【第二十八話】希望をこの手に
倒せない。勝てない。ーーーーーなら、逃げるか?
それも無理だ。
今更になりながら僕は思っていた以上に“ここ”が地獄だと理解した。
正面にいる鋼鉄の変異体、そしていつの間にか後ろにも同じく鋼鉄の変異体。
それだけですら絶望感がヤバいのに、さらに左右にはなんだこれ?と突っ込みたくなってしまう変異体。
言うなればファイアーゴーレム?三メートルほどの巨体に四肢から吹き出る炎。ゾンビと炎は相性悪いんじゃないですか?と聞いてもなにも返ってきそうにない。
いつから変異体さんたちはゴーレムに進化したんだろう?
メタルゴーレム二体のファイアーゴーレム二体。ホラー映画だと思っていたらファンタジー映画だったよ。ははは。
「は、ははは、はは。・・・詰んだなぁー」
本当にいつの間にか僕は四方を囲まれていた。
こんなゾンビさっきまで姿も形も見なかった。
ならどうしてこんな化物がいるのか?
僕の憶測では本当に“進化”したのだろう。
前に体育館で見たゾンビが変異体に進化する瞬間。
あれが今、起こったのだろう。
変異体が進化した。
超変異体といったところか。
まさか、だよ。
流石にそんな化物を相手にするなんて思っても見なかった。
『ぐオぉぉぉぉォォォォオオッーー!!』
目の前のメタルゴーレムゾンビが雄叫びを上げた。
それに呼応するように四方のゾンビも叫ぶ。
「くっ、」
爆音。大地を揺るがす程の音撃に僕は耳を押さえ蹲る。
ただの咆哮だって言うのに僕は平衡感覚を麻痺するぐらいのダメージを負っている。
僕はシャベルを地面に刺してそれを支えになんとか立つ。立つことすらやっと。そんな状況だ。
こんな状況でどうすればこの化物どもに勝とうなどと思えるだろうか?
ここまで来るといっそ楽に死んだ方がましなんじゃないだろうか?
僕の頭の中には既にその考えが浮かんでいた。
この二週間半、思っても考えないようにしていたその考えが。
どうせ、こんな世界だ。このまま生き残ったとしても、終わることのない戦いが待っている。
「そう、だよ・・・な」
ついに僕はゴーレムゾンビたちから目を反らした。下を向き、目を瞑る。
「頑張った・・・もう十分すぎるくらい、頑張った、よな。あれからずっと、ずっと、戦い続けて、少しくらい、休んだって・・・」
ここで終わっても・・・そう思い、僕は最後にこの絶望的な世界を目に焼き付け、終わりにしようと目を開けた。
開けて、最初に見えたのは、
“おっぱい”だった。
「・・・・・・」
いや、正確に言うならアダルト雑誌だ。
それもグラマーな美女が胸を突き出すように強調させたポーズの。勿論、裸だ。
「はは、おいおい、最後に見るのがこんな雑誌とか・・・はは、・・・はは?」
僕は乾いた笑いを浮かべながらその雑誌を食い入るように見る。
そこに写っているのは“おっぱい”だ。
そう、“おっぱい”・・・おっぱい?あれ、僕は何か大切なことを・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・おっぱい、だ。
僕は目を見開き顔を上げる。
目の前には巨大な鋼鉄の拳が迫り左からは巨大な炎を纏った拳が迫る。
僕はそれを、まるで止まった時の中にいるかのようなに見ていた。
そうーーーーーそして、僕は思い出した。
「そうだ」
僕は地面からシャベルを引き抜く。
僕へと迫る拳との距離が三十センチを切った。
おっぱい、そうだ。おっぱいなんだ。
「僕は、・・・この戦いが終わったら、
おっぱい を揉むんだっ」
おっぱい、そう、ハルのおっぱいを、揉む。学園のアイドルのおっぱいを揉む。揉みしだく。この手でしっかりと、じっくりと、揉むのだ。
だから、だから、
僕は死ぬわけには、いかない。
「ッーーー!うぉぉぉォォおおオオッッりゃぁっッーーーーー!!!」
