お向かいさんと遠足①
「トシユキ、水族館に行きたい」
「いってらっしゃい」
「トシユキ、水族館に行きたい」
「いってらっしゃい」
「トシユキ、水族か「いってらっしゃい」
「・・・連れて行って」
「いや、ハル週末行くじゃん。遠足で水族館」
そう、4月の第3日曜日、今週末にハルの学年は県内の水族館に遠足に行く。
はー、なつかし。遠足とか何年前だ。
最後に行ったのは・・・あぁ、修学旅行合わせたら高3の沖縄か。
楽しかったなー。
ホテルのバイキング死ぬほど食べたな。真田は死んでた。
そういえば沖縄から帰ってきた時
「おい、トシユキ」
「え、あ、なに?」
「だから、水族館」
「ん?」
「連れてってほしい」
「いや、だから遠足で行くじゃん」
「そうじゃなくて、トシユキと行きたい」
「はぁ・・・予定が空いたらね」
「ん、約束だぞ」
「はいはい」
あ、最後にハルをどこかに連れて行ったのいつだろう?
しばらく遊び行ってないな、俺仕事始めたし。
うん、どこか連れて行ってあげよう。
(そう素直に思うあたり智之はいい青年である)
「あ」
「どうした?」
「おやつ」
「あぁ、300円以内のやつ?それも懐かしいな」
「あぁ、1000円以内ならなんでもいいって先生が」
「1000円!?」
「?」
「い、いや、なんでもないよ」
ジェネレーションギ・・・ジェネギャだ!ジェネギャ!
まじかー、バナナがおやつに入るか入らないかとか言ってた時代とは違うのかー。
「じゃあいつ買いに行く?明日は無理だけど明後日なら早く帰ってこれるよ」
アホ毛がピコンっと揺れるのが可愛らしい。
「ん、じゃああさって行く」
「りょうかい」
そしてまた俺はパソコンに向き直った。
すると、ハルは俺のベットから起き上がって漫画をしまって扉に向かった。
「帰るの?大丈夫?」
「ん、問題ない。じゃあな」
「はーい、おやすみ」
扉がしまって少し経ってからカーテンの外を見ると、お向かいさん家の二階の電気が点いた。
その光を見ると俺は安心する。
それにしても、
「元気なかったな。冷たくあしらいすぎたかな?いや、いつも通りだったよね?」
すこし考える。
「ん〜〜〜、まぁ大丈夫でしょ。さ、寝よ寝よ」
ぐーっと伸びをしてパソコンを閉じて電気も消す。
意識はあっという間に落ちていった。
2日後
予定より帰りが伸びてしまった。
「ただいまー」
「トシユキ、お帰りなさい」
「ハルは?」
「ミハルちゃんならトシユキの部屋で寝ちゃってるわよ〜」
やっぱり寝ちゃってるか・・・。
起こすのも悪いし明日にしようか。
ハルの家は共働きで夜遅くまで両親は帰ってこない。
だから、大抵ハルが寝るような時間まではうちにいて、ご飯も食べて行く。
そして、俺が帰りの遅くなった日は、大抵今日みたいに俺の部屋で寝ている。
しずかに扉を開けると、こちらに背を向けて横向きにベットの上で寝ていた。
顔をそっと覗き込むと、スゥスゥと寝息を立てていた。
あの大人びた、というより少し威圧的な口調と、俺をからかう憎まれ口がなければ年相応で可愛らしい。
思わずくすっと笑みがこぼれる。
すると、ハルの目がぱちっと開いて俺の方に視線を向けた。
「なんだ、夜這いか?」
「よばっ・・!?ハル、どこでそんな言葉を!?違うし!」
「トシユキの読んでた本」
「えぇぇ!?」
「嘘だ」
「っ・・・」
さっきの俺の笑みとは違う意味で、ハルがくすっと笑ってベットから降りた。
「トシユキ、遅い」
「ご、ごめん」
「今から行こ」
「うん。あ、夜ご飯の前でいいの?お腹すいてない?」
「ん、大丈夫。トシユキの机の中のカルカルスコーン食べたから」
「えぇぇ!?取っておいたのに!」
「嘘だ」
「・・・はぁ・・・行こう」
「これとー、これ。あとこれも。」
「しょっぱいのばっかりじゃないか。甘いのは?」
「あるよ。トシユキこそ甘いの食べすぎ。太るよ」
「う"」
2人してお菓子を次々とカートに入れていく。
まぁ、1000円なんてそうそういかないでしょ。
そう思っていたが
「そ、そんなに食べきれるの?」
「食べきれないと思うか?」
「いや・・・」
ハルは小さいが(同学年に比べても小柄)、食べる量はものすごく多い。
1000円、いきそうだ。
「お会計、1250円になります」
ハルのおやつと俺のカルカルスコーン合わせたら普通に1000円超えた。
いや、問題はそこじゃない。
1000円なんて社会人の俺からしたら全然余裕で払える。
いつもの俺なら。
しまったーーー。残念だが今の俺はいつもの俺じゃない。
帰りが遅くなったのもこれが理由だが、車がガス欠起こしてガソリンスタンドに運んでもらった。
思わぬ出費。そして給料日前。
まぁあれだ、一言で言うなら、足りな
「おつり250円です。ありがとうございました」
「えっ、ちょ」
袋を提げたハルがスタスタと出口に向かって歩き始める。
「ハル」
「足りなかったんだろ?元々私のおやつだ、お金は持ってきている。ほら、帰ろう」
うっわ、俺ダサ。
限りなくダサい。
23歳の社会人が小学四年生に払ってもらってダサくないことがあろうか、いや、ない。
「まぁそれに」
「夫婦は助け合うものだしな」
「それは違う!」
「ちっ」
凹んでいるときでも否定兼ツッコミは怠らない。
「日曜日、楽しんできてね」
「あぁ。私がいなくても泣くなよ」
「泣かないよ・・・」
今日は木曜日。
日曜日は3日後だ。




