り裂いた首の傷が消えていた・・・いや、直っていた。
「・・・・・・これも、逃避、できないかなぁ」
できないんだろうなぁ~。
さあ、やろう。と思って走り出そうとしたところで足元に黒い縄みたいなのが落ちていて危うく絡まって転けるところだった。流石に何度も何度も転けて自滅とかはダサい。
僕はその縄を避けようとして、気付いた。これは縄ではなく、電線だ。
近くを見れば倒れた電柱もある。
ゾンビとの戦いで折れたものだろう。断じて僕が斬鉄を練習するので折ったものではない。
「・・・・・・あれ、これもしかすると」
僕は折れた電柱を見て、もしかして、と思い、すぐにそれを検討、そして巨大鉄ゾンビを見上げた。
「・・・いける、か?・・・いや、いけるっ」
できるか、できないか、じゃないのだ。殺るか、殺られるか、なのだ。
殺らなきゃ殺させるのだ。なら殺るしかない。
僕は覚悟を決めた。
ズゴゴーーーーンッ!!
轟音、そして振動、そして大きな衝撃が巨大鉄ゾンビを襲った。
巨大鉄ゾンビは完全に油断していただろう。
僕という存在はこいつにとってとるに足らない羽虫程度の認識だった。
そりゃ、あんだけ簡単にはグーパンチで吹っ飛ばされれば仕方がない。
それでも、近づかせない程度には警戒していたけど、それだけだった。
それが良かった。
僕には遠距離攻撃がないと思い込んでいたのだろう。
ふ、僕もそうだ。僕にも遠距離攻撃はないと思っていた。
だけど、思い返してみれば、あるのだ。
そして、それを実行した僕の攻撃は見事に当たったのだった。
そう、電柱ミサイルが。
僕は倒れた電柱をテコの原理とシャベルを使って軽く浮かせる。
あとは適当な大きさのモノを挟んで巨大鉄ゾンビへ向ける。あとは、打った。シャベルで、野球打ち。
そう、思い返せば僕、岩ゾンビをシャベルで打って炎ゾンビにぶつけようとしてるんだよね。
それと同じだ。いや、あのときは急いでたから上手く当てられなかった分、いまの方がちゃんと打てている。
電柱ミサイルが当たった巨大鉄ゾンビは少し怒ったのか腕を振り上げている。
そして僕は第二段を打ち放った。
スッーーーバンゴンッーーーッ!!
腕をお挙げになって無防備な顔面を電柱ミサイルが衝突する。
『グオッッーーー!?』
少し効いたのか顔を押さえて後ずさった。
「・・・・・・」
きい、た。効いた?え、マジ?
無言だったのはこれがそこまで効くと思ってなかったからだ。せめて威嚇、それくらい。だけど、効いた。
「・・・・・・ふふ」
そう、効いたのだ。
「・・・ふふははふひ」
効いた、ということは、だ。
「ふハは、は、ふ、ファハッーハッハッハッ」
倒せる、ということだ。
僕はきっと笑っていたんだと思う。笑って、地面に落ちている電柱をシャベルで持ち上げでそのまま打っていた。
そこにもはやテコの原理も適当な置きモノもなかった。純粋にシャベルで電柱を掬い上げ、そのまま浮かせ、それを打つ。
そして飛んでいく電柱ミサイル。まるで連射だった。
十秒感覚で飛んでいくミサイル。一発二発三発四発五発六発七発八発九発十発と、次々に打ち込まれる電柱ミサイルを何とか防ごうとするが防御が行き届かず後退する巨大鉄ゾンビ。
僕はそれを見て更に笑い、ゲラゲラ言いながらまだ折れてない電柱をシャベルでへし折りそのまま打ち出していた。
バンゴンッゴンッゴゴッズゴンッズゴゴーッボゴンッバババッボッゴンッバンッババゴンッバゴンバゴンッーーーーー
「ゲーラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラッ!!ヒァッハァーーーーーー!!」
的がデカイから面白いように当たる。
十発二十発と打っていくと流石に弾(電柱)が少なくなってきた。・・・僕は迷わずそこら辺にいた鉄ゾンビを打ちました。はい。見事に飛んで、巨大鉄ゾンビさんにヒビを入れてくれました。ちなみに弾となった鉄ゾンビさんは潰れてました。はい。
そんな感じで完成体と変異体の何体かは電柱ミサイルの弾になって飛んでいった。残りの完成体と変異体は弾になる前にぐちゃりと潰れたので打てなかった。
つまり、残されたゾンビはこの巨大鉄ゾンビと炎の化身ゾンビさんだけとなっていた。
そして、電柱ミサイルがかなりの効果を上げ、巨大鉄ゾンビは満身創痍だった。一番よく効いたのはやっぱり鉄ゾンビだった。鉄ゾンビは弾として最高級だった。鉄ゾンビがあと10体いたら巨大鉄ゾンビを倒せていただろう。
それでと全身ひび割れ動きまで鈍っている巨大鉄ゾンビ。
僕は迷わず走った。
シャベルは無理なミサイル発射のためにボロボロだ。殴れてあと一回。
いまから新しいシャベルを探す時間はない。
僕は巨大鉄ゾンビへと辿り着き、こいつに刺さっている電柱を足場に再び上へと登っていく。
そうして辿り着いたのは首よりも上。頭の上だ。
僕はシャベルを振り上げた。
「今度こそ、終いだ」
斬るんじゃない。殴る。打撃。それも全力の打撃。
イメージは出来ている。こう、殴って、その衝撃で巨大鉄ゾンビが内側からパッーンと弾け跳ぶような、そんなインパクト。
イメージは完璧。僕はイメージの軌道をなぞるように全力の一撃を叩き込んだ。
ズッッッーーーーーーーーーーーードゴンッ
どうなったか、一言でいうと、割れた。
イメージは粉砕だったのだけど、こう、
桃太郎さんの桃から生まれるシーンの桃、みたいに、真っ二つに、割れた。
いや、桃太郎で例えたけど中には何もいないよ。
でも、これだけの巨体が割れ、崩れ落ちる様はなかなかに見応えがあるものだ。
崩れる巨大鉄ゾンビから逃げる苦労さえなければ最高だったけど。
これで残りのゾンビは一体。
炎の化身ゾンビだった。




