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熱に、かかる  作者: 水火
第一部
10/11

4

 口説かれる、というのは心臓に悪いものだ。いや、彼にそんな自覚などないのかもしれないが。……そんな事はないか、庇うような考えを打ち消す。

 やめてと言ってもやめない上、あんな風に女性を褒め倒しているのだから、自覚がない訳がない。


 美咲が異世界に来てから一週間ほどたったが、ジンは驚くほど変わらない。夜に美咲に会いに来るのも、会って容姿や仕草、共にいる事で見えてきた性格を褒めるのも。そして、美咲以外の女性を褒めているのも。


 夜以外に、城をうろつけば簡単にジンの姿を見つけることが出来る。女が集まっている場所。その中心にジンは必ずいるからだ。

 自分以外の女の髪や手にキスをして、優しい言葉を投げかける。そんな彼を見ていれば、心は冷える。だから、何を言われても受け入れられるはずがないのだ。


 ……しかし、何を言っても高鳴る心臓を抑えられはしなかった。

 目が合えば微笑み、近寄ってくる。他に女が居ようと、彼は必ず美咲に挨拶をした。そうやって気軽に振れて、手にキスを落とし甘い言葉も落として行く。


 関わらないようにしようと思っても、出会ってしまう。

 出会わなくても、夜には彼が訪ねてくるのだ。たまったものではない。


 踊る、おどる。心臓が、気分が、身体が、心が。

 どんな言葉を尽くされても、自分が惚れられるとは思っていないけれど。それでも、優しい言葉にときめいてしまうのは仕方がないことなのだろう。

 初めて近寄ってくる男なのだ、初めてこんなにやさしくしてくれる男なのだ。距離を置こうとしても、詰められてしまって、逃げ場なんてあるはずもなく。


 結局ズルズルと、話し掛けられれば答えてしまう。反応してしまう。慣れようと思っても顔は赤くなるし、体温は上がる。

 手にキスされるなんて行為、続けられれば慣れるのではないかと思うのに慣れない。逃げられると思うのに、逃げられなくて。


 それでも、疑うしかないから。恐ろしくて仕方がないのだ。


 怖いと思う。どうしようもなく恐ろしく思う。自分がジンという存在に作り替えられている気がしてならない。

 こちらに来る前なら、振り払えただろうに。免疫がないのは同じだ、それは分かっている。

 けれど。あの日残ると言わなければ、三日で帰ったなら……こんなに、葛藤などせずに良かったかもしれないのに。


 安易に答えてしまった自分自身に腹が立つ。追い詰められているのだ、きっと。追い立てられ、捕らわれる動物のように、最後にはきっと……。




 あぁ、また変な方向に思考が向かっていると頭を振る。考えても答えなんて出るはずのない問いを投げかけられたような、そんな気分。悩んでもしょうがないことを悩んでいる。


 気分転換だ、気分を変えよう。そう思い歩き出す。

 元々、王城の中の探索を続けていたのだ。それなのに、何故思考が逸れてしまったのか。また考えてしまえば、思考が戻ってしまうだろうと周りを見た。


 まだ探索し尽くした訳ではないが、記憶の端に庭があったことを思い出す。茶会用でも庭は何ヵ所かあり、その中の小さな少人数用のガーデンを美咲は気に入っていたのだ。

 季節が冬なのが残念でならないが、他の季節ならば色々と咲いていることだろう。冬の今でも、確か何か咲いていた筈。

 記憶を頼りに、ガーデンへと向かう。花などなくても構わなかった。とりあえず、外の空気を吸いたいと思っただけで。


 それが、浮つけていた、最後の瞬間になったのだけれど。


 ガーデンの入口にたどり着くと、中で双子が揃って話をしているのが見えた。彼らが揃っているところはみったに見ない。いつもで会うのは片方ばかりだった。

 特にユアンの方を目にしたのは久しぶりだっただろうか。ジンとは違って、彼は必要がない時に会いに来なかったから。


 兄弟の触れ合い中であるのは分かったが、このまま去ってしまうのは失礼だろう。どうせなら挨拶するべきだ。そう思い近付く。


「ところであの異世界人は?」


 足が、止まった。

 異世界人……こちらにとっての別の世界の住人なのだから、美咲や彩乃がそれにあたる。そして、ここで話題が出るという事は。


「毎晩接触してるよ? もうすぐ落ちるんじゃないかなぁ? 口説くなとか言われたけど、免疫ないのバレバレ。俺が誰にでも声かけてるの知ってるのに、近づいて手にキスするの受け入れてるしさ。なんだかんだ、あっちからも触れるし……惹かれてるの隠せてない感じ? いやー簡単でいいなぁ、顔が良いとそこらへんラクで」


