【第十七話】僕は悪くない
僕が目覚めると、そこは知らない天井だった。
少なくとも僕の部屋じゃない。僕の部屋なら目覚めの最初に天井に張り付けた“獄炎魔法少女燃え萌えクレナイ”のヒロイン、クレナイちゃんのポスターが張ってあるはず。
炎を使った魔法少女で、特徴としてはヒロインが必ずと言っていいほど味方ごと焼くというところだ。味方殺しとまで言われる彼女だが、それ以外はまさに天使で、味方殺しもある種ギャップ萌えですまされている。
・・・・・・なんて、現実を逃避してみるのだけど、・・・現実逃避をしている最中にも少しだけこれまでのことがわかってきた。
そう、僕は・・・たこ焼きを食べ過ぎて胸焼けが苦しい。
・・・ごめん。まだ現実逃避を終われていなかった。
取り敢えず、現実逃避の為にもう一眠りしよう、そうしよう。
「“ぺんちゃん”起きてる、よね?」
「・・・・・・」
わかっていたさ。目を開けたときに視界の片隅に彼女が見えたもの。
全部夢であってほしかった。
そして目を覚ませば小学三年生くらいに戻っていてほしかった。あの頃が僕のレジェンド。
「相変わらず寝た振りが上手いけど、それ、私には通用しないよ?」
「・・・・・・はぁ」
ムクリ、と起き上がる僕。起き上がっても決して彼女へ視線を向けない。というか、向けられない。
「やっぱり、“ぺんちゃん”だよね」
「いいえ、私は田中レクイエム太郎というものでござる。断じて朝日という名ではござらん」
「・・・ぺんちゃん寝惚けてる?」
「・・・やや」
うん。自分で言ってて気が付いた。聞かれてないのに名前言っちゃった。
彼女、月夜野遥。僕の幼馴染・・・と格好良く言えばそうなのだが、僕の幼馴染は40人近くいるからその内の一人だ。
というよりも、僕の生まれ育った町は結構田舎で保育園から中学まで一つしかなく、否応なく同年代の奴らはみんな幼馴染になるのだ。
だから、特別嫌いな奴などを抜かせばみんながみんな互いを良く知り合っている。
この月夜野・・・・ハルさんはその中でも結構仲がよかった人なので僕の狸寝入りも簡単にバレてしまうわけだ。
にしても、・・・認めてしまった。
僕が僕であるということを認めてしまった。
あぁ、駄目だ。また吐き気が・・・。
お腹いたい。
「えっと、大丈夫?顔色すごく悪いけど」
心配そうに僕の背中をさすってくれるのはいいんだけど、僕の精神はあんまり良くない。吐きそう。
「えっと、えと、確か薬が」
「・・・いい、大丈夫」
薬を飲んだくらいで直るようなものじゃない。
試したことはないけど。
僕は吐き気を押さえ、改めて彼女と対面した。
僕を現実に叩き落とした、彼女と。
いや、こんな言い方をしているけど別に彼女が悪い訳じゃない。ただ、僕を知っている人に会いたくなかった。それだけなのだ。
「ねぇ、本当に大丈夫?」
「・・・うん、全然平気、ちょう余裕」
「真っ青な顔して言われても信じられないよ」
わかっているのなら聞かないでほしい。現実問題ちょうヤバい。桶がほしい。もしくはビニール袋。それが無いのならトイレに行きたい。
僕は吐きたくて堪らないんだ。
・・・なんとか吐き気を無理矢理に飲み込み、涙目になりながら僕は彼女の話を聞く。
和也からなんとなしのこれまでの生活は聞いたが、もう少し聞いてみたかった。
彼女の話はほとんど和也が話してくれたものと同じ内容で特別に新しい発見はなかった。でも、彼女の言葉を聞きながら、やはりどうしても思ってしまう。
後悔。来なければよかった。と。
僕はこれまで、現実を直視しないように生活をしてきた。
まともにこの現実を受け入れようとすれば僕のガラスハートは粉々のバラバラだ。
だから僕は散々自分の心を偽り騙し耐えてきた。
ゾンビはモンスター。倒していい敵。
無理矢理にステータスを書き連ねて、ゲームのようなものだと自分を騙し、自らの行いを正当化してきた。
だけども、やっぱりそれには無理があるのだ。どうしたったここは現実だし、ゾンビだって言ったってその見た目は人間だ。
ほんの些細な出来事でそれら全てが崩れ行くのは目に見えて明らかだったのに・・・。
「ねぇ、ぺんちゃんはあの日からどうしてたの?」
「っ」
ハルは何気なく聞いたのだろうけど、それは僕に取って致命的なまでに最悪の問だった。
押し寄せるのは罪の意識か、胸が潰れるような痛み、不安感、全ての人の責める声。もっと他にやりようがあったはずだ。殺さなくてもよかった。殺す必要はなかった。いや、生きるためにはやらなくちゃいけなかった。僕は生きたい、死にたくない。だから殺った。必要だったから殺ったんだ。それでも殺り過ぎだ。あんなに殺る必要はなかった。いいや、相手はゾンビなんだ。殺られる前に殺らなくちゃいつ僕が殺られるかわからない。だから、全部必要だったんだ。僕が生きるためにはそうするしかなかったんだ。それとも、僕が死ねばよかったのか?そうだ、死ねばよかったんだ。さっさと死んで、そうすれば誰も殺さずにすんだ。お前が死ねばよかったんだ。だからって、僕が死んだって誰かが僕と同じ事をしたはずだ。するはずだ。だから僕は悪くない。悪くないんだ。そうだ、仕方がなかったから殺ったんだ。悪くない悪くない悪くない悪くない悪くない悪くない悪くない悪くない悪くない悪くない悪くない悪くない悪くない悪くない悪くない悪くない悪くない悪くない悪くナい悪くない悪くない悪くない悪くない悪くない悪くなイ悪くない悪くない悪くない悪くなイ悪くない悪クナい悪くない悪クない悪くナい悪クない悪くない悪くナイ悪くない悪クナい悪くない悪くナイ悪クナイ悪クナイ悪クナイ悪クナイ悪クナイ悪クナイ悪クナイ悪くナイ
ーーーーーーーーー僕ハ悪クナイ。
そこで僕の意識はなくなった。




