お向かいさんと動物園
動物虐待などを助長する意図は全くありません。
お気軽にお読みください。
4月も終わりに近づき、俺の仕事も落ち着いてきた頃、俺たちは動物園に来ていた。
水族館に行ったすぐあとに動物園もどうかと思ったが、まぁ魚と動物は違うし、子供は遊んでも遊び足りないだろうし、いいかということに結論づいた。
「う、うまそうだ・・・」
「ハル、違う、食べ物鑑賞園じゃないから」
来て早々、ハルは入ってすぐのところの鳥類エリアで目をキラキラさせていた。
ハルの隣にいる3人の子供達とは別の意味で。
「すっげぇ!」
「綺麗だな、ほら、サクラ、あの鳥なんて桜色ですごく綺麗だ」
「そ、そうだね・・・///」
そう、今日はハルの他に近所の子供達ーーーミズキ、アスカ、サクラちゃんも一緒に来ていた。
「すっげぇ!あのピンクのなんていう鳥だ!?」
「あれはフラミンゴだよ。あぁ、フラミンゴも桜色で可愛いね」
「う、うん・・・///」
「すっげぇ!片足で立ってる!」
「すごいね、細くてすらっとした脚だ。サクラみたいに」
「えっ、あ、ありがとう・・・///」
彼らは昔からこんな調子だ。
ミズキは昔からすっげぇ!しか言わないし、アスカは何かにつけてサクラちゃんを絡めて言ってくるし、サクラちゃんはそんなアスカにご執心だ。
「しかし、思い返すと動物園は初めてだな・・・」
「ん、トシユキ、お腹すいた」
「もう!?」
そして昔から、ハルはよく食べる。
とりあえずハルには手持ちのビスケットを餌付k・・・食べさせてから、次のエリアに向かった。
「ふれあい広場かぁ。よし!みんな、今からは動物さんたちに触れるよ、優しくね」
そこはたくさんの小動物や、童話に出てくるような穏やかな動物たちが自由にすごせるような空間になっていた。
「まじか!すっげぇ!おれあの白いモフモフのに触りてぇ!」
「ウサギかぁ、可愛いね」
「俺はあの白馬に乗りに行こうかな。サクラは?」
「う、うん、私も・・・」
「おやおや、アスカは王子様にでもなるつもりかな?」
「私はジンギスカン・・・」
「ハル、違う、それ羊だから。いや違くはないけどやめなさい」
「ん・・・じゃ、あれなんだ?」
「え?」
ハルの指差す先にはーーー
「どーーーしてここで焼肉なんですか!?嫌味ですか!?動物たちへの当てつけですか!?」
「えっ、お客さんなに、え、どうしたの」
「どうしたのじゃないですよね!?普通ここで焼肉屋やります!?子供達に悪影響出そうで怖いんですけど!」
「どうどう、落ち着いてくださいよ」
ふれあい広場の少し先にある、休憩所兼レストランエリアの入り口には、焼肉屋があった。
「しかもこのメニュー!なんで馬肉とジンギスカンがメインなんですか!?まるでそこから取って来たみたいじゃないですか!」
「・・・」
「なんか言ってよ怖いよ!」
「まぁまぁ。あ、お嬢ちゃん、何か頼むかい?」
「ジンギスカン」
「容赦ないな!触れ合って来た直後で!」
「はーい、まいど、ちゃんと手洗ってから食べるんだぞ」
「あ!俺らも〜!」
「行こうかサクラ」
「わっ、美味しそう!」
「お前らもかよ!!!」
「よう、にいちゃんはどうすんだ?」
「おっ、俺は・・・!」
「・・・焼き鳥3本ください」
「まいど!」
「はぁ、なんか罪悪感に塗れた気分だ・・・」
「まずかったか?」
「いや美味しかったよ。むしろまずかったら今頃泣いてるよ・・・」
「なぁ次!次のエリアいこーぜ!」
「お前ら元気だな・・・」
無邪気な子供たちの脳内はもう遊ぶことに切り替わっている。
「ハル、次どこ?」
「分からん」
「入り口に書いてあるだろ、ほらあそこ。あ、猛獣エリアか」
「読めん」
「え?」
「だから、読めん」
「読めんって・・・ハル、視力落ちた?」
「こないだ両目Cだった」
「え!」
「ミハル、Cだったのか。俺はちゃんとAだったぞ」
「俺もAだった!」
「え、ミズキ視力検査のルールとか理解できるのか?」
