【第十四話】現実逃避失敗
和也の案内でゾンビに見つからないように移動していく。
目的の場所は四階で、僕と同じように教室のひとつを拠点として使っているらしい。
三階までは隠れながら行き、その先の階段にはバリケードのように机や椅子が並べられていた。
これでは普通のゾンビでは突破できないだろう。
和也はバリケードの端の方へ行きノックをするように机を叩いた。
「吉岡、俺だ。開けてくれ」
「和也兄ちゃんか、わかった」
内にいる仲間に知らせバリケードを一時的に解いてもらうらしい。
慣れているのか十秒ほどで綺麗に机の一部が動き道ができた。
そこから顔を覗かせたのはまだ幼さを残す顔立ちの少年だった。小学生・・・いや、中学に入りたてといったくらいだろうか。
その少年は和也と新治さんを見ると顔を緩め、僕を見て顔を引き締めた。
やっぱりここの人たちは警戒心があっていい。
・・・睨まれるのは心にキツいけど。
「和也兄ちゃん、あの人は?」
「俺たちの命の恩人だ。・・・安心しろ、悪い奴じゃない」
「・・・うん」
少年の警戒心を解くように和也が言い、それに頷く少年だけど、目の鋭さは変わらない。
いつまでもここにいるわけにはいかないのでバリケードを越え四階へと登る。
四階に登るとそこにはまたバリケードが作られていた。といっても、階段を塞いでいた物ほど立派なものではない。一メートルにも満たない机を組み合わせたものだ。
「これは?」
「足止めようのバリケード擬きだよ。もしあの階段が突破されたとき少しでも時間を稼ぐように」
確かにゾンビは基本的には遅いしトロい。これくらいのバリケードでも往生するだろう。しかし、ならば、だ。
「四階からの脱出口用意してるんだ?」
「もちろん。何通りかはあるさ。命が掛かっているんだから」
その言葉をあのデパートにいた人たちに聞かせたい。
吉岡と呼ばれた少年が先頭に、その後ろに和也と新治さんが並び、さらにその後ろを歩く僕。
こうして歩きながらでも考えてしまう。
これから本格的に和也たちと“これから”について話すわけだけど。
いったい僕はどうしたいのだろうか。
今の僕は死にたくないから生きている。
そうして期間限定だが、死ににくい生活環境ならば出来上がってもいるのだ。
マイホームと化したあの高校。食料や予備の武器。ゾンビ発見用にタコ糸で作った防犯装置まである。
あそこで暮らす分には余裕を持って生活できる。食料にしたってその内、畑でも耕せばどうにかなるかもしれない。
そんな僕が何故生存者を探して、こうして会おうとしているのだろうか。
僕は四階の窓から見える終わってしまった世界に視線向ける。
こんな世界で僕は何をして生きればいいんだ。
吉岡少年の足が止まり、和也たちの足も止まる。
どうやら目的の教室に着いたらしい。
全部で八人と言っていたからあと五人いるのだろう。
どういった人が要るのかわからないが、和也や吉岡少年を見る限り漫画や小説に出てくるような自己中心的なバカがいるということは無さそうだ。
和也がドアを開け、中に入る。
「あっ、和也君」
和也が中に入るよくぞ戻ったという雰囲気になり彼らの仲が悪くないことがわかる。
和也たちは少し話し合い、というか僕のことを話している。
流石にいきなりお邪魔しますともいかない。
中で話し合いの結果、紹介してくれるということになり中に招き入れられた。
中にいたのは本当に八人でしかも内に二人は明らかに子供。小学生低学年といった子供がいる。
僕はちょっとした驚きを覚え、そして他の人たちに目を向けて・・・固まってしまった。
「え、もしかして」
目があった。
八人の内の一人。真ん中くらいにいた一人。長い黒髪。女性の綺麗さと少女の可愛さを合わせ整った顔。男なら誰しも目がいってしまうのではというほどに大きな胸に、きゅっと閉まったクビレ。背は然程高くないが低くもない。
そんな少女。いや美少女。
最後に会ってから二年くらい経つが、あの頃よりも格段に綺麗になった少女。
「もしかして・・・“ぺんちゃん”?」
「・・・“ハル”」
あぁ、
僕の恐れていたことが現実となった。こうなる可能性だってあると何故考えなかったのか。
目の前が暗くなる。
何も考えられない。
本当、ちょっともう無理。
だって、
ここに来て出会った彼女は、
僕を“現実”に叩き落とすには十分すぎる相手だった。