地面を踏み砕き砂煙を上げる。
一瞬で良い、ファイアーゴーレムゾンビの注意を反らす。そうして、反らせたのなら、僕は自らメタルゴーレムゾンビへと駆けた。迫り来る巨大な拳をシャベルでいなし、ギリギリで避ける。避けきれず頬の皮一枚が無惨に抉れる、
それでも僕は止まらない。いま、止まったらそれこそ終わりだ。
止まらず走り僕はゴーレムゾンビの頭を捉えた。
例え鉄のように固くなり見上げるような巨体になろうとも、
頭を落とせば、死ぬ。
「くたばれやぁっ!!」
ガッンッーーとシャベルと鉄の後頭部が激しい金属音を発てる。
「ーーッ、硬いっ」
岩ゾンビならば断面がピカピカ光るんじゃないか、と言うくらいに力を込めたつもりが、鉄ゾンビには弾かれる。
やっぱりこのゾンビは岩ゾンビの上位互換なのだろう。メタルゴーレムゾンビも長いから鉄ゾンビと名称。
鉄ゾンビに弾かれるのは、半ば予想済みだ。
だけど、この一撃は大事だった。
僕はこの鉄ゾンビの硬さを知らない、知らなかった。
だから、どれだけの力で切れば斬れるのかわからなかった。
だけど、全力でぶん殴って、鉄ゾンビの強度は大体予測が着いた。
だから次は、ーーーーー斬る。
「はぁぁあッーーーーー!!」
《ラノベ流シャベル斬り改 斬鉄》
高速で振るったシャベルの先端が鉄ゾンビの首に食い込む。
「っあぁぁぁッ!!」
僕はそのまま身体全体で回るようにシャベルを振り切った。
スポンッーーーーーと言う効果音が見事に似合う具合に鉄ゾンビの頭が遥か彼方へ飛んでいった。
僕は内心でガッツポーズをしながら、身体は次の行動に移っていた。
死体と化した頭無し鉄ゾンビの身体を足場にファイアーゴーレムゾンビ、もとい炎ゾンビへと斬りかかる。
『グノォォォォッ!!』
「っ、」
炎ゾンビは僕の攻撃に直ぐ様反応して僕へ向けて炎を纏った腕を振るい近付けさせない。
炎くらい我慢すれば、と思ったけど、実際それを浴びると条件反射で身体が恐れて固まってしまう。そんなところを何度も見せれば僕は炎ゾンビに撲殺されるか燃殺されて終る。
だから、殺るならば瞬殺だ。
炎よりも速く駆け抜け、炎ゾンビの首を刈る。
僕は近付きつつある二体目の鉄ゾンビと炎ゾンビからほんの一瞬だけ注意を消し、目の前の炎ゾンビ一体に全神経を集中させた。
軽くしゃがみ両足に力を込める。
フェイントも回避も防御も全て無し。
攻撃全フリの一回勝負。
炎ゾンビが僕へと拳を振り上げ、その瞬間僕は駆けていた。
振り下ろされる拳には炎が纏われあれに当たれば火傷じゃすまないと言うことが恐ろしいくらいに分かる。
だから、僕がしなくてはいけないことは、あの拳が僕には届くよりも速く、駆け抜ける。
走る、いや、翔ぶ。翔る。
風になる。振り下ろされる拳の隙間を通り、炎を潜り抜け、
僕は全力でシャベルを振り切った。
ズザザザザザザッーーーーッ
スピードを殺せなかった僕は全力スピードのまま地面を転がり十メートルほど地面を擦りながら壁にぶつかってやっと止まった。
頭を下に、尻を上にするような体制を慌てて戻し炎ゾンビへと向き直る。
「ーーーーーくそッ・・・・いや?」
僕が目にしたのは頭が未だにくっついたままの炎ゾンビ。
ミスったのか!?そう思ったのもつかの間、まるでスライドするように炎ゾンビの頭がずり落ち、そのまま身体が前向きに倒れた。
「やっーーーーーッ!?」
やった、そう叫ぼうとした瞬間、背中にうすら寒いものを感じ、僕は横に跳んでいた。
見ればそこには四つ足の獣風ゾンビがいた。
なんだ、ただの雑魚か。それを見てそう思い、同時に可笑しいと言うことに気が付いた。いまの寒気は僕の中にある生存本能による予知に近い。精度はかなりのモノだ。
それが今更に普通の変異体相手に発動するなんて・・・
つまり、これは普通の変異体じゃない?