「顔は僕にも言えることなのだけれど。まぁ、こっちに留まらせることが出来そうなら何よりだ。僕たちが引き留めたとしても、帰るか帰らないかは本人次第だからな。強制した訳じゃないなら、ノウレッジも何も言わないだろう」


「あそこは異世界人贔屓だから」


「この国もその気はあるが……まぁ、尊重しつつ利用しようというのが正しいだろう。国を第一に考えるのは王子として正しいことさ」


「守護獣と話をした異世界人を貰うと幸せになれる、なんて眉唾な噂だけどね。少なくとも俺はあいつと一緒になって幸せになる、なんてのは思い浮かばねぇわ」


「イメージ、というものだ。国民へのアピールでもあるな。異世界人という存在は知っている者は知っている。それになにより、国が公開している情報だからな。いざとなれば囮として利用するという方法も取れる。守護獣に何かれば、の話だが」


「あくまで守りだけだもんな。それにこっちから戦争仕掛けたりしたら守ってくれないし」


「そうだな。しかし、こちらに非がないというのが証明できる。これだけでも強い。……だからこそ、そんな存在と心通わせたというだけで、あの異世界人には価値がある。民衆の心を引き付けるためにも僕か、お前のどちらかが抱え込んだ方が良い。異世界人の出身はほとんど市民らしいし、貴族教育も面倒だ」


「多少なら許容範囲なんだけどなぁ。表に出なければ繕えるし。そういう点でユアンは第二だから予備ってことも考えて、俺が良いってことなんだよな。そんな存在なら妾にするわけにもいかないし、俺の地位は魔法使いとしてのものが強いからなぁ。ほんと、みんな頑張って成長してくれよ~俺みたいに!」


「亀足ではあるが、成長しているとは思うぞ? まぁ、ジン程じゃないと思うが。なんにせよ、留まらせることが必要だ。男であるならば、女を抱かせればよいのだが……女だとそうもいかない。こちらが下手に出て特別であるかのように勘違いさせなければ」


「周りへのイメージ的にも俺が責めた方が傷浅いんだよな、帰られた時の為に。軽薄な分、二人きりの時に見せる差に女は弱いし、ラクなもんだぜ。それにユアンは優しい第二王子のままでいないと面倒だろうし。ま、少し年増だけどどうにかして落とすさ。あと一息だろうしな」


「ふはっ、年増。年増か」


「あっち二十四の、俺十七だぜ? 年齢差ひっでぇっての、なんの魅力も感じないっつーのに。政略結婚とかでありそうな差だわ。立場が欲しい訳だからある意味そうか?」


「あっちからすれば恋愛結婚に見えるのだから、なんとも言えないな。あぁ、いやなら構わないぞ。あくまでイメージとしてってだけだから、帰られたとしても適当に宣伝できるだろう」


「ここまでやっといてそれはねぇよ。別に結婚に夢見てる訳じゃねぇし、お飾りでもあった方が良いだろ」


「それも十年限定だがな。煩わしくなったら、離婚してしまえば良いんじゃないか?」


「言うなぁ、ユアン。でもま、この状況で惚れられたって言うなら大丈夫じゃねぇ? 俺、女に声かけまくってるもん。それに子供作る気もないし、浮気はする気満々だけど」


「外で作られてしまってはこちらも困るんだが?」


「作らない作らない。欲出てきたら、身分隠して娼館とか行くわ。あと、適当に解消する。最悪処分するし」


「割り切っているならいいさ。僕らは所詮国の道具、精々貢献しないといけない」


「分かってるって。だから、人気取りは大事だろ? 早いとこ落としてやらないとな、国の為に」



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