「おい、バカにすんなよ!トシユキと違って俺は天才なんだぞ!」
「天才の意味わかって使ってるのかよ・・・」
「ツルタマレンジャーが言ってたもん!」
「そうか・・・」
「私はBに下がっちゃった・・・」
「まじか!サクラ!」
「そうなの?じゃあ俺の顔見える?」
「あ、アスカくん近い・・・見えるよ・・・///」
「そう」
「いや、アスカ分かっててやってるだろ」
「とりあえず"モウジュウエリア"行こうぜ!」
「あぁ、そうだな」
「そうしようか」
「どこー?」
「暗くてよく見えないな」
「うーん・・・」
「分からん」
「夜行性が多いからなー」
この動物園では、猛獣エリアは洞窟の中にあった。
「ほら、あそこじゃないか?あの、岩の下のところ。寝転がってる。こっち見てるぞ」
「え?あ!ほんとだ!見えた!」
「あぁ、本当だ、サクラ、見える?」
「うん、はっきりじゃないけど・・・」
「見えん」
少し可哀想なことをしたな。
視力が落ちたことを知ってればメガネを買いに行けたのに。
「あ、そうだ」
「「「「?」」」」
「少しここで待っていて、絶対に別のところに行っちゃダメだぞ」
「えー!」
「分かった」
「ん、頼んだぞ、アスカ」
「これなら見えるんじゃないか?」
少し息を切らせて帰って来たトシユキが、私の首にかけた。
「すっげぇ!なんだそれ!いいな!」
「双眼鏡か、いいね」
「わぁ・・・」
私がフッと顔を上げると、トシユキが笑った。
「これなら見えるだろう?さ、見てごらん」
「・・・見えた」
「どうだ?」
「・・・うま・・・カッコいい」
「そうか、よかった」
ふぅ、と横でトシユキが息をつくのを見た後、私はもう一度双眼鏡を覗いた。
ーーーうん、本当に、カッコいい。
「ふぅ、今日はたくさん遊んだな。楽しかったか?」
「うん、楽しかった。ありがとう、トシユキ」
「いーえー」
町に戻って来て、みんなを家に送った後、ハルはうちに来ていた。
夜ご飯をたべ、部屋でまったりしているところだ。
「トシユキ、これ、ありがとう」
「あぁ、見れてよかったね。他のものもたくさん見れるよ」
ハルのために買った双眼鏡。
思いの外喜んでいるようで良かった。
「トシユキも見れるか?」
「え?」
そう言って双眼鏡越しにこっちをジッと見て来た。
なんだかこんなキャラクターがいそうだな。
そう思うとなんだか少し笑えてきた。
「なんだ」
「っはは、いや、こんなキャラクターもいたなぁ、って」
「そうか」
まだジッと見てくる。
「双眼鏡越しに見ると楽しいの?」
「んー・・・いや」
「?」
「やっぱり」
双眼鏡をベットの上に置き、ハルが俺に顔を近づけーーー
「トシユキは、そのまま見た方が好きだ」
ガタガタッ ドスッ
「いった・・・!!ハル!」
椅子から転げ落ちた。
「ふふっ、なんだ、正直に言っただけだ。こんなに取り乱して。そんなに遠くちゃ顔がよく見えないんだ」
「え、あ、そういうことか・・・おどかすなよ・・・」
「相変わらずトシユキは面白いな」
「・・・くそっ。ていうか、本当に視力落ちたんだな。来週にでもメガネを買いに行こう」
「・・・そうだな・・・母に言ってみるか」
「うん、そうしてくれ。どの辺まで見えるんだ?今は?」
「ぼやけてるな」
「ここら辺は?」
「さっきよりは。でもまだぼやけてるな」
「え、そんなに?じゃあここは?」
「トシユキ・・・」
「ん?」
「トシユキ〜、ミハルちゃ〜ん、いちご洗ったから持ってきたわよ〜」
(トシユキ)「・・・」
(トシユキ母)「・・・」
(ミハル)「・・・ぷっ」
「やっだぁ、トシユキ!ミハルちゃんになんてこと!まぁまぁ、これは滝野さんにご報告ね〜!あらやだ、うちも滝野だったわ!うふふ〜」
「か、母さん!違う!待って、母さん!」
そして虚しく扉は閉まった。
「トシユキ、いちご、口移しで食べさせてやろうか?」
「み、ミハルーーーーッ!!!」
誤解を解くのに二時間かかった。




