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公務員がアイドルやってもいいですか?  作者: 舞瀬幸宏
chapter-1.デビューステージは基地祭です!
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6.笑顔と苦悩と使える部下と

「はい!瀧本曹長(タッキー)ステップ逆だよー!それから倉田伍長(亜樹ちゃん)サビの手の動きが小さい、それじゃ他の人の動きに埋もれちゃうよ!」

「それぞれ指摘一点!」

振り付け(ダンス)の練習が行われている空きの格納庫に菜月のダメ出しと薫の声が響く。

ミスを指摘されたのは後列一陣の左端にいた瀧本彩夏(たきもと あやか)曹長と菜月と薫が外れたセンターで踊っていた倉田亜樹(くらた あき)伍長。

「ちっくしょーーーー!みんなごめん、次ガンバル!」

「す、すいません!それじゃ……んしょっと」

「亜樹ちゃんいっくよー、いーち!にー!…」

瀧本と倉田がやっているのは指摘一点毎に課せられる腕立て伏せ十回、簡単に言えばミスに対してのペナルティだ。

これは自衛隊から改組された今でも変わる事は無いらしい。


「よぉっし、終わり!次はノーミスでいくかんねー!」

「はぁっ、はぁっ…負けるもんか…もう一回いきましょう!」

腕立て伏せを終えた二人が戦列(ポジション)に戻り、同じ曲が格納庫に響く。

瀧本は一昨年から続けてこの状況(ステージアクト)に参加している為、徐々に勘を取り戻してダンスにも切れが出てきているが、倉田は昨夏この基地に着任してきたのでここまで厳しい訓練(練習)を積んでいるとは思っていなかった。

しかも新人ながら、菜月や薫と同じセンターメンバーとしてのスカウトという事もあり、倉田は歌いながらダンスを覚えるというそこいらのアイドル顔負けの練習を積んでいるのである。


