【第二十二話】夜歩き 後編
ガンッ、と壁に衝突し瓦礫が壊れ崩れる音が響く。
目の前が真っ白になるのを感じながら僕は直ぐにその場を飛んだ。
飛んで間もおかずその場所にウルトラゾンビマンが突き刺さりその衝撃で瓦礫が盛大に飛ぶ。
大きな瓦礫は避け小さな破片を体に浴びながら僕は体を起こすこともできずゴロゴロと転がりながら距離を取る。
正直すべての行動が無意識で今何が起きたのかうまく理解できていない。
取り敢えず殴られた?ということはわかった・・・と思う。殴られたんだよね?
自動車に跳ねられたみたいな衝撃だったけど。もちろん自動車に跳ねられたことはないけど。
僕はバカみたいに痛む体を何とか立たせるけど、痛すぎて話にならない。
手も足も頭もお尻もお腹も全部痛い。特に瓦礫にぶつけた背中は今もズキンズキンと激しい痛みを僕に訴えかける。
正直意識を手放して失神してもいいレベルだと思う。それなのに何でこうして立ち上がって相手に対峙できるのか、と言えば、これはもう僕の身体が僕の意思と半分くらい別に動いているから。
・・・いや、まじで。本気。
実際、僕は痛みで立つことはおろかシャベルを握ることすら泣き出したいほど痛い。
色々と強くなった僕だけど、そんな僕だから弱い・・・弱点がある。
僕がこれまで戦ってきたのはゾンビだ。
ゾンビというのは映画なんかじゃ血を少しでも身体に入れれば感染する、というのが定番だ。
引っ掛かれたり噛みつかれたり、傷口から血が入ったり。
だから僕はゾンビの攻撃は全部避けるようにしてきた・・・たぶん。
まあ、返り血をびっしょりになるくらい浴びてたりするから口に入るとか傷口に入るとか普通にしてるけど・・・。
つまるところ、腕っぷしが強くはなったけど打たれ弱さは変わらないのだ。いくら僕でも鍛えていないものは強くならない。
攻撃するために強くなった肉体だから防御力は驚くほどに変わっていない。
そんな僕が何故、立ち上がり、シャベルを構えているのか。半分くらい意識を手放しながら。
まあ、簡単な話、僕が意識を無くしたまま動くのはこれが初めてではないからだ。はじめの頃は精神が耐えられなくなってよく発狂して暴れていた。
まさかあの発狂がこうしてプラスに働くことがあるなんて・・・お家に帰れたらステータスノートのバーサーカーのレベルを上げておこう。
僕がそうこう考えているうちに再びゾンビが動き出す。
またしても速い。初動が見えない。どうしても一瞬見失う。
だけど、突き出されたゾンビの拳を僕はシャベルを使って受け流した。
見えないほど速い攻撃がくる。それを知っていればそれなりな対応はできるものだ。
動きを目で追うから対応できなかった。
なら、目で追うのを止めて身体で相手の動きを追う。
即ち身体の反射に頼る。
これも最初は中々に難しい。
だけど、沢山のゾンビに囲まれ目で追いきれないときに徐々にやっていたらある程度上手くできるようになった。
その後も確格闘漫画の主人公みたいっ、とちょっとした興奮で沢山してたら普通にできるようになった。と言ってもまだ意識しないと出来ない。
これが無意識にできるようになったら達人とか名乗れるのかもしれない。
僕が受け流してもゾンビは気にせず次々に攻撃を繰り広げる。速い。やはりこの近距離ですら目で追えない。
身体は反応するけどそれも十全じゃない。
受け流す、避ける、それだけだ。
攻撃に転じられない。
・・・というか、今気がついたら普通に意識戻ってる。
さっきまではどこか自分の体を外から観ている感があったけどそれがなくなっている。
ということは、だ。
身体は反射で動かしながら意識的に攻撃しよう。・・・うん。
という訳でゾンビのパンチを紙一重で避けそのまま懐に飛び込む。
さきほどまで防御に徹していた僕が何の脈絡もなく行動を変えたからかゾンビの反応は僅かに遅い。そしてその遅さは僕には十分な時間をくれた。
シャベルの柄を思い切りゾンビの顔面へ打ち付ける。打ち付けたときゴンッと鉄を殴った感触がした。どんな肌をしてるんだっ!?と突っ込みたかったけど、ゾンビが動き出す気配を感じ、空かさず、ゴンッと再び柄で殴る。殴り、今度はシャベルの刃でゾンビの頭を殴打。殴打、殴打殴打殴打殴打殴打殴打殴打殴打殴打殴打殴打殴打殴打殴打殴打。ゾンビピクリと腕を振り上げようとしたから、殴打。殴打殴打殴打殴打殴打殴打殴打殴打殴打殴打殴打殴打殴打殴打殴打殴打殴打殴打殴打殴打殴打殴打殴打殴打殴打殴打殴打殴打殴打殴打殴打殴打殴打。ガンゴンガンゴンと鈍く響く音。そして凹むゾンビの頭。曲がりつつある僕のシャベル。殴打。シャベルがもつか心配だ。殴打。予備のシャベルはあるけど、折り畳み式で耐久値が低い。殴打殴打殴打殴打殴打殴打殴打。鈍く響く音は延々と続き、それと共にひたすらにシャベルでゾンビの頭を殴る僕。殴打殴打殴打殴打。凹んだ窪みに更に凹みをつけて、最初は人の頭の形をしていたその頭も今では歪みきって原型を留めていない。殴打殴打殴打殴打殴打殴打殴打殴打殴打殴打殴打殴打殴打殴打殴打殴打殴打殴打殴打殴打殴打殴打殴打殴打殴打殴打殴打殴打殴打殴打殴打殴打殴打殴打殴打殴打殴打殴打殴打殴打殴打殴打殴打殴打殴打殴打殴打殴打殴打殴打殴打殴打。ゾンビが動こうとするから殴打。このゾンビは普通のゾンビとも変異体とも違う。殴打。より凶悪で強力で恐ろしい。殴打。少しでも気を抜けば即座に殺られる可能性すらある。だから、殴打。ゾンビが動く隙すら与えずに殴打。殴打殴打殴打殴打殴打殴打殴打殴打殴打。いったいどれくらい殴打をしただろうか?
途中から鈍い金属音がもっと鈍く歪な音になっていた気がするけど。
あれ?と僕は見る。
ずっと殴打していたゾンビの頭がなかった。
「あれ?」
とゾンビの、後ろを見るとぼこぼこになった。歪な何かが転がり落ちていた。
「あれ?」
僕はそれと頭無しゾンビを見比べた。
「・・・やったか?」
物語のお決まりのフラグセリフ。倒したと思って発言すると絶対に倒しきれていないやつ。
取り敢えずやってみるけど、蘇る気配もない。
どうやら僕はゾンビマンを倒せたらしい。




