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"1st - Igni-Flame"
沙華の腰から落ちた数札は、薄紙のように彼女の魔力の
中で燃え落ちた。
足から炎をが吹き出し、その推進力で杖を突き出し
ながら突進する。
『――!』
マリアの展開する防壁に衝突する瞬間、
彗星のような炎が沙華を包み、衝撃を撒き散らす。
「まだまだ行くよ……!」
"2nd - Kaiser Sword"
防壁に押し当てられ火花を散らしている炎珠から
魔法陣が展開する。
はじめの魔術の推力はまだ落ちていない。
まだその魔術は実行されているから。
それにも関わらず次の魔術を実行するその技は。
「並列術式実行……、
それにあれは、収束魔砲と密着砲撃――」
どれもが達人級の魔術。
それらをすべて同時に利用するなんて、
沙華の魔術スキルと魔力のキャパシティは
どうなっているのか。
『この力――大アルカナを既に持っている……?
いや、違う――』
「さあ……? どうでもいいじゃん。
それより、もっと……もっとだよ!」
『A――AAAAAAA!』
魔砲の衝撃が爆発する。
密着状態で放たれた魔砲は防壁を容易く打ち砕き、
マリアの金色の巨体を大きく吹き飛ばした。
凄まじい一撃だと鈴蘭は思った。
鈴蘭が立ち竦むしかなかった精霊相手を吹き飛ばした。
このまま攻撃を続ければ勝てるのではないだろうか?
『憎悪を昇華できないのですか、憐れな娘』
そう、黒い炎は彼女の中で燻る憎悪。
未だ不完全燃焼。
温度は低く、沙華はすすに塗れるだけ。
「……これ、から……。
まだまだ……これから、もっと、燃える……!」
これが限界ならば、沙華にとって戦う意味は無い。
すべてを焼きつくす。
浄化する。
"3rd - Union Explosion"
燃え尽きるアルカナと共に現れる3つの炎。
その色は紫、緋、そして赤。
3つの炎の玉がぶつかり――爆ぜる、その色は、
『な、に――これは、まるで明けの明星――!』
「そうだ、もっと、もっと――!」
黒から赤、そして白、金。
星のごとく輝く炎を纏いながら、沙華は
更なる魔術を放つ。
"4th - Exhausting"
『この――SAAAAAAAAA!』
砂が融けて溶岩になり、それすらも燃えて
気化するほどの熱が発生する。
精霊はその程度では燃えたりしない。
けれども恐るべき沙華の強烈な魔力を前に、
マリアは猛るように腕を振って攻撃を繰り出した。
「――あは」
沙華は避けて、攻撃の隙をついて宝杖を振る。
沙華の攻撃はマリアの防御結界に防がれる。
だが、構わず叩く。
叩く。
叩く。
執拗に攻撃を繰り返す。
その狂的に純粋な闘争行動は無邪気にすら見えて、
愉しそうだった。
現に、彼女は笑っていた。
それほどまでに愉しそうな沙華の笑顔を、
鈴蘭は見たことがなかった。
解き放たれつつあるのだ。
解き放ちつつあるのだ。
今まで押し殺してきた、憎悪を破壊衝動を。
それがあなたにとっての救いになるの?
だとするならば、鈴蘭は沙華の勝利を祈るしかなかった。
精霊を服従させるためではなく、
ただ、彼女の魂の解放のために。
『……どうやら、貴女を魔神級の敵性体と
認めたほうがいいようですね』
十数合の打ち合いの後に、やおらマリアは言った。
その時、空から光の柱が落ちてきた。
衝撃だけではなく、大地を融かし穿つ灼熱のレーザー。
沙華は回避と爆炎による反応結界を併用してそれを防ぐ。
「……衛星兵器?」
『背徳の街を焼きつくし、直撃しなくとも対象を塩の柱に
変える断罪の炎です』
「その力は、世界を創造した神の力だと聞いているけど」
『当時は、そのときの人間がエテメンアンキを起動させて
使用したのです。
今、私が使うのはエテメンアンキから借りる力。
しかしそれでも、貴女一人を滅ぼすには十分な兵器ですよ』
何本ものレーザーが、雨のように降りそそぐ。
時によけ、時に魔術をぶつけ相殺しながら沙華は応戦する。
それは、これまで鈴蘭の見てきた、
いかなる戦いと次元を異にする、神話級の戦闘。
鈴蘭は自分を守ることで精一杯だった。
そして、沙華の勝利を祈ること。
沙華は獰猛に戦った。
沙華の魔力をもってしてもマリアの結界を打ち砕く
ことはできない。
それでもマリアは目に見えて焦っていたから、
繰り返していれば沙華の牙が敵の固い皮膚を破って
喉笛を切り裂くかのように思えた。
しかし――その闘争は止められる。
赤い靴を履いたなら、足を切らなければ止まれなかった
ように、沙華の右足が光に貫かれて蒸発した。
炎の海に沈む少女。
両手をついて起き上がろうとするが、
尻を下にして、かろうじて上半身を起こすのが限界だった。
「8th - Fire St...っ、がぁぁぁぁ!!
杖の8を切って、移動補助の魔術を発動させようとした沙華。
しかし炎が彼女を包んだ時、
右足の切断面で炎が制御不能になり、肉を炙った。
「……あはは、なるほど、
この状態になるとさすがに身体にダメージがでるのか」
『恐ろしい娘……、
たとえ拡散する光では塩化しなくても、
直撃すればいかなる魔術士といえ塩化するはずです。
それでもなお、塩化を抑制するとは、
貴女は本当に――何者かの精霊の加護を?』
「詳しいことは知らないよ。
私が教えて欲しいぐらい」
『……知る必要はないでしょう。
娘、貴女はここで眠りなさい』
マリアが金色の腕の突きを放った。
沙華は杖を構え魔砲を打つが、
収束もしない砲撃は、容易く切り裂かれた。
その瞬間、沙華は無防備だった。
何度も精霊と撃ちあった彼女だが、
今、攻撃を受ければ死ぬ――!
「だめ――!!」