その結論にたどり着くと同時、獣風変異体の姿が変わった。
ガラリ、とじゃない。
ただ純粋に四つ足の獣風変異体が二足歩行の獣風変異体に姿を変えた。
立ち上がって、それに合う見た目に変わったのだ。
僕はとっさに幼き日に見た日曜日9時から始まるアドベンチャーな物語の狼型が進化して狼男型になるところを思い出していた。
まあ、この変異体は頭が一応人間のモノだから単純に立ち上がっただけのようにも見えるけど。
それでも体格が通常のゾンビよりも良く、猫背になっているが身長も随分と高い。
肉質も良く、まるで前の夜に戦った変異体なのに人型の強いやつ・・・上位ゾンビと名付けよう。
上位ゾンビを更に強くした感じだ。
強く、獣風に。
狼男、まさしくそれっぽい。顔はゾンビだけど。
炎ゾンビと鉄ゾンビを一体ずつ倒したのに僕の回りには鉄ゾンビと炎ゾンビと狼男ゾンビとで三体に囲まれている。
あと、雑魚ゾンビと雑魚変異体が回りに点々としているが、こちらは問題ない程度だ。
ピンチを脱したはずなのに更なるピンチになるとか本当に詰んでいる。
さっきまでの僕なら諦めていただろうけど、いまの僕は諦める気は更々ない。
この戦いを終え、僕はハルのおっぱいを揉む。
想像するだけで鼻血が出そうだが、それは本物を見るの気まで我慢だ。
そうだ。
ん・・・・・・ん?あれ、僕、見せてくれるようには頼んだったっけ?
・・・あれ?・・・いや、揉ませてくれとは頼んだけど・・・・・・・・・・・・・・・うん。勢いに任せよう。
これほどまでに死ぬ思いをしているんだ。
それを言動からもらして同情してもらって罪悪感を募らせて頼もう。
僕はおっぱいのためなら外道にもゲスにもなろう。
そう、だから、
勝とう。
狼男が動き出す。速い。これまでのゾンビで一番速いかもしれない。
目では追えない。身体も追い付かない。
僕が一瞬を意識し終われば狼男の鋭い爪が僕の胸へ突き刺さるーーーーーーーーーーことはなかった。
代わりにガンッという金属音が響いた。
突き刺さる間際、僕は狼男には反応できなかった。だから、狼男をどうこうするのは無理と諦め、狼男との間にシャベルを潜り込ませた。
狼男が貫いたのはシャベルの柄だ。
盛大な金属音を立て僕の大事なシャベルを破壊したこのゾンビを僕は許すつもりはない。
見事に柄を真っ二つにし、それらが吹き飛ばされるよりも速く僕は折れて跳ぶ直前のシャベルの刃の方の半分を掴んだ。
そして僕はそのまま掴んだシャベルの刃を狼男の脳天へと突き刺してそのままグリグリし切り裂いた。
僕の身体に倒れ込むようにしてきたのでポイっとして僕は次なる強敵たちへと向き直る。
取り敢えず、鉄ゾンビと炎ゾンビと狼男ゾンビなら攻略法は見つけた為、どうにかなる。
僕は壊れたシャベルを捨て、足元に落としておいたシャベルを拾い上げる。
拾い上げると同時、僕はそれを振るい背後から忍び寄ってきた上位ゾンビを両断し、その後ろに隠れていた子供サイズの上位ゾンビを縦に割り、飛び込んできた鉄ゾンビを振り向き様に弾き跳ばした。
鉄ゾンビを突き放すと今度は炎ゾンビが口から炎を吐き出してきた。
こんなのありかっ!?と思う気持ちもあったけど、炎を纏った敵が炎を吐くのは何気にありきたりなので予想はできていた。
吐き出す直前、口に炎をためるときにもしやと思って既に避ける用意をしていた。
炎よりも速くその場を去り、雑魚変異体を狩りながら炎ゾンビの死角へ回る。
僕は手頃な岩ゾンビを捕まえてシャベルを野球バットのように構えて岩ゾンビを炎ゾンビへと向けて打った。
見事にビュンッと跳んでいくその影に隠れて僕も同時に走る。