勿論、センターの三人が全ての曲を歌う訳ではない。

だが倉田は物覚えの速さもあり全曲の歌詞を覚え、どんな状況でも歌える様にしていた。

だが、倉田の物覚えの良さを以ってしてもダンスまでは手が回らずに細かいミスを重ねていて、今日の練習で倉田は十セットの腕立て伏せを課せられている。

しかし流石に実戦部隊の第六航空隊の隊員だけあって、体力は普通の女性よりも優れていてこれだけの激しいダンスをしていてもしっかりと体は動いている。


この夜の練習は瀧本と倉田の腕立て以降はミスも無く、何とか終了した。


倉田伍長(亜樹ちゃん)、いきなりセンターメンバーで大変だけど本当頑張ってるよねぇ。」

「い、いえ、まだまだです……細かいミスで皆さんに迷惑ばかり…」

練習が終わって格納庫の壁に寄りかかった状態で、瀧本が倉田に話し掛ける。

この練習中は一切の敬語無し、上官も下士官も同じメンバーとして行動する様にリーダーである菜月がそう決めていた。


「でも、良いんでしょうか……新人の私がセンターで歌うなんて…。他にも凄い先輩がいるのに……」

「あー、それは気にしたら負け。能力を見抜く眼力って言うのかな、菜月さん(キャプテン)薫さん(副リーダー)能力(マニア力)は抜けてるからねぇ。」

「は、はぁ……」

多くの先輩を差し置いて新人の自分が菜月と薫の横に立つがいい事なのかを、倉田は心の中で悩んでいた。

その苦悩にあっけらかんと答える瀧本を倉田は呆気にとられた感じで相槌を打っていた。

「あの二人が認めたんだから、倉田伍長(亜樹ちゃん)は胸張ってメインを張りなさいな……って、よく見たら随分大きいねぇ、何カップよ?」

「へ……た、瀧本さん、どこ見てるんですかぁぁぁ!」

瀧本が出した真面目な回答に続くふざけた質問に、倉田は顔を赤くして恥ずかしがる。

「大丈夫、あたしはノーマルだから。でもその大きい胸は(うらや)ましいぞぉ…はぁ、あたしのももう少し大きくならないかなぁ…」

自分の慎ましやかな(大きくならなかった)胸を嘆きながら、瀧本は危うく掛けられそうになった嫌疑(レズ疑惑)を笑って否定した。


「ねぇ、かおるん。倉田伍長(亜樹ちゃん)(素質)どう見る?」

「んー、かなりいい線だと思ってますよー。最初なんだからこれ位のミスは有って当然だし、むしろここまでやれてる事に期待を持ってるよ。」


瀧本と倉田のやり取りを横目で見ながら、菜月と薫は倉田に対しての印象を話し合い互いに新人の評価を上方修正していた。


「私もそう思う。TKO(TKO48)で新人の(メイン候補)が出て来た時と同じ感じがあったから…うん、やっぱり選んだのは正解だね。後は笑顔だけかなぁ。」

「まぁ、舞台に立ったら裏の苦労は見せずに常に笑顔で演じるのはアイドルの掟みたいなもんだからねぇ。おいおい新規メンバーにも教えてかないといけませんなぁ…」

振り付け(ダンス)がある程度出来たら新規メンバーを呼んで座学でもやりますか…」

昨年からのメンバーは心得ている様で笑顔で踊っているが、今年加わった倉田を始めとする四人の新規メンバーは踊るのが精一杯のようで笑顔など浮かべる余裕は無いようだ。


暫く様子を見つつ新規メンバーへ『アイドルは常に笑顔』と教育する機会を設けようと考える菜月と薫だった。


「それじゃ、次の練習は明後日の夜です!それまでに三曲目と四曲目の振り付け(ダンス)覚えてきてねー!」

「うげー!鬼ぃ!悪魔ぁ!」

「私に死ねというのかぁぁぁぁっ!」

「う、うん、頑張る…明後日は…腕立ての回数減らさなきゃ。」

次の練習予定日を告げた菜月に罵倒八割、やる気を出したメンバー二割の声を聞きながら菜月と薫は格納庫を後にした。


      ◇      ◇     ◇


翌日の昼休み、菜月の所に整備班の若手隊員が来ていた。

「すいません、昼休みに。班長からステージの設営で聞きたい事があるとの事なので…」

「あー、大体解ったような気はしますが……午後いちで班長の所に行くと伝えて下さい。」

「了解、お伝えします。」

若手隊員は確認を取ると菜月のいる食堂から足早に出て行った。

「お昼だってのに…忙しいねぇ、整備班は。」

「わぁ!か、かおるん、いきなり出てくるとかどっかのテレポーターですかっ!」

誰も居なかった筈の机の反対側に薫が来て座っている。

薫の目の前にはしっかりと人気のレディースランチが鎮座ましましていた。

「失敬な。いくら神出鬼没とか言われるあちしでもねぇ、お昼ご飯位食べますよ。」


「ふーん、ステージ設営で解らないってどんだけ無理難題吹っ掛けたんですかい、ナッキーさん。」

「や、やだなぁ。予定してる大きさのステージだと全員乗り切らないから、私達の登場前にステージを拡張して欲しいって頼んだだけなんですけど。」


屋外ステージの大きさは普通のイベントならば十二分の広さがあるのだが、今回の六空女子隊の人数では十分に踊れないことが解ったので横に広げて欲しいと菜月が要望を出したのだ。


「無茶言いますなぁ。あのステージの広さで足りないとか、設営班もとい、整備班が泣きを入れてるのが想像出来るわ。」

「ぶーーーっ!」

薫はレディースランチのデザートを(つつ)きながら菜月に茶々を入れ、当の菜月はその茶々に不服を述べるように頬を膨らませていた。


「失礼します、桜井入ります!」

整備班の待機室に来た菜月は、奥に班長の東出が居るのを見つけて奥へと歩いていく。


「おぉ、女神様だ……」

「いや、残念ながら今年に限っては天使の皮を被った悪魔だ。」

整備班の男性隊員の戯言を聞き流しながら、菜月は班長の前に辿り着く。


「おぅ、桜井。悪いな、呼び出してよ。」

「いえ、寧ろ説明不足だったようで…申し訳ありません。」

班長は菜月に椅子をすすめ、班長の一つ隣の席に座った。


「このプランだとあと両翼五メーターづつ足りない。その分をお前達の出番の前に追加でくっつけてくれ、そういう事か。」

「はい、今年の作戦行動(ステージアクト)は昨年よりも人数を増やしてしまったので…無理を承知でお願い出来ないでしょうか?」

東出は菜月の申し出を理解はしたものの、一時間あるステージの合間にどうやったら女子隊の激しいステージに耐えるだけの堅固な設営が出来るか考えているようだ。


「むぅ、仕方ない。おい、高山!」

考えを纏めた東出が部下を呼ぶ。

「何でしょうか、班長」

「おぅ来たか。去年までの仮組みみたいなステージじゃダメなのが解ってな。ステージの部材総取替えするぞ。」

そう言って東出が呼ばれて来た高山に指示を出し、部下はメモを取って東出に確認を求める。


「確かに、まだ在庫は有ったかと思いますが…班長、本気ですか?」

「基地祭の出来不出来はこのステージに掛かってると言っても過言じゃない。出来るか、じゃない。やるんだ。」

「了解しました。至急不足の部材を調達出来る様、手配に掛かります。」


東出の表情から本気度合いを汲み取った部下は、そのメモを元に部材の調達に掛かるべく自分の机に戻りPCに向き合っていた。


高山(あいつ)はもう俺の元で四年も副長を勤めている。いい加減班長を任せてもいいんだが、どうしても首を縦に振らん頑固者だ。」

机に向かっている高山を見ながら、東出は誰にでもなく呟く。

「でも、信頼出来る副長さんが居るって素晴らしい事だと思いますけど…」

「今年のこの件を乗り切る事が出来るなら、もう十分だ。あいつは上に行くべき人間だよ。」

そう言って東出はいつの間にか運ばれて来ていた珈琲を一口飲んだ。


訓練を行いながら基地祭の準備は進み、基地祭まで一ヶ月。

第六航空基地の周辺もいよいよやってくる年一回の賑わい(ビッグイベント)に向けてその歩調を合わせて盛り上がり始めていた。

今回は主人公以外の登場人物が色々と動く回になりました。

こんな理想的な部下が居ればいいな、と言う自分の願望がかなり混じった感じです。


次回はちょっと基地から離れて、別の世界の人達の表情を伺う事になります。

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