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砂の地平を沈む太陽が赤く染め上げていた。

銅色に輝くその光景は美しく、しかし漠然

とした赤い砂の世界は、終焉を鈴蘭に連想させる。



「世界が滅亡したらこんな感じなのかな」



戦いが終わった後、何柱かの精霊たちが現れ、マリアを

倒した沙華と鈴蘭を見てそれぞれ好き勝手を言っていく

という時間があった。

おそらく永い時の間現れなかっただろう、大アルカナを

行使する人間を見に来たと思われるが、彼らはそれぞれの

思惑を断片的に口にしただけで、明確な言葉を鈴蘭たちに

伝えなかった。

しかしそれでも、そのように精霊たちが呼んでもいない

のに姿を現すという状況は、鈴蘭のこれまでの常識

では考えられないものであった。


変わったのだと、鈴蘭は知った。


もはや鈴蘭は世界の中で生きる無数の中の一人ではなく、

世界そのものに影響を与えるだけの力を持った数少ない

存在となった。

それは鈴蘭にとって、目の前の砂漠のように途方もなく、

不安で……心細かった。



「――全部燃えて、それでも残る光景があるとしたら、

こんな感じかもね」



相も変わらず、沙華はそんな乾ききった言葉を

平然と口にする。

しかし、その後に鈴蘭の方を見て問うのだった。


「怖い?」と。


鈴蘭は迷った末に頷いた。



「何が?」


「……もしこんなふうに世界がなったとしたら、

みんなどこへ行くんだろう?

私はどこへ行っているんだろう?」


「どこにもいかない。だって終わるから。

終わっているから。

それが滅びというものでしょ?」


「……」


「私はそう思ってる。……そう思ってた。

でも――」


「……でも?」


「もしかしたら、鈴蘭となら違う場所に

行けるのかもしれない」



鈴蘭は瞬きを繰り返してその言葉を反芻

しようとした。


私と一緒なら、違う場所に行ける?


私は……どこへ行きたいんだろう?



「……そうだね。そうだといいね」



わかったような気がした。


「滅びだけじゃ、終わらせない」


世界を滅ぼすこと、それはもう否定しない。

だけど滅ぼして終わりにはしたくない。

それはあまりに罪深く、悲しいから。

――大好きな人に、そんな運命を背負わせ

たくないから。



「まあ、私はどっちでも良いんだけど」


「……えー?」


「でも、鈴蘭には私が想定していなかった

世界を私に見せて、私を愉しませる義務がある

と思うんだ。

だって――私の唇を奪ったのだから」


「――!?」



鈴蘭は喫驚した。


「な、な……あ、あれは……!」


「あれは……何?」


そう問いかける沙華の口許には、僅かながら

ほほえみが浮かんでいた。

悪戯っぽく、艶めいた微笑。

それは少女らしくもあったが、鈴蘭の知る沙華

にはなかった、鮮やかな表情であった。


――どうして、そんなふうに笑うの?


どうしてそんなふうに笑えるようになったの?


力を、自分を、解放することができたから?

それとも、私の影響なの?



「……ふふ」



そして、戸惑う鈴蘭をさらに混乱させる、艶やかな

笑いを見せる。


「いいよ。今は聞かないであげる」


「……いや、だった?」


たとえ同性でも、好きでもない相手にそんなことを

されたら嫌だろうと、今更ながらに問う、が。


「……知らない。答えてあげない」


少なくとも鈴蘭には不快感を欠片も見せない、楽しげで

謎めいた笑みを浮かべるだけだった。


かなわない、と鈴蘭は思った。


けれどそれでいい。

そんな超越的な彼女が鈴蘭は好きで、

そして危うく脆い彼女を鈴蘭は護りたい。






――好きだよ。






滅びを予兆させる――いや、どんな形であっても滅びを

約束したこの時の中で、鈴蘭はただ一人の少女への

恋の言葉を胸に囁くのだった。






(終わり)

次回あとがきです。

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