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お向かいさんと憂鬱③





歓声がわんわんと、音が頭に直接流れ込んで来るように呻く。

ゴールテープまでの道に、他の生徒の姿はない。




「ミハルちゃんすごいわね〜!おばさん感動しちゃった」

「ありがとうございます」


四年生、五年生で、男女別で行われるリレーで、ミハルは一等賞だった。


「やっぱりトシユキも連れて来ればよかったかしら」

「京子さんが来てくれただけで十分嬉しいです」

「ミハルちゃんはいいこね〜。でも、おばさんももうお昼食べたら親戚のお家に行かなきゃいけないのよ?午後からでもいいなら、きっとトシユキは来てくれるわよ?」

「いえ、本当に大丈夫です」



知っている。

きっと、トシユキならどうにかしてでも来るだろう。



だから、ダメなんだ。



トシユキには文化祭を楽しんでもらいたい。


昔、京子さんに聞いた。

トシユキはあまり行事ごとには参加してこれなかったのだと。

なら、その機会くらいもらってもバチは当たらないだろう。


教師としての立場だったら、楽しみ方は変わるかもしれない。けど、取り戻せるかもしれないのだ。




そこに、私はいてはいけない。




「これ、美味しいです」

「よかったわ〜。アスパラベーコン、トシユキは嫌いだったからあまり食べてくれなかったのよ」

「じゃあトシユキの分まで食べないと」

「ふふ、そうしてちょうだい♪」



これで競技の3分の1が終わった。

あとは、大玉ころがし、組体操、ダンス、応援合戦のような団体種目がメインだ。


それと、ーーーーー


「じゃあごめんなさいね、ミハルちゃん。最後まで見たかったのだけど・・・」

「いえ、本当気にしないでください。来てくれて嬉しかった」

「帰ったらミハルちゃんの好きなものたくさん作るからお家で待っていてね」

「はい!ありがとうございます」


よし。



ハチマキを巻き直したミハルは、再び校庭へ走り出た。





















「はぁ〜〜〜〜〜」

「なんですか、そんなおっきなため息ついて」


鎌ヶ谷とトシユキの2人は、吹奏楽部による体育館でのコンサートを、二階のギャラリーから見ていた。


「もう文化祭終わっちゃうよ〜〜〜〜」

「まだ1日目でしょうが」

「でも〜〜〜〜俺ら明日仕事あるじゃ〜〜ん」

「俺は無いですよ」

「え!なんで!?」

「文化祭前にすべて移動させて済ましときました」

「ずる!言ってよ!てか俺より文化祭楽しむ気満々じゃん笑」

「楽しめるものは楽しんだかないと損でしょう?」

「ははっ、確かに」


一曲目が終わり、緩やかなメロディが再び流れ始めた。


「あ」

「ん?」

「この曲」

「好きなの?」

「ミハルがピアノの発表会で弾いてた曲です。楽器が違うと結構違く聞こえるんですね」

「そうかもしれない・・・っていうか!」

「?」

「さっきからミハルミハルって!どんだけ好きなのさ!」

「はっ!?そんな言ってないですよ。からかう材料わざわざ見つけるのやめてもらえますか」

「嘘つけ!

ケーキ屋では『ハル、食べるかな?どれ買ってこう』!

輪投げでは『ハルならもっと上手くやるんだろうなぁ』!

展示では『ハルは星とかも詳しいのかな。俺より知識多いから笑』!

そして今度は『ハルの弾いてた曲』ですか!」

「そんなこと言ってたかな」

「言ってたよ!」


トシユキは、ははっと朗らかに笑って演奏に向き直った。

そんなトシユキを見て、鎌ヶ谷も面白くなさそうに演奏に耳を傾けた。


「タッキーさ」


「・・・今度は何」

「どして『ただの』お向かいさんにそこまでするわけ?子供なんてめんどくさいだけでしょ。遊び行けないし。タッキーが毎日仕事持ち帰ってでも早く帰る理由だってそれでしょ?」

「別に。元から遊び行くタイプじゃないし。仕事だって家でゆっくりやる方が性に合ってる」

「高校時代に遊び回ってた人がよくいうよ〜。ど〜して正直に言わないかな〜」


ギャラリーに他に誰もいないことをいいことに、クルクル回りながら茶化す。


「正直もなにも、ほんとにそんな関係ないです。別に好きで遊びまわってたわけじゃないし。なんですか、構ってもらえないからってヤキモチですか?」

「そんなんじゃないぷー」

「可愛くないぞ」

「じゃあさじゃあさ、タッキーはミハルちゃんの何なの?」

「は?そりゃあ・・・父親みたいな?いや、歳的には兄みたいな感じでしょう」

「ふ〜ん、そりゃまたシスコンな兄様で」

「何が言いたい」


ヘラヘラとした様子で言葉を投げかける鎌ヶ谷に、トシユキはピシャリと言った。


(ありゃー・・・地雷踏んじゃった?不機嫌モロ出し笑

ちょっとからかいすぎちゃったかな〜)


「まっ、そゆことならいいやっ」

「は?」

「ね、たい焼き食べいこ」

「自己完結かよ・・・。まぁいいや、小腹すいて来たし。行きますか」

「おうよ!」



「あ、いたいた、若いの二人!」


教室棟へ向かおうとしていた二人に、年配の女性教諭から声がかかった。


「あれ、板原先生。どうなさいました?」


「さっきねぇ、ラウンジのところで2年の男の子たちがふざけちゃって。今日明日のために花壇が作られていたじゃない?それを壊しちゃったのよ。それで、いま業者さんが来て新しいの作ってもらってるから、お手伝いしてほしいの」


「あぁ、そういうことでしたか。分かりました、今向かいます」

「まっかせてください!」

「若い子はやっぱり元気ねぇ」

「いや、この歳でここまで元気なの鎌ヶ谷先生くらいなので、一緒にしないでください」

「えぇ!?タッキーひどい!」


「ふふ、それじゃあ仲良しのお二人さん、よろしくね」


それを伝えると、板原は職員室のある管理棟へと向かって姿を消した。


「・・・」

「仲良しさんだって!やったねタッキー!」

「・・・はぁ。行きましょ」

「スルー笑」




そうして、駐車場に隣接するラウンジに向かった二人だったが


「ぐはぁっ!」

「え、なに!?なに!?」

「おいロリコン野郎。お前どこにでもいんのな。それとも漁りに来てんのか」

「ちがっ・・・ここで働いてんだよ!うわ、鼻血。っていうか業者ってお前かよ!」

「うちは花屋だぞ」

「分かってるよ・・・」


高校に花を提供しているのは、町の中でも少ない花屋のうちのひとつである、トオルの店だった。


そして、おつかいに来たのは、(トシユキにとっては)運の悪いことにマレンであった。


「えー、タッキー知りあーい?またロリちゃんじゃーん笑」



ドスッ ちーん

〜鎌ヶ谷終了のお知らせ〜



「あ、反射でつい」

「どんな反射だよ・・・」

「てかこいつだれ」

「あー・・・同僚だ」

「ふーん。ならいいか。類は友を呼ぶって本当だな」

「一緒にするな」

「まぁなんでもいいけど。・・・つーか、」



「お前、なんでここにいんの?」






「え?だからここが職場だって。もうそのネタはさっきやったぞ」

「そうじゃなくて。ミハル様は?」

「ミハル?あぁ、今日は来たくないって言われてさ。家にいるんじゃないか?今日土曜だし」

「えっ・・・。お前、もしかして、知らないのか?」

「?」





「今日、ミハル様の体育会だぞ」















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