【第二十一話】夜歩き 前編
高校生になっていうのもなんだけど、僕はそもそも夜歩きというのをしたことがない。
基本高校が終って寄り道しても7時くらいには家に帰る。
9時以降外出していたことなどほとんどない。
そんな僕が夜歩き。・・・いや、まあ、まだ6時過ぎなんだけど。
太陽の沈んだ空にライトの点かない町は随分と暗くなる。
それこそ深夜帯を想像する暗さだ。
そんな暗い街中で、車も人の声も響かないと足音というのはよく響く。
近くじゃないが幾人もの足音が聞こえる。これだけなら良いんだけど、「ぅぁぁぁぁ」とか「ぉぉぉぉぉお」とか低い唸り声まで聞こえてくるこれはリアルにホラーだ。
ふふ、純粋に怖い。僕ホラー苦手。いや、見ちゃうけど、ホラー映画とか見ちゃうけど、続編あったら片っ端からレンタルしてDVDで見ちゃうけどね。あの2、3、4と続くに連れ無理矢理に伏線付けしたりする強引さ、僕大好き。
いや、ホラーは苦手なんだけど、そういう伏線のある映画ってホラー系が多い気がするんだ。あの人形殺人鬼のとか電話のとか。
そんな僕なので、いま物凄く怖い。
既に目があったゾンビ三体ほどプッツンしたあとだけどこの雰囲気は怖い。
夜歩きの目的の情報集めだけど、取り敢えずいまわかっていることはゾンビさんは夜目が効く。大体昼間と同じくらい。暗いから平気かなぁ、と思って50メートルほど離れた位置に立ってみたら普通に見付かって走ってこられた。
しかも、途中で合流したのか三体に増えていた。
たぶんだけど、嗅覚はない。これは昼間も同じ。ただ、聴覚は普通にある。
試しに見えない位置から壁をゴンゴン叩いたらゾンビが三体ほどやって来た。
取り敢えず一体目をカンッとシャベルで頭を飛ばして、二体目を蹴り三体目共々転ばせて首をまとめてズパーン。
特に狂暴性が上がっていたりはしないみたいだ。
ただ、夜目が効くというのは中々に脅威だろうと思う。
気を付けよう。
僕はビクつきながらもサクサクと進みあっという間にマイホーム(学校)の坂の下まで来た。
今日の夜歩きのお陰で夜でもゾンビたちの動きは変わらないということがわかった。
ただ、これは変わらないからよかった、というわけではない。
普通に考えれば“変わらないから”ヤバいのだ。
暗闇でも見透せる目。僕の場合は夜目が効くから問題ない。だけど、普通は夜になれば視界が悪くなる。
こちらから発見できずに、向こうから一方的に見付かり襲われる。
これを考えれば夜のゾンビとは恐ろしい存在だ。
僕はそう思いながら坂を登ろうとして足を止めた。
いや、止められた、と言うべきか。
坂の先、道の真ん中にポツリと立つ人影。
いな、人ではない。ゾンビ。
ゾンビ、変異体。
だけど、普通の変異体とちょっと違う。
僕の知ってる変異体は大きく類別すると二通り。
巨体化か、人外化だ。
巨大化はその名の通り、通常ゾンビから大きくなる類いのものだ。ただこれも別ければ色々あり手だけが大木のように大きくなるようなのがいたり体が長くなるやつ、首が伸びるとかそんな感じ。工業高校で倒した変異体はこちらだ。
人外化は人でない部位が生えたり変質するやつらだ。例えば首が2つにたったり手が増えたり、面白いので言えばケンタウルスみたいになってる変異体もいた。始めに我が校で見た変異体はこちら。
ちなみに岩ゾンビ(変異体)は僕のカテゴリーでは前者に入る。
それに対して、だ。
目の前のゾンビは一見通常ゾンビに見えるほど見た目に変化がない。
目算170センチ後半、手足も普通。
変わった部位も増えてない。
これだけ見れば通常ゾンビと思えなくもないけど・・・。
無理、駄目だ。
これは不味い。
僕の心がビィービィーと警報を鳴らしているのが分かる。
最近感じなかったゾンビに対する恐怖。
壊れて消えてしまったと思っていた恐怖心があったことに喜ぶべきか泣くべきか。
体育館で大量のゾンビを相手にしていたときの方が幾分も気が楽だ。
この変異体、強い。
それもトンでもなく。
額からツーと冷や汗が流れる。
気が付けば僕はいつの間にかシャベルを手に構えているし。
戦う?逃げる?
そう考えて僕はバカだなぁ、と思わず苦笑いしてしまった。
あははは、“前者”はまだ良い。だけど、後者を選んだ瞬間、僕の命はプツン、だ。
目の前の正体不明ゾンビはただ立っているだけだ。
だけど、あれは“僕”を狙っている。
そう、明確に“僕”を狙っているのだ。
他のゾンビたちとは違う。
あれらは僕を食料の一つだと考えて襲ってきている。
人間というたくさんの餌の中の一つとしてだ。
だけど、目の前のこのゾンビは僕という個人を狙ってきている。それが分かる。だから逃げて逃げ切れるはずもなく、その選択肢はあり得ない。
もう戦うしかない。
戦って勝つしか道はないのだ。
僕は、シャベルを握る手を強め、自身の意識を完全に戦闘へと切り替える。
そうすれば、スッと、周りがクリアになる。
もう余計なことは考えない。ただあいつを倒す。それだけに集中する。
見ただけで相手が僕よりも格上だと言うのは理解している。だけど、それがどうしたと言うのか?
確かに臆するし逃げたくなるし怖い。
だけど、僕の道は前にしない。なら進むしかないのだ。
決意した僕は誰にも止められない。
そうして僕は踏み出した。
途端、目の前の敵が消え、いつの間にか接近し固そうな拳を振りかぶっていた。
「うそっ」
思わず口に出た言葉を残し、僕はその拳によって面白いくらい吹き飛んだ。




