プロローグ2
――――星暦115年三月二日
その日の夜。俺の妹だって自称してる三人が家に来た。一人は部活の後輩の天取、一人は学校での後輩の宇田、最後の一人は帰国子女でクラスメイトのプリスティン。
「こんばんは、にぃに!」
「こんばんはです、お兄ちゃん!」
「こんばんはですわ、ブラザー。」
「ど、どうしたの、こんな遅くまで。」
だめだ、動揺を隠せない。この子たちはもしかして最初から知ってたのか?俺があのクソ親父のたった一人の息子、そしてこの子たちは皆......
いや!俺は認めんぞ、そんなこと!大体、もしそれが本当だったらなぜ新聞に載せたことがないんだ?世界中の人は皆あのクソ親父の娘だって、そして、あのクソ親父が彼女たちの母を殺したことを、なぜ乗せたことがない?
クソ親父は何らかの力があって、簡単に女をメロメロにできるってことは知ってるが、それがどうした?それで世界中の女をメロメロにして、子供作ったのか?だからってなんだよ、なぜ新聞に載せたことがないのよ、あのクソ親父のことも、女が殺されたことも。
......いや、待てよ。そういえば、なんでだ?なんでテレビに出てくる人は全員俺より年下になったのよ?前の人がなぜ仕事をやめたの?しかも男女同様......も、もしかして......
クソ親父の力は、ただ女をメロメロにするだけじゃなく、男にも......ダメだ、これ以上は考えたくない!
「どうしたの、にぃに?」
「い、いや、なにもない......で?なんでこんな遅くにうちに来たの?」
「じ、実は......」
うじうじしてた宇田が、一枚のチラシを俺に見せた。
それは、タイトルが「妹会の始まり」っていうチラシ。内容は......
「父さんが事実を明らかにした日の夜で、皆でお兄ちゃんの家で寝泊まりするよって......」
「なにこれ、俺なんも知らないぞ!勝手に決めるな!」
「ちょっとちょっと、文句言うなら幸子ねぇねに言うのよ!」
「幸子様が?まさか、幸子様がこれを……」
再びチラシを見つめた。幸子様がこんなことをするとは思わないが、彼女達は嘘をつくような子じゃない。それを、私は誰よりも知っている。ていうか、幸子様最初から知ってたの?自分が俺のたった一人妹じゃなくって、他の妹もいるってこと……そして、それを受け入れたのか?
「そうそう。そして、アタシ達は、これを抗議しに来たのよ。」
「え?お前達が……抗議?」
とてもそうは思いません。なぜなら、この子達皆パジャマと抱き枕持って来てるし。それはたぶん、この子達は抗議じゃなくって、寝泊まりついでに他の子を追い払う為でしょう。まったく、本当に迷惑だ。
でも……
「まぁいい、どうせお前達を追い返そうとしても無駄だろう、上がって。」
「へへ、ありがとうね、にぃに。」
「え、本当にいいの?……やっぱりお兄ちゃんは優しいね。」
「サンキュー、ブラザー!」
これは幸子様の指令だ、従わないわけがない。まぁ、実際この子達のおかげで他の子が来れずに済んだもの。もし彼女たちがこのチラシを剥がしなかったら今頃うちは自称妹でいっぱいだろうし、感謝しなければならない。けど、なんだろうこの気持ち……素直にお礼言えないこの気持ち。
「お、三人とも来たのか、いらっしゃい!でも、なんで君たち三人だけ?」
「シスター、ウィーを誘うのはいいけど、ホワイ他のシスターも誘ったの?」
「そうだよ、お兄ちゃんは私たちのものだって言ったのに、四人で分け合うって言ったのに!」
「え、ちょ、ど、どういうこと!?」
またして隠せない動揺。
四人で分け合うとか、どういうこと?
「ごめんね、あのクソ親父が死んだら盛大に祝おうと思って、いきなりチラシ出しててごめんね?」
「幸い、この一枚だけだから大事にならずに済んだもの……」
「え、一枚だけ?何百枚も出したよ?」
「え?」
現場にいる皆が唖然とした。
が、一人除いて。なぜかが天取だけ笑っていた。もしかして……と思うけど、流石に何百枚のチラシを剥がすのは流石に無理はある。彼女の場合は、多分、ただこの不思議なできことを楽しんでるだけではないでしょうか。
「と、とにかく、今夜は寝泊まりだから、楽しんでいってね!」
元気よく、幸子様が言った。
世界中の人が全員俺の妹?流石にそんなことはない。絶対に、ない。
そして、この日の夜、不思議なことが起きた。
「おうぉしゃぁぁ!飲むぜ飲むぜ、私は飲むぜ!」
「スーちゃん飲み過ぎ!ていうか、そんなに酔いやすいっけ、スーちゃんは。キャハハ!」
「オウ!ミーも飲みますよ!レッツ、ドリンク!」
「これはこれは、大変なことになりましたね、兄さん。」
「はぁ、どうしてこうなった……」
うちに来た自称妹の三人、なんかよくわからないが、酔っている。酒は出してないのに、なぜ酔っ払ったの?みんなまだまだ未成年なので、飲み物はオレンジジュースにしてるはずだが……まさかこれに酔う人がいるとは。
手に持っているカップを嗅いてみた。みんなの飲み物は同じ容器の中から入れたので、これがジュースならこの三人のもジュース。で、これが酒なら……
てか、先からなんなの、この変な匂い。
カップからはその変な匂いはしなかったが、この部屋中に満ちている変な匂いは、一体……
「って、ちょ!?」
よく見たら、天取の手元にある物は、ボトルだった。あのクソ親父の隠されたはずのウィスキーのボトルだった。
小学校の時にお母さんに酒禁したから、全部お母さんに隠されたはずなのに、どうして!?