炎ゾンビは岩ゾンビに気付き腕を振って吹き飛ばす。だが、その影から出てきた僕には反応できず、炎ゾンビが気が付いたときには僕が首を狩り終わったあとだった。
「おっぱいっ、そう、おっぱいっ!!」
おっぱいっ、おっぱいっ、と声を出してゾンビを狩る。
常に気を昂らせるにはこうするしかない。
恥ずかしい気持ちがないとは言わないが聞いている人なんて誰もいない。
もし誰かに聴かれたら自殺ものだけど、少しでも不安に感じれば絶望に飲み込まれてしまうこの状況。アホみたいでバカみたいで変態みたいだが、テンションを維持出来るのならばやるしかない。
僕はその後テンションを維持したまま数百体のゾンビを狩った。
そろそろ目に見えて数が減ってきた。
ここまでくると正確に何体倒したのか、というのはまるでわからない。取り敢えずいっぱいだ。
そして、いっぱい倒したからわかったのだけど、
通常ゾンビの数が少ない。
逃げた?と思ったのは最初だけだ。
通常ゾンビは少ないけど、
変異体の数が明らかに増えていた。
変異体だけならばもう100体以上倒している。いや、多分。
これはこの戦闘中に通常ゾンビが変異体に進化したということだろう。そして、変異体はさらにその上に進化。それがさっきの鉄ゾンビに炎ゾンビ、狼男ゾンビたちだろう。上位ゾンビももしかすれば変異体の進化体なのかもしれない。
変異体の次はなんて名付けようか?変異体セカンド・・・いや、完成体?僕は鉄ゾンビや炎ゾンビを思い出しながらここら辺が良いのかと思い、変異体の進化は完成体と名付けることにした。
でも、そうなると、・・・。
僕は減ってきたゾンビを見つめ、頬を引きつらせていた。
《完成体》の次はなんと呼べば良いだろうか?
残りのゾンビの数は五十前後。そのほとんどは変異体で、10体ほど完成体がいる。
そして、二体。
変異体でも完成体でもない、もちろん通常ゾンビですらない存在がいた。
そいつらの姿形は違うが、どちらも桁違いに恐ろしいというのは分かる。
一体目は、多分炎ゾンビが進化したのだろう。
炎を纏っている・・・いや、嘘。たぶんあれ炎ソノモノ。
ファンタジーによくある肉体を持たない炎の化物。
といっても完全に肉体が無いわけでもなさそうだ。顔や胴体は時おり形を見せている。
そこを突けばいけるか?
もう一体は鉄ゾンビの進化だろう。
本当に、いままで何処にいたんだ?と言いたくなる巨大。もともとの岩ゾンビからして大きかったが、あれらはまだ許容範囲だった。
それが、なんだろう。僕はいつから大怪獣映画に出演させられたんだろう。
見た目は鉄ゾンビそのものだ。ただ、大きさがヤバイ。四メートルくらいだった鉄ゾンビに対し、このゾンビ、三倍くらいある。
あれだ、解りやすく言うと僕の高校の校舎、あれとおんなじくらいの高さ。
本当に、何処に隠れていた?
いや、進化したんだったか?どうやってそこまでの体積を得たんだよ。あ、死体か?
思えば地面にゾンビの死体が少ない気もする。
あの巨体も千に近いゾンビの集合体と考えればあり得るのかもしれない。
「お・・・お、おっぱい・・・・・・で、どうにかなる問題かねぇ・・・こいつぁ」
怪獣退治の報酬がおっぱいだけではちょっと無理があるのではなかろうか?
・・・ここは報酬の上乗せを検討するしかあるまい。否、上乗せするしかない。
具体的に言うと、生で揉ませてもらう。事後承諾だが、気にしていられない。僕は決めた。ハルの、おっぱいを、生で、揉む。
そうだ。生のおっぱいを、揉む。
ああーーーーーーそうだ、そうだ、・・・テンションが上がってきた。
生きる、勝つ、勝って揉む。
だがら、負けないっ!!
「うがぁぁぁぁぁぁっーーーーー!!」
僕は大声を上げ駆け出した。




