お向かいさんと俺
「付き合え」
「無理です」
「結婚しろ」
「無理です」
「なぜだ?」
「帰ってください」
「私のことが好きか?」
「嫌いじゃありません」
「なら問題な「いやあるだろ!!!」
きょとん
「いやきょとんされても。その手もう通じないですから。何回してるの」
「お前がいつまで経っても折れな「折れられないからね!!」
コンコンッ
「はい、どうぞ・・・」
俺、滝野智之、23歳。
現在、いや、しばらく前からあることに悩まされています。
「はーい、トシユキ、ミハルちゃん飲み物持って来たわよ〜。ミハルちゃん、オレンジジュースでいいわよね?」
「やった〜♡」
「はぁ・・・。ハル、今日午後からお花見やるんだろう?早く支度した方がいいんじゃないか?もうそれ飲んだら帰りなさい」
「ならトシユキも早く支度しろ」
「え、なんで?」
「なんでって、一緒に行くだろう?」
「行かないよ!!なんでだよ!!」
「トシユキがついて来てくれなきゃ行けない」
「えっ、あ、そういうことか・・・うーん・・・ハル、そういうことは事前に言ってくれないと」
「なんだ、用事があるのか?」
「いや、無いけど」
「だろう」
「ふふ、ミハルちゃんにはなんでもお見通しねぇ」
「母さん・・・とりあえずハル、準備しちゃいなさい。俺も着替えたら迎えに行くから」
「分かった」
「へぇ、結構賑やかだな。でも大人が少ないな」
「そうだな」
「はーーーい、じゃあみんな桜の木の下に集まってーーー。乾杯しましょーーー!っと、その前に、ミハルちゃん、パパかな?みんなにご紹介してあげてね!」
みんながこちらを見ている。
嫌な予感しかしない。
「は、ハル、ちゃんと、お向かいのお兄ちゃんだって言
「西郷小学校、4ー2、滝野美晴の夫です」
「「「「「え"」」」」」
そう、俺の悩みはこれ。
小学生に求婚されている。
そして本日、俺、滝野智之、社会的地位終了のお知らせの鐘が脳内に鳴り響いた。
「はぁ・・・」
ハルは両親が共働きだから、保護者同伴のイベントにはお向かいさんで昔から遊んでいる俺が行くことにしている。
今回も、同伴なのかと思った。
いや、きっとハルは俺がそう思っているのを逆手に取って連れて行ったのだろう。
というかこういう目にあったのは初めてじゃない。
俺も学べという話だが、どのみちハルには敵わない。
「何をそんなに落ち込んでいる」
「落ち込んでるのレベルじゃないよね!?どうするのさ!?あぁぁ、このままあの秘密を守るということを知らない子供たちがお母さんやお父さんに、
『ミハルちゃんの向かいのお兄ちゃん、ミハルちゃんの夫なんだって!』
とかなんとか言って、スーパーや駅ですれ違うたびに犯罪者を見るような目で見られるんだきっと、そうに違いない。いや秘密も何もないけどね、俺何もしてないしね」
「トシユキ、うるさい」
「だぁぁあ!ハル!こういうことはやめなさいとあれほど「いいじゃないか、間違っていない」
「間違いしかないよ!!」
わぁぁあん!
と、机に突っ伏す。
「トシ、トシユキ」
「なんだよ・・・」
ぽすっ
なでなで
「ごめん、こんなに落ち込むとは思わなかった。すまない」
「・・・っ」
少し、切なそうな顔。
そんな顔、するなよ。
「・・・いや、いいんだ。こっちこそ大人気なかった。ごめん」
「・・・」
ミハルは俯いてそのまま顔を上げない。
「ハル?ハル、ごめんよ。言いすぎた」
「・・・トシ、ハルのこと嫌いになった?」
「なってないよ、ほら、泣かないの」
「ハルのこと好き?」
「うん、好きだよ、ほら、顔を上げーーーーーー」
バッと顔を上げたハルは
ニヤニヤ笑っていた。
「っ!?!?///」
「そうかぁ、トシユキはやっぱり私のことが好きかぁ」
「なっ!そういう意味じゃ!というか今のはズルいぞ!!」
「ふふ、それが聞ければ十分だ、私はもう帰る」
「おいハル!違う意味で捉えるなよ!ハル!」
「じゃあな〜」
バタン、と虚しく扉はしまった。
「はぁぁあ、くそっ、やられたっ!」
いつだって、お向かいさんには敵わないのだ。