「どうしたの、兄さん」
いつの間にか、幸子様も飲んでいた。
「う、マッズ!なにこの苦いの!?」
「気づいってなかったの、幸子様!?酒ですよ、酒。」
「んなこと知っとるわい!」
え?
これはもしかして、幸子様降臨?
「おい、下僕!酒もってこーい!飲むぜ、俺はよぉ!」
「直ちに!」
部屋から出ていた俺を置いて、みんなが酒を飲んでいる。
これは困った、俺は幸子様の命令には逆らえない。妹ながらも、幸子が酔ったらすぐ幸子様になる。しかも、困ったことに、幸子は酒に弱い。たったの一粒でもすぐ酔ってしまう。
俺が幸子じゃなく、幸子様って呼んでる理由は、幸子様との約束だった。幸子様がもし、本当に俺を従えらせれば、というわけのわからない約束だった。
部屋から去った俺の後ろで、みんなの笑い声が絶えない。
お母さんが酒を隠してあった場所から酒を取って、また先の部屋に戻った。
「ちょ、ちょっとちょっと、やめなさいよお前ら!」
天取が、他の人の服を脱かしてる。だがまぁ、流石に幸子様までには届いってなかった。
幸子様は自分で脱いてる。
「ノープロブレム、ブラザー。ウィーはただ、脱いてるだけデース。」
「問題大有りだよ!」
「下僕のくせに生意気言ってんじゃねぇよ!」
「は、はいいぃぃぃ!すんませんでした!」
......ちょ、違う!今は止めるときだ!でも、幸子様には逆らえないこの自分が情けない......
どうする?どうしたら皆を止めれるの?先に幸子様を......そうだ、幸子様さえいなければ、俺は一人でほかの三人を止めれる!
でも、どうやって?幸子様の弱点は......なんだっけ?いや、あったっけ、幸子様の弱点。
ない!どう考えても無理!幸子様に弱点とかねぇよ、畜生!
「にゃ......」
ん?
「にゃーーーーー!!!」
天取がまた変な声出してる!猫じゃあるまいし。てか、こんな夜中で鳴くな!近所迷惑だぞ!
「にゃーーははは......」
パタン。と、突然に倒れた天取。
プリスティンと宇田はそれを気にせずに、ただただ飲んでるだけ、酒を。
「どうするんだよ、これ......」
頭が痛くなってきた。
ちょっと待って、なんかおかしいぞ?さっきからずっと黙ったままで、何があったのか幸子様。と思って幸子様を探してみたら、ソファーの上で寝てたようだ。
今騒いでるのは残りプリスティンと宇田の二人だけ。さぁて、これはどうするものかな。
「ん!」
倒れてた天取がいきなり立ち上がった。
パンパン!と頬を叩いた。
「よし、みんなでにぃにの部屋で薄い本探しに行こうぜ!」
「え、ちょ!?」
てっきり正気に戻ったかと思った俺がバカでした。
「レッツナイス!」
「行こう行こう!」
「ちょ、え!?薄い本なんか持ってねぇよ、探すな!」
「ほほう~いい年して薄い本持ってないの?嘘だよね、にぃに~?」
「嘘じゃねぇよ、普段は家のことでいっぱいだわ!薄い本を買う金はねぇよ!」
「じゃあ、探しても無駄、てこと?」
あれ?こいつ、本当に酔ってるの?酔ってる人と会話できる?
まさか、実は全然酔ってないよか?......試してみるか。
こいつが正気ならこれに反応するはずだ。
「あ、そういやハンターモンスターXX買ったわ、あとで一緒にやる?」
「え!ちょ、聞いてない!」
「......」
「あう......」
やっぱりか。
「なんで酔っ払いに見せかけたの?」
「見せかけじゃないずぇ!酔ってるずぇ、ヒャッハーー!」
「嘘はよくないよ、天取。」
「ちっ!こうなったらしょうがない!みんなでにぃにの部屋に行こうずぇ!」
「シュッパーツ!」
「ちょっと、おい、天取てめぇ!」
と、その瞬間、口に何かを突っ込んだ。天取が俺の口に何かを突っ込んだ。
「な、なにこれ......」
苦い、熱い、そしてこのにおい......酒か?
次の瞬間、俺の意識が少しずつ消えていく......
俺も幸子様と同じく、たったの一粒の酒でもすぐ酔ってしまう体質。だが、お母さんによると、どうやら俺は酔ったらすぐ寝てしまうらしい。昔、あのクソ親父に酒飲まされたらすぐ寝てしまったかららしい。
「へへっ、ついでににぃにの体の研究もしとく!にしし。」
「どう......するつもり......あま......どり......」
と、ここで意識が途切れた。
再び目覚めたらすでにベッドの上に居た。パンツ一丁になったのはたぶん天取が言ってた研究のせいだと思う。
あいつは昔からずっと男の体が見たかったって言ってるから、きっとそれのせいだと思う。
――――星暦115年三月三日
時を戻し、三日に戻した。
学校までの経緯はどうでもいいから省略する。
で、朝のHRにて、見たことのない人が教室に来た。
「藤村 健二郎、皆の兄さん。今から大統領様の命令を通達する。」
「大統領様からの命令?」
「妹の中から一人を選んで、嫁にし、子供を作ってください。」
「え?」